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充実階級も金メダル争いは3人に収斂 芳田、クリムカイト、シジク/東京オリンピック柔道競技女子57kg級階級概況解説・シード予想

<2018年の世界王者芳田司>

階級概況

2019年東京世界選手権王者の出口クリスタ(カナダ)が代表争いに敗れて出場権を得られず。前回大会王者のラファエラ・シウバ(ブラジル)と、優勝争いに絡むと目されていたキム・ジンア(北朝鮮)はいずれもドーピング違反のために出場できなかった(※北朝鮮はチームとしても不参加)。

優勝候補は2018年バクー世界位選手権王者の芳田司(コマツ)、2021年ブダペスト世界選手権王者のジェシカ・クリムカイト(カナダ)、そして無冠ながら階級屈指の投げの威力を持つサハ=レオニー・シジク(フランス)の3名に絞られる。

<ブダペスト世界選手権を制し、逆転で五輪出場を果たしたジェシカ・クリムカイト。>

総合力では芳田がやや抜けているが、クリムカイトとは相手が担ぎ技を仕掛けやすいケンカ四つで相性が悪く、シジクも立技限定であれば芳田以上のものがある。順当なシナリオであれば芳田が優勝する可能性がもっとも高いと思われるが、絶対性はない。過去の対戦成績は、芳田vsクリムカイトが2勝2敗でクリムカイトが2連勝中、芳田vsシジクが1勝1敗で直近は芳田の勝利、クリムカイトvsシジクはクリムカイトの4勝1敗だが、直近の試合ではシジクの勝利。このスタッツでわかる通り3名の力は近いところで拮抗しており、優勝争いはほぼ横一線と考えて良いだろう。それぞれの採るべき戦略は明確で、芳田は強みである全方位性を生かして相手の弱点で勝負すること、クリムカイトは担ぎ技を掛け続けて相手の柔道を塗りつぶすこと、シジクは余計な駆け引きをせずに威力のある大砲を一方的に打ち込むことだ。芳田がアドバンテージを持っているのは寝技とスタミナ。最近の芳田は自らの強みがパラメーターに凹凸のない全方位性であることに極めて自覚的であるように見受けられ、寝技を軸とする組み立て、あるいは相手の調子次第でスタミナを生かした消耗戦を展開するはず。そしてクリムカイトとシジクはこれを当然予想しており、こちらは投げによる早期決着を目指してくると思われる。この3者の戦略のぶつかり合いが、本階級最大の見どころだ。

<投げのセンスと威力は階級ナンバーワン。サハ=レオニー・シジク>

続いてメダル争い。順当であれば上記の優勝候補3名で表彰台の3枠目までが占められるはずだ。残る1枠を狙うのは、まずテルマ・モンテイロ(ポルトガル)ノラ・ジャコヴァ(コソボ)ら第1グループの選手たち。この中からメダリストが出る可能性が最も高い。ただし上位陣の力は競っており、第2グループまでは十分にメダル圏内。注目選手としては、エテリ・リパルテリアニ(ジョージア)の名前を挙げておきたい。力を前面に押し出した帯取返、「やぐら投げ」などの豪快な投げ技が持ち味。以前は男子ばりの「ジョージアスタイル」を志向する割には線の細さが否めなかったが最近は地力が上がってきており、2019年世界王者の出口を隅落「一本」で破るなど爆発の兆しを見せている。これまで見せている力は第1グループと第2グループのちょうど中間くらいだが、調子次第では今大会の台風の目になる可能性あり。

シード予想

【プールA】
第1シード:ジェシカ・クリムカイト(カナダ)
第8シード:テルマ・モンテイロ(ポルトガル)
【プールB】
第4シード:サハ=レオニー・シジク(フランス)
第5シード:テレザ・シュトル(ドイツ)
【プールC】
第2シード:芳田司(日本)
第7シード:ティムナ・ネルソン=レヴィー(イスラエル)
【プールD】
第3シード:ノラ・ジャコヴァ(コソボ)
第6シード:レン・チェンリン(台湾)

 

<クリムカイトの山にはテルマ・モンテイロが配された。>

クリムカイトとシジクが上の山、芳田が下の山という形に分かれた。さらにクリムカイトには準々決勝で最近新兵器の足技を得て好調のモンテイロが置かれており、第1シードながら最も厳しい組み合わせとなっている。クリムカイトとモンテイロは過去クリムカイトが3戦3勝と一方的に勝ち越しているものの、決着はいずれもGS延長戦。ここをどれだけ消耗なく勝ち上がれるかが、次戦に組まれるシジクとの準決勝に大きく影響するはずだ。クリムカイトとシジクの試合は概況でも書いたとおり、担ぎ技の連発でペースを作りたいクリムカイトと、駆け引きをせず有無を言わせぬ一撃で早く試合を終わらせたいシジクという構図になるはず。直近の試合ではシジクが左大外巻込「技有」で勝利しているが、決して一方的な内容ではなく、世界王者を獲得したばかりという勢いも含めてクリムカイトが勝ち上がる可能性が高いと予想したい。一方、芳田の山にはそれほど戦いにくい相手は置かれておらず、準決勝まで問題なく勝ち上がるはず。準々決勝で当たる位置には所属の先輩で互いに手の内をよく知るレン・チェンリン(台湾)が置かれているが、ここは順当ならば柔道に癖がなく戦いやすいジャコヴァが勝ち上がってくるはずだ。仮にレンが上がってきた場合も、時間は掛かりこそすれど勝利自体は堅い。よって、決勝の予想カードは芳田vsクリムカイト。もしシジクが上がってきたとしても芳田のやることは変わらず、長所である全方位性を生かして寝技とスタミナで勝負をすることだ。

有力選手

<ノラ・ジャコヴァ>

このあと公開予定の「有力選手名鑑」に実績、組み手や得意技、柔道の特徴をまとめてあるので参照されたい。
ピックアップ選手は芳田司、ジェシカ・クリムカイト(カナダ)、サハ=レオニー・シジク(フランス)、テルマ・モンテイロ(ポルトガル)、エテリ・リパルテリアニ(ジョージア)、ノラ・ジャコヴァ(コソボ)、ダリア・メジェツカイア(ロシア)、ティムナ・ネルソンレヴィー(イスラエル)、テレザ・シュトル(ドイツ)、ユリア・コヴァルツィク(ポーランド)、カラカス・ヘドウィグ(ハンガリー)、レン・チェンリン(台湾)、キム・チス(韓国)、マリツァ・ペリシッチ(セルビア)、ドルジスレン・スミヤ(モンゴル、イヴェリナ・イリエワ(ブルガリア)、カヤ・カイゼル(スロベニア)、ルー・トンジュアン(中国)、サンネ・フェルハーヘン(オランダ)、ミリアム・ローパー(パナマ)、ザブリナ・フィルツモザー(オーストリア)の21名。

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