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「二回戦~決勝」/eJudo版・令和2年全日本柔道選手権予想座談会「『令和最初の全日本』を語りつくす」(下)

三回戦

ウルフアロン(推薦・了徳寺大職員) - 石内裕貴(九州・旭化成)

古田 三回戦第1試合、ウルフアロン選手と石内裕貴選手が戦うという想定です。

西森 これもウルフ選手を相手に、石内選手がどれだけチャンスを貰えるかというところですね。攻撃力自体はあるんですけど、それを出すまで持っていけるかですね。

朝飛 同じくです。石内選手の良いところをウルフ選手が組み手で潰してしまうと思います。ウルフ選手は組み勝って前に出ている場面が多いので、相手の方が「指導」が早いんですよね。それで最終的に石内選手が無理をして出てきたところを持っていくのではと思います。

林 やっぱりそうなりますよね。ウルフ選手のあの組み手の巧さに対して石内選手は天理的なオーソドックスにしっかり組む柔道で、自分の組み手にならないといけないけれど、ウルフ選手はそれをさせないという点では出場者の中で一番長けた選手。なかなか石内選手の時間というのは作れないのではないでしょうか。

古田 しかもその状態が守りではないですからね。その形がイコール攻めの一手目になっているということはもちろん、封じ方が1つではないのでその場でターゲットを決めて突破するというのも難しいんですよね。事前に手立てを持っておかないと対応しがたいわけですが、石内選手がそれだけのバリエーションを持っているかというと、少々難しいように思います。…ではウルフ選手が石内選手を封じて「指導」を押し付け、最終的には投げるのではないかということで、ウルフ選手の勝ち上がりと予想したいと思います。

中野寛太(近畿・天理大2年) - 熊代佑輔(東京・ALSOK)

古田 三回戦第2試合は中野寛太選手と、熊代佑輔選手のマッチアップ。

一同 おお。

西森 難しいですよね。

古田 熊代選手のコンディションがわからないことが大きいですよね。

西森 仰る通り。講道館杯に出ていないと、本当に読めない。試合が極端に少ない今年の難しさですね。

朝飛 熊代選手が勝ち上がるのは、ウルフ選手にとってはもっとも嫌な展開ですよね。

古田 その意味では大会の行方を左右する一番になりそうですね。

朝飛 熊代選手は小川選手を投げ切ったりしますよね。インサイドワーク、意外性はもちろん投げ自体の力も十分。

林 ウルフ選手は絶対に熊代選手が上がってくると考えているみたいです。100パーセントですと言っていました(笑)。

古田 同じ東海大で稽古をしているウルフ選手がそう言うということは、熊代選手の状態が良いのですかね。

林 二回戦の時にお話しした通り、ウルフ選手は熊代選手のフィジカルの強さは半端ではないと言っていました。私は「中野選手がフィジカルで熊代選手が巧さ」という見立てで話をお聞きしたんですが、むしろ逆の見解を持っているようでした。中野選手は巧いけど、パワーでは熊代選手という前提で話をしていましたね。

2019年講道館杯決勝。熊代が香川大吾をまっこう巻き込んで「技有」、階級を上げたばかりとは思えぬパワフルさを見せた。

朝飛 香川大吾選手のようなパワーも体格もある選手を巻き込みで持っていったシーンが、これでわかった気がします。飛び方もきれいでしたよね。

古田 たとえば中野選手が勝つとしたら圧を掛けて前に出続けて熊代選手が何もできなくなった場合という見立てがあるとして、それは全然違うということですね。

朝飛 スタミナでは中野選手の方が勝って熊代選手がだんだん疲れてくるという感もありますが、それは本人重々承知の上で勝負を組み立てると思います。

林 中野選手は意外な脆さもありますよね。

朝飛 柔道がきれいだからこそ、ポロッといってしまうことがあります。前に斉藤立選手に体落で投げられてしまったときも、それまでの戦いぶりからすると少々意外に思える崩れ方でした。

古田 熊代選手のフィジカルがそれだけあるとなると、前提条件が変わってきますよね。

林 そもそもフィジカルがなかったら100kg級から100kg超級に上げて、いきなり講道館杯で優勝はできないですよね。

古田 中野選手がまだ獲っていない講道館杯を去年獲っているわけですからね。…方向性が揃って来たようですので、ここは熊代選手の勝利とさせて頂きます。

小川雄勢(東京・パーク24) ― 西山大希(東京・日本製鉄)

古田 続いて三回戦第3試合、小川雄勢選手対、西山大希選手です。

林 (手元のトーナメント表を見て)私の予想だと西山大希選手が上がることになっていますが、少々厳しいかもしれません。

朝飛 小川選手にとって西山選手はやりにくい相手ではないと思います。組み手をひたすら切ってくる相手ではありませんので。確かに西山選手の支釣込足の威力は小川選手にとっても脅威ですけど、頭を下げさせてそれをさせないような気がします。打つ回数がかなり少なくなると思いますね。

古田 左相四つでお互いに持ちたいタイプ、そして小川選手の方が体格、パワーで上という構図ですから、セオリー通りであれば小川選手が優位です。

西森 やっぱり体格のミスマッチがあります。同じ100kg級までなら西山選手の支釣込足が効果的だと思うんですけど、小川選手が相手だと吸収されてしまうような気がしますね。小川選手は自分を優勢に見せる術にも長けていますから、西山選手に対してはその戦術が効くのではないかなと思います。

古田 そうですね。アクシデントが起こるとしたら小川選手の方に「指導」が積み重なるという作りが必要に思いますが、ここまでのお話を聞いているとそれも想像しにくいですね。小川選手の「指導3」圧力勝ちということでよろしいでしょうか。

一同 異議ありません。

影浦心(推薦・日本中央競馬会) ― 羽賀龍之介(推薦・旭化成)

古田 三回戦第4試合、影浦心選手と羽賀龍之介選手というビッグゲームです。

西森 最初に今回の注目選手で影浦選手を挙げたんですけど、僕はここが大一番だと思いますね。羽賀選手はすごく賢い選手なので、影浦選手のやりたいことをさせてくれず、結果として我慢比べみたいな展開になる可能性があるかなと思います。影浦選手は重量級の中では巧くてスピードもある担ぎ技系、という特徴を存分に生かして勝ち抜いていますが、100kg級の選手を相手とする場合にはそのあたりの長所が出しにくいと思います。影浦選手がここで羽賀選手に勝つようであれば次の小川選手にも勝って少なくとも準決勝まで勝ち上がると予想するんですけど、ここが越えられるかですね。一方の羽賀選手は体調の部分もありますし、前戦で七戸選手と良い試合をして満足しまっていると、粘り切るだけのモチベーションがなくなっている可能性もあると思います。ちょっと状況次第というところがある。でも、個人的には羽賀選手が勝ち上がるのではないかなという予感があります。

林 正直羽賀選手に勝って欲しい気持ちの方が強いんですが、影浦選手の話を聞くと、自信というか、自分の使命というかやらなきゃいけないこと、そういったことを自分で強く意識して試合に向かえているんですね。コロナ禍での練習というところでも、しっかりトレーニングをしていると言っていて、言い方としては「滅茶苦茶しました」と。今回話を聞いた選手の中で、このくらい言い切っていたのは彼しかいない。重量級ではもともと結構走れる方ですが、相当走り込んで、スタミナとかそういった部分には絶対的な自信を持っているとも感じました。また、講道館杯でしっかり勝ち切れたということが自分のなかでプラスに働いています。なんとしてもここで勝たなければいけないんだ、そろそろ俺の番だという気持ちは強い。去年同級生のウルフ選手が勝ったというのも刺激になっています。

古田 私は羽賀選手のことが大好きなんですけど、今回は影浦選手のことを推しています。羽賀選手の方がなんだか勝ちそうだというこの感覚の理由を突き詰めていくと、僕たちの知らない技術とか作戦を持っているんだろうなと勝手に期待しているところがあるんですよね。でも普通に考えると左にも右にも担げて、片手でも技に入れる影浦選手の方が展開は作りやすい。あと、ひとつキーワードとして良い意味での愚直さというのがあると思っていて、影浦選手は投げ切れなくても、組み手で不利をかこっても、しつこく担ぎ技は仕掛けていけるんですよね。これをひたすら続けることが出来る。羽賀選手に明確な作戦やこうやって投げるというゴールの設定があったとして、相手に何か嫌なことをひたすら愚直にやられたときにそこにしがみつき続けられるかというと、ここでモチベーションの差が出てくると思うんです。またいま林さんが仰ったように、影浦選手が今回は俺の番だと思って、講道館杯も勝って、ここで勝たないと後がないと思い詰めているのに対して、言い方は悪いんですけど、羽賀選手にとって全日本選手権というのは、あくまで足し算という見方も出来る。全日本選手権の価値に対する感応力の高い選手ですが、100kg級のキャリア上ここで失うものはない。そういうところが「愚直さ」というキーワードと噛み合うと、影浦選手がたとえ投げられなくても上手く展開を得ていく可能性が大きいのではないかなと思うんですよね。というところで朝飛先生どうでしょうか。

朝飛 今までの意見で、2対1の多数決で影浦選手に決定で良いと思います。

西森 僕はやっぱり一昨年の西山大希選手に競り負けた試合がなんとなく引っ掛かりますよね。そこのイメージを変えられるかですよね。

古田 100kg級の選手を相手に自分の長所を発揮できるのかという、先ほどの西森さんの疑問のおそらく根拠になった試合ですね。その後の2年間の影浦選手評にダイレクトに影響した一番でした。

西森 そうですね。この2年間で全然違う影浦選手になっているということだと思うんですよ。いまの状態を普通に考えれば影浦選手が勝つ。

古田 2年前の影浦選手のままであれば、羽賀選手が勝つと思います。

西森 そういうことですね。まさにそこが打破できたのかが問われる試合になると思います。


古田 ではここはこの2年間の成長を買うということで、影浦選手の勝利とさせていただきます。

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