「二回戦~決勝」/eJudo版・令和2年全日本柔道選手権予想座談会「『令和最初の全日本』を語りつくす」(下)
太田彪雅(東京・旭化成) - 小川竜昂(近畿・日本製鉄)
古田 二回戦第13試合、太田彪雅選手と小川竜昂選手です。
西森 太田選手は講道館杯では少々元気がなかったですよね。
古田 東海大勢は稽古が積め切れておらずいったいに調子が良いとは言い難かったのですが、その中にあってもちょっと心配になる戦いぶりでした。常の格、実績だと太田選手を推すことにはなると思うんですが。
朝飛 普段の太田選手ならケンカ四つにも大外刈、内股としっかり技がありますから、しっかり調整できていれば間違いないと思います。
林 地力で言えば、去年は3位に入っている選手ですからね。
古田 太田選手の勝利を推すとして、勝ち方に注目したいですね。巧さでいなすような感じで勝つのか、地力ベースで戦って勝ちを得るのか。本調子であれば後者で、たとえ相手が小川選手であってもバチっと組んで投げるところまできちんと辿り着くと思います。
西森 そうですね。どういう手立てを取るかで、この日の太田選手の調子が読めるのではないかと思います。
向翔一郎(推薦・ALSOK) ― 下和田翔平(関東・京葉ガス)
古田 二回戦第14試合は向翔一郎選手と下和田翔平選手による一番。
西森 なんとなく向選手が勝ちあがる気がしますよね。
古田 技術的なシナリオを積み重ねると下和田選手が勝つという考え方もあるかもしれませんが、確かに、それでも向選手が勝ちそうな予感がします。
林 同感です。
西森 向選手はモチベーションが高そうですよね。代表が決まった後に世間を騒がせたりがありましたから、試合で結果を出したいというのがあると思います。学生時代に先輩の原沢選手と乱取りしている姿も見ていますけど、重量級とやっても強いですよね。原沢選手を裏投で投げたシーンも見たことがあります。同階級での試合ではあまり見せない動きもありました。
林 直前に話をお聞きした時には、本人も「原沢選手とも練習しますし、重量級は苦にならない」と言っていました。
朝飛 下和田選手は長身なので上を叩けば強いと思いますが、その叩かれる瞬間というのは向選手にとってはチャンスですよね。海外の試合では反対の一本背負投だとか袖釣込腰、背負投に見せての小内刈などを見せています。下和田選手はものすごく身長が高いですが、向選手は海外でもやっているので慣れているのではとも思います。
古田 はい。長身ということでいえば例えばスペインのニコロス・シェラザディシヴィリとも3試合やっています。朝飛先生が指摘の通り、長身選手に対しての技術的な武装もある。それに、減量していない時の向選手はかなり体重もあると聞いています。御三方の意見も揃いましたので、ここは向選手を推したいと思います。
飯田健太郎(推薦・国士舘大4年) ― 永山竜樹(推薦・了徳寺大職)
古田 二回戦第15試合、飯田健太郎選手対、永山竜樹選手です。いやーもう、今年は濃い。楽しみ過ぎます。
朝飛 上を向いて試合するのと下を向いて試合するのと(笑)。
古田 永山選手が156センチ、飯田選手が188センチです。絵面を想像するだけでわくわくします。これ普通に飯田選手が一本持ったら永山選手は届かない、懐にも入りようがないですよね。
林 機械的に絵だけ考えると、試合にならない体格差ですよね。
古田 普通に考えたら飯田選手の勝ちなんでしょうけど、永山選手はどんな戦い方を考えていると思いますか。
朝飛 飯田選手は引っ掛けたり跳ね上げようとすると思うんですけど、永山選手は重量級とやっても組み負けないらしいですよ。だから、永山選手の方から組みにいくのではないでしょうか。
西森 絵面としては往年の高木長之助先生対、南喜陽先生ですよね。ガチッと組み合っている写真が残っています。
古田 組み合って強さを発揮する軽量級、組んで自分の良さを出そうとする軽量級。
朝飛 右の相四つで組むんではないでしょうか。
林 かつて越野忠則さんも60kg級の選手ながら、重量級の選手とやって頭を下げさせていましたからね。
朝飛 持っていかれてしまう確率は高いと思うんですが、組んだら面白いですよね。
西森 私の一つ後輩の中田善久が言っていたのは、徳野和彦さん(※1999年バーミンガム世界選手権60kg級銀メダル)と乱取りすると、大外刈を掛けても相手の胸とかに掛かるから全然投げられないんだと。
古田 徳野さんは身長153センチ。なるほど。
西森 そうです。サイズ的には永山選手も同じですから、飯田選手も感覚的には普段と相当違うでしょうね。
林 さすがにこれだけサイズが違う相手と普段稽古することはないでしょうから。
古田 永山選手がガチっと組むだけで会場が沸く試合ですよね。…無観客ですが。
朝飛 でも最終的には飯田選手が持っていく、という試合になりそうですよね。
林 下手に奥を取りに行くと飯田選手には「やぐら投げ」もありますからね。
古田 飯田選手は二本持って、朝飛先生のおっしゃるように引っ掛けたり跳ね上げたりしたいというところですよね。永山選手は何を掛けると思いますか。
朝飛 まずは足ですね。それでちょんちょんと追っていって、そこで股の中に背負投とか反対の一本背負投とかに入るのではないでしょうかね。
西森 取るとしたらそれですよね。
林 サイズが違いすぎて回らないんじゃないですかね。
古田 ここまでのサイズ差の試合というのは本人たちはもちろん、外野の私たちにとっても異次元ですからなかなか予想が難しい。飯田選手が組んで引っ掛けたい、跳ね上げたい、永山選手は足技から潜り込みたいという見立てを持って、あとは中身を堪能するという感じですね。さきほど林さんが仰った、焦れた飯田選手が「やぐら」で根こそぎ持っていこうとするような絵も、それだけで会場が沸く面白い展開だと思います。それでは、ここは永山選手がどこまでやってくれるのかに期待しつつ、飯田選手の勝ち上がりを推したいと思います。
松村颯祐(東京・東海大3年) - 田中源大(近畿・日本製鉄)
古田 二回戦最終戦。第16試合、松村颯祐選手と田中源大選手の一番です。ここは重量級ブロックですね。
朝飛 難しいですね。
古田 現状の勢いとか柔道のタイプでいくと、松村選手かなと思いますが、どうでしょうか。
朝飛 今のパワー的なもの、勢い的なものでは松村君が強いですからね。
古田 今年、例年通りの試合があれば大きく序列を上げたはずの選手と思います。
林 試合の様相としてはいかがでしょう。松村選手の力に、こちらも力はありますが、田中選手の巧さという構図でしょうか。
古田 欲しい距離は松村選手の方が近いと思うんです。近い間合いの方が棲みやすく、出口の増える選手ですから。密着したい松村選手に、田中選手がどう自分の距離を維持しながら戦うか。そして松村選手はどうこれを掻い潜って必殺の間合いに入っていくかというところでしょうか。…西森さんはいかがですか。
西森 私もここは、松村選手を買います。まさに間合いを近づけて、出口の多さを生かして投げに出ると思います。
古田 では、松村選手の勝ちと予想したいと思います。ここでベスト16が出そろいました。