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「一回戦」/eJudo版・令和2年全日本柔道選手権予想座談会「『令和最初の全日本』を語りつくす」(中)

一回戦

推薦選手の藤原崇太郎がオープニングを飾る。 2018年バクー世界選手権81kg級銀メダリスト。

藤原崇太郎(推薦・日本体育大4年) – 田中大貴(近畿・日本製鉄)

古田 藤原選手対田中選手。オープニングゲームからこの豪華カードです。大変な全日本ということがわかりますね。81kg級の藤原選手に対して重量級の強者、体重125キロの田中選手。皆さんどのように読まれますか?

朝飛 田中選手は実力者。相手にプレッシャーを掛けながら出てくるところを足車、払腰で取る試合が多いですよね。でも藤原選手はその圧を反らすことができると思います。攻めの速さで藤原君がペースを掴むかなと思います。

迎え撃つは5度目の出場、体重125キロの田中大貴。

古田 体重別の戦いだと皆さん忘れがちですが、もともと藤原選手はかなりのインサイドワーカーですからね。

西森 大きな構図で言うと、まさに体重別の代表選手、次の五輪を目指す新鋭の藤原に、全日本のもはや門番と言っても良いでしょう、初戦は必ず突破してくる力を持つ田中選手が立ち塞がる。非常に全日本的な一戦になると思います。ただ、田中選手は結構ベテランになってきていますし、同じような重量級には得意の足車等を活かして勝てるのですが、藤原選手のスピードにどれだけついて行けるのかとなると少々読めないところがありますね。ただ、日本製鉄は近畿予選で非常に多くの選手が勝ち上がって来ており、コロナ禍以降はどうかわからないですが、結構しっかり練習を積んでいると思います。チームとしての勢いがあります。楽しみな試合ですね。

林 日本製鉄、おそらく近畿から出て来ている選手たちは一緒に練習していると考えられます。この大会はチームによって練習の事情がかなり違うので、そのあたりは大きなポイントですね。…田中選手は大学時代は大怪我でほとんど棒に振ってしまったようなところがありますよね。早い段階で怪我をして、復活できたのは4年生になってから。実力からすればもっと上に行っても良い選手ではないかなと思っているのですけど、なかなか2回戦を突破できていない。初戦は藤原選手ですけど、彼が持っているポテンシャルを存分に発揮して勝ち上がってほしいと思いますね。藤原選手はもちろんですが、田中選手にも頑張ってほしい。

古田 西森さんが仰った通り、重量級同士だとお互いの重さを利用する形で彼の得意な足車が効くと思うんですけど、藤原選手のスピードとインサイドワークを突破するだけの緻密さがあるのかとなると少々疑問なところはあります。さりとて藤原選手がどのように勝つかというと、これもなかなか出口が見えないところがある。

朝飛 藤原選手が所属する日体大には、小嶋洸成選手とグリーンカラニ海斗選手、1年生にその世代のトップレベルの重量選手2人が入って来ています。藤原選手は練習相手として、こういった重量選手とかなり稽古をしますし、かつての飯田健太郎選手との試合でも、懐の深い相手に出たり入ったりと非常に上手さを見せていました。担ぎも出るし足も利く。田中選手の圧力は簡単には崩せないと思いますが、足を使って疲れさせて、後半のここぞで上手いところを突くという作戦になるのではないでしょうか。

西森 ちなみに田中選手は全日本選手権に過去4回出場で、4勝4敗。敗れた相手は七戸龍選手、香川大吾選手、小川雄勢選手、原沢久喜選手。すべて相当のレベルの相手ですよね。一方で勝ったのはまず2015年に東北の野島恒久選手、2016年は1回戦で広島の上原将吾選手、2回戦で長澤憲大選手に勝ってベスト16入り。2018年は東北の増子雄太選手に勝っています。ですから地方から挑んでくる選手にはしっかり勝っているわけです。敗れた4試合も七戸選手に投げられた以外は全部僅差ですから、田中選手を崩すのは相当に難しいと言えます。

朝飛 しかも初戦ですからね。

林 ただ藤原選手。同じ階級の選手との試合ばかりですが、高校時代は大きな選手を相手にガンガン勝っていましたからね。

古田 加えて講道館杯では日体大の選手は皆調子が良くて、稽古が比較的良くできているなと感じました。皆さんの話を総合しますと、外から見て面白い試合だったら田中選手、序盤戦がある意味つまらない試合だったら藤原選手のペースですね。この座談会は便宜上必ず勝者を決めていく形式ですので、ここは苦戦なるも藤原選手の勝ち上がりということで次の試合に進みたいと思います。

長澤憲大。初戦は身長190センチの山本考一を畳に迎える。

長澤憲大(推薦・パーク24) ― 山本考一(東海・株式会社オネスト)

古田 90kg級の東京五輪代表補欠・長澤憲大選手と東海地区代表の山本考一選手の試合です。山本選手は身長190センチの長身を誇ります。

西森 近畿大学の出身で以前は日本エースサポート所属。左組みで背が高く、2017年に富山県で行われた全日本実業団体対抗大会で日本エースサポートが2部で優勝を飾ったときに、ポイントゲッターとして活躍しました。一昨年から株式会社オネストに移り、2018年には全日本実業個人の100kg超級で2位になっています。この時は準々決勝で先ほどの田中選手に勝ち、準決勝で黒岩貴信選手に送襟絞で一本勝ち、決勝で尾原琢仁選手に大外刈で敗れました。しっかりした実力を持っているということですね。対する長澤選手。凄いのは90kg級ながらも東海大のレギュラーを1年から4年まで張ったということですね。ですから重量級との戦いは苦にしないと思います。もちろん山本選手は実力者ですが、長澤選手がここも上手く抑えてくるのではと思っています。

朝飛 仰る通り、長澤選手は強さプラス相手の良いところを出させない上手さがありますよね。団体戦でも必ずここをどうにかして欲しいというところをどうにかしてしまう。東海大時代、団体戦で筑波大の長倉友樹選手と戦ったときに、最後の最後に組み際の片襟の大外刈で投げて抑え込みまで持っていった試合は特に印象的でした。

古田  2015年の学生優勝大会決勝戦ですね。1点ビハインドの三将戦、このまま終われば勝負がほぼ決するという残り20秒からしぶとく投げて、しかも抑え込んで「一本」を取り切りました。

朝飛 本当に色々なところに目がついていて今はどうすればよいかを徹底できる選手。私も、山本選手の強さを出させないまま、長澤選手のペースで試合が進む気がします。

林 大方異存はないです。大きい選手の圧力に対する強さもあります。

古田 長身選手という意味ではそれこそ身長193センチの近藤弘孝選手と同じ大学でバリバリやっていたわけですからね。それではこの試合は、山本選手強者なるも相手の長所を消すのが上手い長澤選手を倒すにはそれに倍する力が要るということで、長澤選手の勝ち上がりとさせていただきます。

小林悠輔。今年は東京選手権で2位入賞し、2度目の本戦進出。

小林悠輔(東京・旭化成) ― 五十嵐遼介(北信越・新潟県警察)

古田 では第3試合、小林悠輔選手と、北信越から初出場の五十嵐遼介選手の試合です。

西森 小林選手は最初に出たのが2013年、筑波大2年生のときです。そのときにもう1勝を挙げているんですよね。この人は投げ力があるので無差別でも強いですよね。東京予選が今年2位で、準決勝で熊代選手に払腰で一本勝ちをしています。5回戦では100kg超級学生王者の木元拓人選手に勝っていますから、重量級の選手とも伍してやれる力があるわけです。

朝飛 全く同じです。そして組み手の緻密さというか、特に右組みの相手に対して、本当に左手の使い方が上手いですよね。選抜(※2017年全日本選抜柔道体重別選手権)でベイカー茉秋選手と戦ったときもこの巧さのために、ベイカー選手が右手をなかなか使えず、そのうちに怪我をしてしまったという試合でした。重量級相手にも同じように、組み手の上手さをテコに自分の力を出し切るのではと思います。

西森 一方で五十嵐選手にもすごく頑張ってほしいと思います。32歳で初出場。北信越予選ではオール一本勝ちなんですよね。初戦で去年出場した北山彰選手に大外刈「一本」、次がGS延長戦の反則勝ち、次に準決勝でこれも出場経験のある橋爪謙選手に横四方固「一本」。そして決勝が去年出場の澤建志郎選手にGS延長戦の大外刈「一本」です。32歳の選手がGS延長戦を挟みながらこれだけのパフォーマンスができるわけですから、よっぽどしっかり調整してきたんだろうなと思います。

林 素晴らしいですね。

古田 この大会に出場したいという思いが、32歳の柔道家にそこまでさせる。これぞ全日本ですね。熱闘に期待としつつ、小林選手の勝ち上がりを押すという形にしたいと思います。

野々内悠真(関東・京葉ガス)― 横田雄斗(北海道・北海道警察)

古田 第4試合は野々内選手と横田選手の試合です。初出場同士の一番ですね。

西森 横田選手といえば全国高校選手権の決勝をベイカー茉秋選手と戦ったことが思い出されます。東京代表の江畑丈夫選手が欠場したときに代打で出て勝ち上がって。あの選手が大学を出て北海道で柔道を続けていて、全日本本戦に出て来てくれたというのは嬉しいですね。

古田 ベイカー茉秋選手を押し立てて東海大浦安高校が全国制覇に乗り出した年、その芽が出てくる前に伝統校である国士舘高校が「高校柔道界の構図はそんなに簡単に変わらないよ」とばかりになんとか叩き潰そうした。そのカードとして団体戦でも活躍しました。個人的にはその時期、若潮杯あたりの気風の良い柔道が印象的です。江畑丈夫選手が欠場したときに、国士舘を救った男でもあるわけですね。再びこの大舞台で出会えることには感慨深いものがあります。

朝飛 横田選手は小学校の時から北海道代表で全国大会に出ていて、これは団体戦で活躍する子だなと思って注目していました。勝負強くて一生懸命。高校・大学でも大事なところで良い味を出していて、思ったとおりだなと感じていました。そして野々内選手はこれぞ崇徳高校の柔道というか、立技と寝技の連携がしっかりできていて、団体戦でもしっかり組んでしっかり掛けるという印象が強い。もっと早く出てきて良い選手が、ようやく出て来てくれたという感じです。25歳とまだ若さもあります。この2人は初出場同士とはいえ、どちらもこれまでのキャリアで勝負どころを通ってきた選手。楽しみですね。

西森 去年は野々内選手が関東予選7位、横田選手が北海道予選3位ということで、どちらもあと一歩で本戦出場を逃しているんですよね。1年間の思いを存分に出してほしいと思います。

林 野々内選手をはじめ、京葉ガスからは今年3人が本戦に進んでいます。すごくチームとしてしっかりと補強、強化をし始めているのかなという印象です。

古田 個人的な印象では、横田選手は高校時代から好調時は自分の良いところをゴリゴリ出していくタイプで、逆に野々内選手は崇徳高、明治大と通じてソツがないというか、やるべきことをきちんとやって相手の良いところを消して、相対的に勝っていくという印象があります。いかがでしょうか。

西森 たしかに野々内選手はもう少し自分を出したほうがいいなと思うときはありますね。ポテンシャルはあるのにちょっと遠慮しちゃうというか、勝負に行ききらないところがある印象です。

古田 崇徳高校のDNAというか、この場面ではこれをやるんだということを1つ1つ、きちんと決めてやるイメージがあります。

西森 警察組織があまり稽古できていない今の練習環境を考えると、野々内選手の方が有利かなという気はします。

林 野々内選手は恐らく明治大学で稽古しているでしょうから、少なくとも秋以降は稽古がしっかり積めているのでは。

古田 それでは地方から出てきた横田選手に期待しつつ、中央の大学組織で稽古ができていることが見込める野々内選手の勝利として、次に進みたいと思います。

東海大で主将を務める後藤龍真。

後藤龍真(東京・東海大4年) ― 飯田健伍(関東・京葉ガス)

古田 第5試合は後藤龍真選手と飯田健伍選手という顔合わせです。これまた楽しみな試合ですね。

林 今は、後藤選手の方が良い気がしますね。東海大のキャプテンですよね。東海大は稽古再開が遅かったこともあり、なかなか環境的には厳しいのかもしれないですけども、この1ヶ月での復調に期待します。足技も切れますし。勢いがあります。

朝飛 仰る通り、勢いからすると後藤選手かと思います。大学生になって2年生からレギュラーを獲って、大事なところでも彼がしっかり勝っている。先日の講道館杯では直近の練習量の差が出たなという感じがしましたけれど。先程の京葉ガスの選手がきちんと練習できているのではという見立てから考えると飯田選手有利という考え方もあるのでしょうが、これまでの試合ぶりからは、彼は途中で息が上がるかなという印象があります。最後に後藤選手が攻めて勝つのではと思いますね。

西森 基本的に同感です。後藤選手は九州にいる頃から見ていたのですが、当時から非常にセンスの良い選手でした。ちょっと器用にまとまってしまうきらいはあるんですけど、いま東海大で勢いに乗っているところもあり、後藤選手が有利かなと思います。ただ、飯田選手もなんとしても勝ちたいとう気持ちが強いはず。3回目の出場なんですけど、まだ初勝利を挙げていないんですね。2012年は増渕樹選手に敗れて、2016年は西村久毅選手に敗れています。4年に1回五輪の年に出場している感じですけど、全日本の舞台でなんとしても1勝という気持ちは強いでしょうから、その気持ちで、課題のスタミナをどの程度引っ張れるかというところですね。

古田 朝飛先生が飯田選手のスタミナのことを仰っていましたが、後藤選手は東海大に進んでから組み手が上手くなって、足技を絡めて間断なくプレッシャーを掛けていけるようになっています。そういう意味でも飯田選手のスタミナを奪って後半動きが止まったところに、持ち前の技一撃の威力で刃を入れていくという展開は想像しやすい。…では皆さん意見が揃ったと見て、ここは後藤選手の勝利として話を進めさせて頂きます。

西本幸弥(九州・福岡県警察) ― 高木育純(四国・香川県警察)

古田 第6試合は西本選手と高木選手、どちらも高校時代に期待された選手が、全日本という晴れ舞台で帰ってきたという形です。

朝飛 西本選手は、東海大相模高校時代は真砂谷選手ですよね。

古田 そうです。「やぐらの真砂谷」です。東海大相模が苦しくなってきた時代を支えた、一発が魅力のポイントゲッターでした。

朝飛 ウルフ選手としっかり組み合って「やぐら投げ」を掛け合った試合が忘れがたい。腰に乗っけ合っていて、心臓が強いといいますか、物凄いダイナミックな技を使っていた記憶があります。

古田 大学では、怪我に苦しんだとも聞いています。

西森 4年生のときには東京学生で2位になって全国大会にも出ていたのですが、入賞には至りませんでした。

古田 しかし全日本の舞台で再び会えるのは、本当に嬉しい。

朝飛 一方の高木選手は神戸国際大付属高校出身。中学までは無名選手だったんですけど高校のときにすごく強くなって、大学でも全国大会の上位に進んでいました。

古田 3年時に、全日本学生体重別選手権の90kg級でベスト8まで進んだと記憶しています。

西森 高木選手は神戸国際の切り込み隊長という感じですよね。先鋒で出てチームに勢いをつける気風の良い柔道。大学は天理で白川剛章選手と同期で、それこそ関西の90kg級で彼に勝って優勝していますね。全国の舞台では活躍し切れなかったので高校時代のインパクトと比べると目立たなかった感はありますが、あの時代の天理大の選手たちは良く稽古をして、大野将平選手ともガンガンやって鍛え上げているので、力は持っていると思います。

朝飛 2人ともがっぷりと持ち合うので、どちらが勝つにせよきれいに決まるのではと思いますね。

古田 全日本での1勝は重いですから、なんとしても勝ちが欲しいでしょう。西本選手、最近の柔道は見ていないですけど基本的には体の強さを全面に出す柔道で、一方の高木選手は高校時代のイメージほどその部分、体幹の強さはないのではないかというように感じます。

西森 そうですね。試合のときの高木選手はあまり見ていないのでなんとも言えないですが。

朝飛 2人とも警察官ですね。

西森 高木選手は一旦自衛隊に入って、今年から香川県警に移りました。西本選手は平成30年に全国警察選手権の90kg級で2位になっています。

古田 難しいですね。差をつける材料がなかなか見つからない。これが今年の難しさです。参考にすべき試合がなく、稽古の状況もチームや地域によって実に細かく違う。

西森 どちらが上がっても次は西山大希選手との対戦ということで保留にしても良いような気もしますね。

古田 とはいえ、ここだけ勝負がついていないというのもすっきりしません。この企画の便宜上、勝者を決めておきませんか。

林 僕の個人的な予想は高木選手でした。

古田 僕は西本選手を推します。

西森 それでは多数決で決めましょうか。

林 4人だから2対2という可能性もありますよ (笑)。

古田 それでは西本選手だと思う方は挙手してください。

西森 はい。

朝飛 私もです。

古田 ということは私も含めて3人ですね。それでは西本選手の勝利ということにしたいと思います。お互いに力を掛けあったときの気風の良さで西本選手に分があると思います。

朝飛 そうですね。

古田 とはいえ、今年度初の保留が出かかった試合。どちらにも期待ということで、次に進みます。

制野孝二郎は平成28年大会以来、2度目の本戦出場。

制野孝二郎(東北・皇宮警察本部) - 福本翼(中国・広島県警察)

古田 では7試合目、制野孝二郎選手と福本翼選手の試合です。制野選手は久々、2度目の出場です。福本選手は初出場。

林 制野選手は今年、センコーから皇宮警察に移ったんですよね。それで地元の東北から出てきています。予選を通ってからすぐに東京に出てきて皇宮警察ということだと思いますので、どんな環境で練習ができているのかちょっとわからないところがあります。福本選手は中央大出身ですよね。2013年、大学4年生のときに全日本学生体重別の100kg超級で3位に入っています。

朝飛 警察官同士の戦いなんですね。

西森 東北予選の勝ち上がりを見る限りだと、制野選手は相変わらず寝技の強さ、取り味は健在と思われます。

朝飛 粘っこいですよね。粘っこく、粘っこく勝ち上がってきますよね。

古田 東北では3回戦でALSOKにいた鈴木誉広選手に横四方固「一本」。決勝リーグは2試合を合技で勝っています。

朝飛 山梨学院からALSOKに行った鈴木選手ですね。大きい選手ですよね。そう考えると制野選手やはり強いですね。

西森 あとは前回出たときに制野選手は1勝をあげていますから、そういった経験の差というのもあるかなという気はしますね。

朝飛 福本選手は広島県警で体重130キロとなると、なかなか練習相手がいない可能性があります。体重の重さでいったら今回4番目ですよね。松村選手、王子谷選手、黒岩選手の次で小川雄勢選手、田中源大選手、中野寛太選手と同列です。大きさの有利さもあると思いますが、制野選手の柔道だとこの大きさは必ずしも噛み合わないかもしれないですね。密着することができないと思います。制野選手の粘り勝ちという気がしますね。

古田 ではここは制野選手勝利を予想して、次の試合に進みます。

羽賀龍之介が推薦枠で全日本の畳に帰って来た。

羽賀龍之介(推薦・旭化成) - 黒岩貴信(近畿・日本製鉄)

古田 では第8試合。いよいよ目玉の試合の1つ、羽賀龍之介選手と黒岩貴信選手の一番です。両組みの超級選手・黒岩選手に、100kg級の世界チャンピオン羽賀選手がマッチアップします。

朝飛 すごいですね、1回戦から。

林 これは面白い試合が期待できそうですね。

西森 意外にも黒岩選手は全日本ではまだ1勝も上げていないんですよね。

朝飛 え!

古田 これは意外も意外ですね。言われてみればという感じです。

西森 2014年に出たときは西潟選手に崩上四方固、去年は斉藤立選手に合技で負けています。

対するは両組みの巨漢、体重135キロの黒岩貴信。

古田 黒岩選手はまず右に圧をかけて最後は左に巻き込んでいく、いつもの身体ごと力をぶつけていく戦い方になると思います。朝飛先生、これに対して羽賀選手としてはどういう戦い方が考えられるでしょうか。

朝飛 黒岩選手は左の巻き込みが強烈なので、羽賀選手としては釣り手を上から持つと思います。下から持ったほうが相手は巻き込みに入りやすいですから。釣り手を上から持って、圧を掛けてきた相手に対して前にいなしながら、背中を張る場面をなかなか作らせないと思います。でも黒岩選手もかなりの技の威力がありますから、面白い試合になると思います。

古田 まず上から持って巻き込ませない状態を作って、いなしていくということですね。

朝飛 はい。そこで煽りながら技に入っていくと思います。

西森 羽賀選手は講道館杯を回避したわけですが、調子的にはどうなんでしょう。相当モチベーションは高いと思うんです。これからの現役生活が凄く長いという年齢ではないですから。

古田 全日本選手権の価値観に感能力のある羽賀選手が敢えて出てくるわけですから、それなりに自信も覚悟もあるはずと期待しているところです。黒岩選手は技の威力はありますが、今までの戦いを見る限り、十分な形でないとあの威力をぶつけていくことが難しいところもあります。羽賀選手のいなしにあったときにそれでも無理やり力をぶつけていくような強引さがあればかなり面白いと思うのですが、彼がスイッチを押せる組み手のラインはかなり高いですからね。

西森 黒岩選手はそういうところでちょっと優しいですよね。

古田 組み手なんてどうでもて良いからとガーンと技をぶつけていければ結果として相当展開が来る可能性もありますけど、その優しさもありますし、羽賀選手の上手ないなしにあったときにその柔道ができるかどうかですね。…羽賀選手の勝負技はやはり入る角度をずらしての左内股という感じでしょうか。

朝飛 例えば黒岩選手が相手だったらまず組んで、最初はどこに(行くべき)方向があるのかを読みながら試合をすると思います。頭が下がってきたら内股でしょうし、そうでなかったら小内刈、大内刈を駆使しながら次の段階に進んでいくのかなというように思います。

林 私は問題なく羽賀龍之介選手が勝つのではないかと思います。黒岩選手のイメージはなんとなくかつての筑波大らしいというか、いま古田さんが必要条件として仰ったような荒々しさはあまり感じない。もともと重量級があまりいないチームですから、大きい選手同士の荒々しさというよりはすごくスマートな重量級選手を作る印象があります。逆に羽賀選手とは、相手に上手く噛み合ってしまうのではないかと。羽賀選手がいくつかある内股の入り方のどれかを上手く導き出して最終的には投げるのではないかという気がします。

古田 今の林さんのお話からは、羽賀選手が小内刈、大内刈を駆使して「指導」を積み、黒岩選手がこれはと思って組みにきたところをちょっとずらして内股で取るんじゃないかというようなシナリオが思い浮かびます。いかがでしょうか。

一同 異論はないです。

古田 それでは羽賀選手の勝利を推させていただきます。

七戸龍は10回目の出場。

佐藤正大(関東・自衛隊体育学校) - 七戸龍(九州・九州電力)

古田 第9試合はこれまた好カード。佐藤正大選手と七戸龍選手の一番です。存分に語ってください。

西森 七戸選手、練習は今も国士舘でやっているんでしょうか。

朝飛 今もよく行っていると聞いています。

佐藤正大。所属の自衛隊体育学校は稽古の充実が伝えられる。

林 七戸選手は今回記念すべき10回目の出場。今までこの全日本選手権のために七戸選手にインタビューする機会を得るたび、1度は優勝して欲しい選手との思いを強くしてきました。もう32歳ですのでさすがに少し力の衰えを感じるところはあります。ただ全日本選手権は力だけでは測れない、佐藤宣践先生が引退を覚悟した8度目の出場でついに優勝したとか、そういうミラクルが起きるような場でもあります。僕はまだ七戸選手にもその可能性は、多くはないかもしれないけど、残っている気がするんです。なんとか頑張ってほしいと思っています。

朝飛 優しすぎる面があるんですよね。一番思い浮かばれるのが何年か前の全日本で相手が背負投に来たのを関節取るときに…。

西森 佐藤和幸選手との試合ですね。どーんと乗らなかったんですよね。

朝飛 なぜ一気に取ってしまわなかったのか、あの時のことを聞いたことがあるのですが、「先生、足が極まっていたのであのまま乗ってしまうと(腕が折れてしまう)…」と言っていたんですよね。これこそ柔道、素晴らしい選手だなと思ったんですけど、あの優しさが勝負の局面ではなかなか難しい。優しさを引っ込めて鬼のように行けばそれはもう本当に強い選手だと思います。

西森 ここ数年はスタミナが落ちてきているんですよね。去年も佐藤和哉選手と戦って、腕挫十字固を取りかけた時間帯もありましたけど、最終的には体力の面で失速してしまった。その前の年も原沢選手と互角に戦ったものの、GS延長戦で「指導3」を失って敗れています。ただ、初戦でまだ力がある状態ということであれば、七戸選手かなり行けると思うんです。

林 何年か前に出会い頭みたいな感じで、加藤選手を内股ですっ飛ばしたことがありましたよね。足を上げただけで決まってしまった。

古田  2014年、平成25年大会の3回戦ですね。スパっと、擦過音が聞こえてくるような凄い内股でした。

西森 加藤選手には2回勝っているんですよね。取り口が合うと言いますか。

古田 2011年、平成23年大会の2回戦で、持つなりの内股「技有」に体落「技有」と連取して勝っています。西森さん仰る通り、相性が良い印象です。

林 タイミングもあるんでしょうけど、やはり軽いクラスだとあのリーチと勢いで持っていってしまう。

西森 加藤選手だとか、河原正大選手、丸山剛毅選手、あのあたりのサイズの選手はみんな内股で吹っ飛ばしていますよね。やっぱりリーチの違いがあるので、軽いクラスの選手だと先に持たれるとなかなか懐にも入りにくいし、それを遠間から回されてしまうんでしょうね。もしくは大外刈を引っ掛けられるか。いま挙げた選手たちと佐藤選手は似た体格ですから、七戸選手の良さが出る顔合わせとは感じます。

古田 その遠い間合いでも、掴んでいる限りは力が伝わるんですよね。そこであの脚が飛んでくるんだから恐ろしい。とはいえ佐藤選手、言い方は悪いですが戦い方に怪物感が漂う部分があります。うちのスタッフの間では「獣人化」と勝手に呼んでいるんですけど、彼はバックグラウンドに燃えてさらに強くなる、ちょっと異常な感性があると感じます。七戸選手は大きくて華やかで人気もあって、その選手と全日本で戦うというこの状況では、彼らしい異常な力を発揮する可能性はあると思います。

西森 福岡の大牟田高校時代は仰ぎ見ていた存在でしょうからね。福岡予選、九州予選に一緒に出場したこともありますから。

古田 そういった相手とこの大舞台で戦うということでは、爆発の素地はありますね。ただ、柔道の構図としてはあくまで七戸選手ですが。

西森 勝ち上がり予想は七戸選手ですね。

古田 そこは異存ありません。佐藤選手の「獣人化」はあくまで注目ポイントということで。

西森 これで2回戦は羽賀選手対七戸選手ということになりました。

一同 おお!(感じ入る)

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