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「二回戦~決勝」/eJudo版・令和2年全日本柔道選手権予想座談会「『令和最初の全日本』を語りつくす」(下)

今年はオンラインでの開催。上段左より林毅氏、司会の古田、下段左より朝飛大氏、西森大氏。収録は12月9日に行われた。

古田 「私の全日本選手権『ベスト一本』」「大会のみどころと注目選手」、そして「一回戦」とここまでお話頂きました。間を置かずにさっそく二回戦に入らせていただきます。皆さま、今回も長時間お話頂くこととなり大変恐縮です(現時点で約3時間経過)。…でも間延びしている感じとかがないのが恐ろしいですよね。

西森 そもそも例年より選手の人数が多いですからね。

二回戦

第1シードは連覇を狙うウルフアロン。1月に膝を手術して以来、これが初めての試合。

ウルフアロン(推薦・了徳寺大職員) - 藤原崇太郎(推薦・日本体育大4年)

古田 それでは二回戦第1試合、いよいよ第1シードのウルフアロン選手が登場します。相手は藤原崇太郎選手と予想。豪華カードです。

西森 ウルフ選手は藤原選手の小細工というか、インサイドワークを許さないでしょうね。厳しい試合をしてくると思います。このところ怪我も増えてきているので調整がどれくらい出来ているかというところはもちろんあるんですが、やっぱり強さはもちろんのこと、柔道が厳しいですよね。非常に。この大会のライバルとなる超級選手たちと比べると、100kg級という階級特性がそうさせるのか本人の資質なのか、非常に厳しい柔道、相手の急所にズバッと斬り込んでいく柔道ができます。そのやり方を考えると、藤原選手にそもそもチャンスを与えないかなと思います。

朝飛 全く一緒です。ウルフ選手の凄いところは上手い選手、去年の加藤選手みたいに色々なとこに罠があるような選手が相手でも、絶対に失敗をしないというか、組み手の強さと落ち着いた試合運びで要所を潰し、ここだというところにバチッと掛けることができる。本当に隙がない。藤原選手も上手いですけど、その力を出せないと思います。…また、ここがウルフ選手の凄いところなんですが、そもそも東京五輪の代表選手なのにも関わらず、この舞台に出てきましたよね。たぶんこういうところで上手くいかないところも勉強しておかなきゃいけないと、そこまで考えていると思うんですよ。

林 ウルフ選手と話をするとものすごく面白いんですね。彼は柔道が好きで、常に柔道のことを考えている。試合についてもミクロとマクロ、その1試合のことも考えれば、その後の試合、決勝までどう戦うかということも考えている。その中で、特に1試合目の入りをものすごく大切にしています。その日の調子、どれだけ戦えるか、なおかつ気持ち的にも良い勝ち方が出来るかどうかで、その後がどのくらい変わるかを良くわかっていてしっかり取りに来る。西森さんと朝飛先生の言ったとおり、藤原選手に柔道をさせないと思います。それでしっかりと勝つ、そういう厳しい試合をすると思いますね。

古田 組み方としては深く持って藤原選手にスペースを与えないという予想で良いですかね。

朝飛 藤原選手は2階級下ですよね。去年の加藤選手との試合を見ている限り自分より階級が下の相手では、首の横の圧が強い持ち方、少し手首が立っていて相手の頭が上がらない状況を作って、それが上がってきたら支釣込足。そして小外掛に行くぞと見せておいて、相手の逃げ方によって大外刈か内股。さらに釣り手で背中を持ったら体落気味の、前にずらすような内股ですよね。どの方向でも当てはまるような技を持っています。ある意味昔の石井慧選手みたいな感じで相手と状況によってやり方を変えて、絶対に無理はしない。そしてここだと思ったらちゃんと勝負するという感じですよね。

林 相手の良い部分を潰し、相手の良い形で試合を進める場面は作らない。

西森 またそれが消極的ではないんですよね。去年の準決勝が端的だったと思うのですけど、ウルフ選手の方から先手を取ったことで小川選手は良さが出せなかった。

古田 仰る通り、ウルフ選手の組み手の「消し方」は、リアクションでなく能動的です。

林 あの試合は小川選手が上から掴むのを完璧に阻止して、上から持たせない。あとは相手のことを良くわかっていて、スタミナがあるようで実はスタミナがないと読んでいた。スタミナは俺の方が上だと。だから持久戦もできるという前提で戦っていたんですよね。

古田 ウルフ選手は膝の手術をしてからこれが初めての試合になるはず。そういう意味でも注目ですよね。手術前も、無差別のときと体重別の時で受けの感覚が違って来ていたり「フィーリング」という部分での繊細さを見せていました。それが、手術をして1年経っての初試合となるわけですから。

西森 不安要素があるとしたらそこですよね。試合勘であったり、怪我の治り具合とか、そもそも不安を感じることでのメンタルへの影響というところですね。

朝飛 指導者的な立場というと偉そうかもしれませんが、上水(研一朗)先生と去年話してみて思ったのですが、もし仮にウルフ選手と藤原選手が競って競って最後にGS延長戦で勝つような接戦になったとしても、上水先生はあれで良かったんだぞ、あれがベストだったんだぞ、と言い聞かせると思うんですよね。だからその後の試合がどんどん良くなる。調子が良くないと思わせないままずっと持っていくのが上手い。ですからこれがどんなに長い試合になっても戦うごとにだんだん調整がついていって、最後は本来のウルフ選手の力が出せていく気がします。

古田 不確定要素はあれど、事前予想としてはウルフ選手の勝ち上がりとさせて頂いて次に進みます。

石内裕貴得意の足車。長澤憲大の巧さの前にこの技を振るう機会は訪れるのか。

石内裕貴(九州・旭化成) ― 長澤憲大(推薦・パーク24)

古田 二回戦第2試合。石内裕貴選手と、対戦予想は長澤憲大選手です。面白い。100kg級の本格派に、相手の良いところを消すのが上手い90kg級のインサイドワーカーがマッチアップします。

西森 ケンカ四つなんですよね。長澤選手が相手の良いところを消すのが上手いんですが、なんと言っても石内選手の独特の足車。この間の講道館杯でも国士舘大の山下魁輝選手をものの見事に投げ飛ばしましたが、あの技が出るかどうかに注目しています。出させなければ長澤選手に分があるとは思いますが。

林 講道館杯の初戦では、そのまま決勝まで勝ち抜いてしまうのではないかというくらいの勢いを感じさせました。この試合、石内選手にとっての第1試合というのも僕は良い気がしますね。

朝飛 石内選手は力強いだけでなく上手いんですよね。相手が小さくても、それでも自分の良さを出す術を知っている。ちょっと小さすぎるかも知れませんけど、全日本の舞台では髙藤直寿選手とも試合をしています。ケンカ四つも上手いですし、やっぱり石内選手の良いところが出る気がしますね。でも長い試合になって疲労が溜まる展開になると、長澤選手が勝つ気がします。

西森 学生時代に最長試合を演じた選手ですからね。

林 釘丸太一選手とでしたね、本戦とGSでたしか21分近く…。

古田 長澤選手の試合を見ていると、たとえ相手の方が強いとわかっていても負けることができないといいますか、自分の持っているものを出している限りは、たとえ勝てなくても負けることも許されないというような柔道ですよね。シナリオ進行上、どんなに細かい分岐点にも反抗ポイントがあるので、変な言い方ですが、なかなか負けに辿り着くことが出来ない。

西森 作陽高校時代の刷り込みを感じます。

古田 高校時代の後半は、相手の良いところを消すメソッドに長けた作陽高校で鍛えられながらも技一撃が強い、ちょっと異彩を放つ攻撃型の選手でした。それでも、東海大1年時に彼を団体戦に起用した上水監督に話をお聞きしたら、その段階で既に団体戦では一番信頼できる選手なんだと仰っていましたから。

西森 1年というと日大と決勝をやったときですよね。絶対に分けなければいけない場面でピタッと分けて帰ってきますからね。

古田 1年生なのに、ここで止めなければという重要ポジションに起用されていましたからね。勝負どころも見えるし、そこでどう振る舞うべきか、考え方と実践の仕方を高校時代から叩き込まれている。

西森 とはいえ、勝敗でいくと石内選手かなという気がしています。朝飛先生仰る通り、長引けば長澤選手の流れになってくるとは思いますけど。

古田 これも面白い試合なら石内選手、見た目地味な試合なら時間経過とともに長澤選手に分が出てくるということですね。ここでは進行上、石内選手を推させていただきたいと思います。

まだ大学2年生ながら存在感抜群、中野寛太がここで登場。

中野寛太(近畿・天理大2年) - 小林悠輔(東京・旭化成)

古田 では二回戦第3試合、中野寛太選手に、小林悠輔選手が上がってくるとの予想。

朝飛 これも面白いですね。

林 小林選手の技が、中野選手に通用するか。 

西森 ちなみに中野寛太選手もまだ全日本では勝ち星がありません。

古田 まだ大学2年生。若いですからね。

西森 存在感は年齢以上。先日の講道館杯を見て、力がついているんだなと思いました。太田彪雅選手、佐藤和哉選手、香川大吾選手と錚々たるメンバーと全部GS延長戦をやって、太田選手と香川選手には勝つわけですからね。しぶとく戦える力がついて来ている印象ですね。

古田 かつてのぽんと一発というイメージに加えて、地力自体がついてきているということですね。

林 一発の強さ、あの体型、天理大となると、村元辰寛さんが20歳で準優勝したときを想起してしまいます。

西森 ここを勝ったとしても、この山の出口にはウルフアロン選手が待ち構えています。簡単ではない。

朝飛 ウルフ選手との戦い。かつての5分とか6分で僅差ありのルールだったら中野選手がその間攻めて判定で勝つという可能性も考えられますけど、今だと例えばウルフ選手を相手にそういう試合が出来たとして、そこからさらにGS延長戦が始まるわけですよね。するとやはり緻密な戦い方をする方が勝ちますよね。ウルフ選手はまさに、緻密ですよ。

古田 そもそもその前に熊代選手がいる山を越えねばなりませんし。…話をこの試合に戻しまして。林さんがあの頃の村本さんにイメージを重ねているということは、小林選手が足技に組み手とインサイドワークをしっかりやって状況を作ろうとするも、それでも中野選手が一発、衝撃自体の強さのある技で持っていくというような見立てをお持ちということでよろしいでしょうか。

林 はい。一撃必殺という天理の柔道の強さが、出る気がします。

古田 かねて我々は、伝統的な良い天理柔道の具現者、依代として彼のことを見て来た来歴がありますからね。それでは講道館杯の勝ち上がりで見せた地力も勘案して、この座談会としては中野選手の勝ち上がりを推しましょう。

昨年100kg超級に階級を上げて講道館杯を制覇、「オーバーサーティ」で国際舞台への復帰も果たした熊代佑輔。

熊代佑輔(東京・ALSOK) ― 野々内悠真(関東・京葉ガス)

二回戦第4試合は熊代選手と野々内選手の一番です。熊代選手はここからの登場、野々内選手は1試合をこなしている形ですね。

林 ここは熊代選手でしょう。

西森 熊代選手も講道館杯を回避しましたよね。体調、怪我の有無などコンディションが気になるところとではありますが、実力的には熊代選手が上だと思います。

古田 一回戦のときに野々内選手はやるべきことをきちっとやれると話しましたが、熊代選手はそういう選手の上を行くのがとても上手ですからね。

朝飛 どんな技を見せてくれるのかという部分でも楽しみですよね。

林 いま仰られたように熊代選手といえば、左右厭わぬ技や意外性のある技と技術面の面白さが大きな魅力なわけですが、ウルフ選手に聞くと、とにかく熊代選手はフィジカルが強いんだと。

古田 なるほど。確かに超級に上げてから骨ごと太くなったというか、フィジカルの強さが増している印象です。以前は巧さはあるけど線が細い面がありましたが、今は一撃一撃がすごく重たいですよね。

林 そんなに大きくなさそうに見えますが、体重も120キロあります。

朝飛 最近は明らかに大きいですよね。

古田 イメージは、戦車ですよ。むしろ。

西森 野々内選手のベースがやるべきことをきちんとやる崇徳高メソッドであるという話がありましたが、つまり柔道的にはすごく常識的な選手だと思うんですね。でも熊代選手はその常識の外側から来るから、やっぱりなかなか対処しづらいところがあると思います。

古田 「破れ」がありますよね。加えて技の威力も戦車並み。それでは熊代選手を推させていただきます。この熊代選手の存在がトーナメントの行く末に与える影響、大きそうな気がします。

悲願の初優勝を目指す小川雄勢。

小川雄勢(東京・パーク24) ― 後藤龍真(東京・東海大4年)

古田 二回戦第5試合は小川雄勢選手と後藤龍真選手。これも面白いですね。

西森 勝敗といえばそれはもう小川選手だと思うんですね。講道館杯は3位でしたが内容は決して悪くありませんでした。むしろ個人的な興味としては後藤選手が小川選手にどこまでどういった手立てで挑むか、所属の上水監督がどのような手立てを授けるのかというところですよね。

朝飛 小川選手にとってはやりにくい相手ではないですよね。奥も叩きやすいと思います。ポイントは左相四つで後藤選手がどれだけ小川選手の釣り手、圧力を阻止できるか。もしそれができれば面白い戦いになると思います。後藤選手が筑波大学戦で関根(聖隆)選手と戦ったときに、関根選手が襟だけ持って背負投に入るのが上手、それをどうやって阻止するのかなと思っていたら、相手が両襟を持ったら自分も両襟を持って相手の体を回さないというのをきちんとやっていて、この選手は相手に合わせて組み手を変えられるんだなと思ったんですね。彼が小川選手の釣り手をどこまで落とせるか、間合いをどれだけ取れるのか楽しみですね。…でも小川選手の圧力は相当なものがありますからね。

林 後藤選手は足技も切れるのですが、それを小川選手がリーチと上半身の力、組み力で包み込んでしまうのではないでしょうか。

古田 林さんの見立てに賛成です。後藤選手は確かに巧いのですけど、持っている足技と小川選手のサイズ感はいまひとつ噛み合わない気がします。講道館杯の2人の出来から補助線を引いても、小川選手が勝ち上がる可能性が高いと思います。ここは小川選手の勝ち上がりとし、西森さん仰って下さった後藤選手の面白い試合運びに期待というところをみどころと定義したいと思います。

講道館杯では100kg級で2位、柔道に円熟味漂う西山大希。

西山大希(東京・日本製鉄) ― 西本幸弥(九州・福岡県警察)

古田 二回戦第6試合は、西山大希選手と、西本幸弥選手の対戦です。

西森 西山選手は講道館杯の勝ち上がりを見ていて、こういう試合もできるようになったのだなと感じました。決勝までの全試合がGS延長戦の「指導3」。

林 奥行きのある試合をするようになりましたよね。すべての試合で自分より若い相手をねじ伏せるというか、競り勝つというか、そういう勝ち上がりでした。

古田 姿勢が良くて組み手も王道なんですけど、きちんと相手に圧を掛けて嫌なところを押し付けていく。かつては切れ味勝負で、投げの威力で世界選手権で銀メダルを獲った、その一方で粘り合いにあると淡白な印象。ワールドツアーメンバーから落ちたきっかけも、ドイツのエドゥアルド・トリッペルに粘着されての根負けが端緒でした。そう考えると味というか、年輪というか、林さん仰る通り、奥深い柔道をやるようになったと思います。

林 階級を上げて実に味のある良い選手、見たい選手に仕上がってきた感じです。

朝飛 西山選手は支釣込足。もちろん切れ味のある大技もありますけど、この足技の強烈さがポイントです。西本選手はなかなか間合いを詰められないのではないでしょうか。

古田 西山選手と稽古している人たちは、内股や大外刈の大技よりも組みに行ったときの支釣込足が怖いと言っていましたね。西本選手は体の力がベースで密着が欲しい柔道でしょうから、この支釣込足の前になかなか力を出させてもらえない気がします。それでは西山大希選手の勝ち上がりを推したいと思います。

第1シードで臨んだ講道館杯を制覇、好調のまま全日本の畳に乗り込む影浦心。

影浦心(推薦・日本中央競馬会) ― 制野孝二郎(東北・皇宮警察本部)

古田 二回戦第7試合、影浦心選手に、制野孝二郎選手が挑みます。

林 しっかり力を出せれば、影浦選手が手堅く勝つと思います。

朝飛 制野選手が背中を持って小外掛狙いみたいな型の柔道をするのかと思いますが、影浦選手はこれを持たせたとしても、背中を外して綺麗に背負投に入れるような気がしますね。真正面に投げるかちょっと裏気味に投げるか、いずれにしてもきちっと入れると思います。背中を敢えて与えるかもしれませんし、例えばわざと相手の手を中に入れて「韓国背負い」風というのもある気がします。

西森 制野選手は割と低く構えますけど上背はあるので、影浦選手が上手く担げる気はします。それに朝飛先生が仰っていたとおり、相手が背中を持ってきていても柔らかい感じで距離を取りながら、最後は担ぐという形になる気がしますね。

古田 制野選手が圧を掛けなければならないのですが、上から持っても横から抱えてもそれ自体が背負投のスイッチですからね。ここは影浦選手の勝ち上がりとさせていただきたいと思います。

2015年アスタナ世界選手権100kg級の覇者・羽賀龍之介。

羽賀龍之介(推薦・旭化成) - 七戸龍(九州・九州電力)

古田 さて、二回戦第8試合、羽賀龍之介選手対、七戸龍選手です。ハイライトの試合の1つです。

朝飛 私ここは急に喋らなくなります(笑)。それにしてもこのブロックは凄い。影浦選手は五輪の補欠選手ですし、羽賀選手は個人戦の世界王者ですし、七戸選手は団体戦の世界王者で個人戦の銀メダリスト。この小さな山にこれだけのメンバーがいるわけですからね。

ともに「ロンドン-リオ期」の日本重量級を支えた盟友・七戸龍が迎え撃つ。

西森 この2人は2014年の全日本選手権で対戦していて、そのときは七戸選手の小外刈で羽賀選手が尻餅をつくような形になって「技有」。それで七戸選手が勝利しています。…プライベートでも2人は仲が良いんですよね。

林 川端龍さんを含めて「三大龍」ですよね(笑)。

西森 そういう意味では本人たちも2人にとっての集大成にあるような一戦にしたいという思いがあるでしょうし、見る方も期待してしまいますよね。

林 もう少し上の方で見たかった試合。2人ともきれいな柔道をする選手なので、良い試合をしてほしいと思います。正直に言いますと、どっちが勝つとか、あまり考えたくない試合ですね。この大舞台で、乱取りをやるような、2人が持っている技を掛け合うような試合が見たいなあ。

古田 それは当然見たいですしもしそうなったら最高ですが、勝負は勝負ですからね。…七戸選手としては、どちらも技が出せる近い間合いというよりは、自分だけが攻めることの出来る、より遠い間合いで勝負したいと考えて良いですかね。

西森 本質的にいうと七戸選手はあまり組み合いたくないタイプですからね。組み合うとやっぱり不安はあると思います。ケンカ四つということもあるので、どちらかが持った瞬間に技を出すという感じでしょうか。なんとなく僕は羽賀選手のほうが分が良いのではないかという印象を持っています。

古田 私もなんとなく同じことを思っているんですけど、それがどういうことなのか、言葉にするのに苦慮しています。そろそろ朝飛先生にお話しいただいて…。

朝飛 これぞ柔道という試合を見せてほしいです。この2人が組み合って技を出し合ったら本当に面白い試合になるんじゃないかと、ここですり減ってしまっても良いので、そういう試合をして欲しいと思いますね。この大舞台での直接対決、2人ともこんなチャンスはないだろうから、意地で戦ってほしいです。

七戸の武器は長い手足。相手には届かぬ遠い間合いで勝負出来る。

古田 どちらも釣り手一本の形になると七戸選手の方がより崩しやすいような気もします。片手の大内刈とか。そんな展開にはならないですかね。

朝飛 七戸選手は組み際の大内刈とか体落が上手いので、それはそういう展開になると思います。反対に羽賀選手の方はやはり両方持ちたいですよね。

古田 皆さんの1回戦の見立てを利用して整理してみます。皆さん七戸選手の「優しさ」とスタミナの不安を挙げておられましたね。

林 はい。そこは全員同意なのではないでしょうか。

古田 技術だけで言えば釣り手一本からでも遠間からでも攻められる七戸選手が優位のはずなんですが、彼の優しい性格と、仲の良い羽賀選手と大舞台で集大成を演じたいという無意識の前提で、ある程度組み合ってお互いの良さを出し合うという展開は考えられます。

羽賀得意の内股はバリエーション多数。体重別では見せられぬ「対大型」モードの技が飛び出すか。

西森 そうなると、組み合っての駆け引きという部分でも、スタミナの部分でも羽賀選手が有利になって来そうですね。

古田 もともと七戸選手は一方的に組んで圧殺、あるいは遠間から引っ掛けるというやり方が主戦場ですから、羽賀選手のような強者と組み合う展開は決して得手というわけではない。もし一方的な組み方で勝負に徹した場合でも、スタミナを考えると、序盤でポイントを奪わないといけないわけですが、

林 羽賀選手から、この戦い方で早い段階での得点が望めるかというと、確かにハードルは高そうですね。

西森 仕留め切れないと、消耗したところで羽賀選手が前に出て、試合を持って行ってしまそう。

古田 ある程度コンセンサスが得られたようですので、ここは羽賀選手の勝利を推しておきたいと思います。

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