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連覇狙う「一強」大野将平のミッション達成なるか?/東京オリンピック柔道競技男子73kg級階級概況解説・シード予想

<2連覇を狙う大野将平>

階級概況

2016年リオデジャネイロ五輪金メダリストの大野将平(旭化成)が絶対の優勝候補。心技体ともに極めて高いレベルにあり、技術面でも立技、寝技ともに全方位に隙がない。よほどのことがない限り、大野の五輪2連覇は揺るがないだろう。

<アン・チャンリン。2018年ジャカルタアジア大会では大野と11分超えの激戦を演じた>

実力で大野に対抗し得るのは、アン・チャンリン(韓国)のみ。過去の戦績は6戦6敗ながら、ジャカルタで行われた2018年アジア競技大会の11分に及ぶ死闘など、これまに幾度も大野と名勝負を繰り広げている。とはいえ、いかなアンでも大野を正面から投げ飛ばす絵は想像し難い。採れる作戦は限られており、最も現実的なのは前述のアジア競技大会同様、粘りに粘ってGS延長戦で「指導2」対「指導2」に持ち込み、担ぎ技で山場を作っての「指導3」勝利だろう。しかし、大野は稽古量も階級随一でスタミナも豊か。これまで息切れを起こす場面を見せたことがない。また、リオ五輪からここまで4年計画で準備を進めており、もっかの到達点は2018年とは完全に別物である。実際に直近の対戦となった昨年2月の対戦では本戦での左内股「技有」で大野が完勝しており、アンが勝利するためにはこれまでの戦いとは異なる、何らかの上積みが必要だ。

<後の先と捨身技という「梯子」を持つトミー・マシアス>

続いて純実力ではなく、相性や飛び道具などの別ルートの梯子を持つ選手を挙げてみたい。まずはトミー・マシアス(スウェーデン)。この選手は長身の返し技の専門家で、長い足を絡みつけての返し技を得意としている。大野が内側の技を仕掛け、懐の中で空転を強いられる展開には注意が必要。隅返、浮技などの捨身技も上手く、今年6月のブダペスト世界選手権では橋本壮市(パーク24)を捨身技で2度投げて破っている。最近は足技の威力も上がっているのでこちらも要注意(ただしマシアスの足技は刈り技が中心。実力に関係なく決まるときには決まってしまう払い技ではない)。大野はも昨年2月のグランドスラム・デュッセルドルフで大野が右内股「一本」で勝利しているが、マシアスに関しては以降大きく力を伸ばしており一定の警戒が必要。同じく懐が深く返し技が得意という点では、ラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ(ジョージア)も条件を満たしている。こちらはピーキングが上手く五輪では常に素晴らしい出来、ロンドン五輪の66kg級をノーマークから制した爆発力のある選手。6月の世界選手権で優勝して調子を上げてきており、侮れない。

<ファビオ・バジーレ。ここ一番の集中力は異常>

最後に階級最大の不確定要素であるファビオ・バジーレ(イタリア)。前回のリオデジャネイロ五輪66kg級の金メダリストだ。同大会では「ゾーン」に入った印象、異様な集中力で勝ち上がり、国際的にはほとんどノーマークの立場から優勝を攫っている。この本番、それも大舞台でこそ強い特性は五輪で最大限に発揮されるはずであり、戦略を立てるのが上手いイタリアチームの選手であるという点も非常に怖いところ。意技が実力差を無効化しやすい出足払であるという点も要注意ポイントだ。調子が噛み合った今年4月のグランドスラム・アンタルヤでは決勝以外の全試合を一本勝ちという好内容で優勝している。

<ルスタン・オルジョフは表彰台確実の力を持つ>

表彰台争いに関しては、優勝候補の大野と対抗馬のアンのほかに、現役世代を代表するシルバーコレクターのルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)が有力。普段のワールドツアーでは上位戦で勝ったり負けたりを繰り返している印象が強いが、ここぞと照準を合わせた大会ではほぼ過たず好パフォーマンスを発揮している。実績、実力ともに階級の第1グループからは頭ひとつ抜けた存在だ。順当であれば大野、アン、そしてオルジョフまでで表彰台の3枠が埋まるはず。以降はどの選手もそれほど差がない横一線の団子状態で、誰がメダルを獲ってもおかしくない。最近の充実具合いからすれば、既に名前を挙げたシャヴダトゥアシヴィリ、マシアス、バジーレ、そして今年の欧州王者のアキル・ジャコヴァ(コソボ)が周りからやや抜けている。ジャコヴァは2019年12月のワールドマスターズ青島で左肘に大怪我を追い、五輪が絶望視された状況から1年延期で復活した選手。このコロナ期間に新技の右内股を身に着け、得意の支釣込足に加えて前技にも核ができたことでまさにいまが上がり目。大穴としては、昨年の欧州王者のステルプも面白い存在。リスク度外視の密着柔道の使い手であり、怪力を生かして相撲のような柔道を仕掛けてくる。意外なバランスの良さがあり、もつれ際にも強い。あまりにハイリスクな柔道ゆえに成績は安定していないが、1試合に限定するならば非常に怖い相手だ。

シード予想

【プールA】
第1シード:ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)
第8シード:ビラル・ジログル(トルコ)
【プールB】
第4シード:トミー・マシアス(スウェーデン)
第5シード:ツェンドオチル・ツォグトバータル(モンゴル)
【プールC】
第2シード:ラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ(ジョージア)
第7シード:アルチュール・マルジェリドン(カナダ)
【プールD】
第3シード:アン・チャンリン(韓国)
第6シード:トハル・ブトブル(イスラエル)

シード外に大物が多く、ドローから目が離せない。まずは何と言っても本命・大野将平。大野がどの位置に置かれるかでトーナメントの様相がまったく変わってしまう。さらにメダル候補からジャコヴァ、バジーレがノーシード扱い。ドローが終わるまで、トーナメントの様相はまったく読めないと言っておくしかない。

現段階で言えば。オルジョフとアンがトーナメントの上下に別れており、大野はどの配置になっても、両方と対戦することになる。アンとは前述のとおり長期戦になる可能性が高く、できれば上側の山を引いて以降試合のない最終戦、つまりは決勝で戦いたいところ。ファンとしてもアンやオルジョフとは上位戦での対戦が見たく、可能であればプールBを引いてほしい。

有力選手名鑑

<ブダペスト世界選手権を制したラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ>

引き続きアップ予定の「有力選手名鑑」に実績、組み手や得意技、柔道の特徴をまとめてあるので参照されたい。
ピックアップ選手は、大野将平、アン・チャンリン(韓国)、ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)、ラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ(ジョージア)、ファビオ・バジーレ(イタリア)、アキル・ジャコヴァ(コソボ)、トミー・マシアス(スウェーデン)、アルチュール・マルジェリドン(カナダ)、ツェンドオチル・ツォグトバータル(モンゴル)、トハル・ブトブル(イスラエル)、ビラル・ジログル(トルコ)、ヒクマティロフ・ツラエフ(ウズベキスタン)、ヴィクトル・ステルプ(モルドバ)、ムサ・モグシコフ(ロシア)、ソモン・マフマドベコフ(タジキスタン)、ニルス・ストンプ(スイス)、ジャンサイ・スマグロフ(カザフスタン)、ヴィクトル・スクヴォルトフ(アラブ首長国連邦)、イゴール・ヴァンドケ(ドイツ)、フェルディナンド・カラペティアン(アルメニア)、エドゥアルド・バルボサ(ブラジル)、アレクサンドル・ライク(ルーマニア)、マグディエル・エストラダ(キューバ)の23名。

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