「一回戦」/eJudo版・令和2年全日本柔道選手権予想座談会「『令和最初の全日本』を語りつくす」(中)
鈴木直登(東北・東海大1年)― 海老沼匡(推薦・パーク24)
古田 続いて第10試合、 鈴木直登選手と海老沼匡選手が戦う一番です。本当に今年の1回戦、2回戦は面白い。
林 さっき朝飛先生が期待したいと仰っていた鈴木選手が、いきなり海老沼選手との対戦ですね。
朝飛 勢いで良いところは見せられると思うのですが、徐々に海老沼選手が間合いを読んでペースを掴み、最後はしっかりした技を掛けて試合を決めるのではないかと予想します。
林 鈴木選手、大学に入ったばかりでコロナ禍。入学した東海大は早い段階で稽古を閉鎖してしまいました。
西森 東海大は全員一度帰していますから、地元に帰って練習していたのではないでしょうか。福島は東京ほど厳しい状況ではなかったので、これまでと変わらない環境で稽古をしていたのではないかと推測します。
林 大学生になったという感覚がないかもしれませんね。
古田 そういうところでいくと。朝飛先生は2年生のときの鈴木選手の戦いぶりを非常に褒めていましたけど、以後の招待試合等を見ると、凄く強くて地力がある選手なんですけど、状況判断にかなり難があるという印象でした。良い技も多いのですが、状況を見誤ってしまってのアクシデントが非常に多い。ここが大学以降の伸びしろかなと思っていたのですが。
林 それがすぐに閉鎖で。少なくとも上水研一朗監督の指導はまだ受けられていない可能性がある。
古田 まさに東海大が鈴木選手を獲ったのは、その部分で指導すればかなり伸びるという予見によるものではないかと勝手に思っているんです。ということはこれまで持っているもので勝負するしかないわけで、地元で稽古してこれまでの傾向が加速すると考えれば、やはり力勝負を挑むのではないかと。
林 そうであれば、海老沼選手にすれば戦いやすいはずですね。
朝飛 鈴木選手、絶対に良いところは出すと思うんですよ。海老沼選手は全部をいなして消してしまったり、まったく組ませないというような戦い方はしないような気がするんです。彼の柔道は「男前」ですから。大野選手と戦ったときもそうですが、返されようがなんだろうが自分の柔道を貫く。だから、鈴木選手も最終的には持っていかれてしまうとは思うのですが、良い部分は見せられると思います。
西森 海老沼選手、講道学舎出身の選手として全日本の舞台には特別な思いがあるはずですから、いつも以上に意気に感じて燃えてくると思います。ですから鈴木選手とは本当に真っ向勝負をして、それで勝つつもりでやってくれると思います。楽しみです。
林 海老沼選手は名勝負製造機ですからね。
西森 日体大の原田健士選手も海老沼選手に勝つことで出世している感があります。いい試合になるんですよね、毎回。
古田 朝飛先生が仰るとおり、海老沼選手は勝つときも負けるときも相手の良いところを目一杯引き出すところがある。それはリスクでもあるのですが、彼の最大の魅力でもあります。‥。ここは海老沼選手が鈴木選手の良いところを引き出した、その上で勝つと予想したいと思います。
佐々木健志(東京・ALSOK) ― 古田伸悟(近畿・日本製鉄)
古田 続いて11試合、佐々木健志選手と古田伸悟選手の一番です。
西森 これも超攻撃型の2人ですよね。
古田 組み合わせを見てまず頭に浮かぶのは、「ノーガードの撃ち合い」ですよ。
林 これは絶対面白いですよ。
朝飛 佐々木選手は左の内股にめっぽう粘っこい。こんな体勢で透かすのかという技を何度も見たことがあります。一方古田選手は体落気味の技もやりますから、内股からそれに変化するのではと思います。とはいえまともに行ったら左技の返し、透かしは佐々木君の得意なところですし、そこから密着して腰に乗せたり裏に行ったり、どうその先を考えても凄い戦いになりますよね。でも古田選手の良いところも出そうですよね。
古田 佐々木選手も相手の良いところを引き出してしまうタイプ。佐々木選手が横車を狙って投げるか、はたまた自爆か、みたいな乗るか反るかの場面は絶対に出てくると思います。
林 指導陣が、だいぶ抑えるように強く言ってはいるようで、自爆はだいぶ少なくなって来ているとは思います。
古田 しかし、増量してさらに筋肉ムキムキになって、佐々木選手の力勝負志向がますます上がっていてもおかしくない(笑)。
西森 「一本」決着は必至ですよね。佐々木選手の場合お父さんが65kg級だったんですけど、その体格で全日本選手権の中国地区予選に何度も挑んでいて、当時は予選リーグの後に決勝リーグという形だったんですけど、勝ち抜いて決勝リーグの5人に入ったりしていました。そういう思いを受け継いでの無差別志向というのがあると思います。
古田 その息子さんがついに全日本選手権本戦に出場、という二代に亘るシナリオがあるわけですね。
西森 ちなみに妹のちえ選手の方が先に(皇后盃に)出てはいます。
古田 あ、そうでした。…しかしこの戦いは予想不能ですね。そして勝ったほうが垣田選手と戦うわけで、どちらが勝ち上がるかでかなりその試合の様相が違ってきます。佐々木選手と古田選手は攻撃型ですが、まったくタイプは違いますし、さらにここで垣田選手が勝ち上がるかどうかはトーナメントの行方を左右しかねないファクターですので、この試合は結構なカギです。一番可能性の高いシナリオは後の先を狙った佐々木選手と古田選手の投げの打ち合いの結果が、そのまま直接勝敗に結びつくこと、とまでは言えます。
西森 佐々木選手が投げる可能性も十分にありますからね。
古田 後の先を狙い続けて最後は一発担ぎ技に潜るとか、展開の柔軟さは佐々木選手の方があるかもしれません。
西森 昨年群馬で行われた実業団体では京葉ガスの岩尾敬太選手を一本背負投できれいに回していましたよね。重量級をものともしない投げ力があるんですよね。
古田 あの試合、必ず投げで決着すると見て、隣の1部の試合場から長玉で狙い続けて、しっかり決まり技ショットを撮影したことを思い出しました。ではここは展開の柔軟さと、次の予想がより面白くなりそうという点を買って、佐々木選手を推させていただきます。
澤建志郎(北信越・石川県警察) - 杢康次郎(関東・神奈川県警察)
古田 第12試合は澤建志郎選手対、杢康次郎選手です。これまた予想の難しい試合です。
西森 澤選手は昨年が初出場。第1シードの原沢選手と試合をしたのですが、非常に筋目が良いというか、姿勢良く組んで良い柔道をしていました。
古田 指導者の誰もが、こういう選手を送り出したいと誇りに思うような柔道でしたね。さすがは鶴来坂田道場出身の選手だと思いました。
西森 一方の杢選手は今回の関東予選で大ブレイクですよね。この体格で関東を制するというのは生半可ではない。年齢的なことも含めて、勢いで行くと杢選手かなと思います。
古田 杢選手、大学の後半から良くなってきている気配があって、ブレイクポイントがここに来たという印象でした。
朝飛 関東予選の決勝でも下和田選手が潰れるところを狙うというか、しっかり前に落ちてから捲っていたのが印象的でした。ほかの技も動きながら掛けることがしっかり出来ていて、乗っているなと感じました。ただ、警察の選手ですから、その後練習が出来ていない。決まったパートナー1人と打ち込みをやって、軽く投げ込みをやるくらいと聞いています。
林 この試合も警察対決ですものね。両方とも稽古は出来ていないはず。…古田さんがさっき仰っていた通り、澤選手は鶴来坂田道場の出身ですよね。
朝飛 鶴来坂田道場の選手は本当に良い柔道をしますよね。
林 一度取材に伺ったことがあります。特に足技の練習を繰り返し良くされていたのが印象的でした。今は息子さんが教えていますが、やはり足技を大事にしていて、基本に忠実な、すごくきちんとした柔道を教えていますね。去年の試合を見て、澤選手もその系譜に連なる選手だなとの印象を強く持ちました。この試合は本当に難しいですね。練習状況も2人とも厳しいですし。
朝飛 2回目の澤選手の方が落ち着きはありますよね。杢選手は初出場ですから、そこで関東大会みたいな力を出せるか。
林 とはいえ、こう言ったらなんですが、今年は講道館での開催になりましたから、日本武道館の大舞台に比べると変な緊張感はないかなという気がします。例年ほど初出場のハンデはきつくないかもしれません。
古田 先程朝飛先生から聞いた関東予選決勝の戦いぶりからすると、お互いに稽古をしていない状況ならば杢選手の方が有利かなという気がします。
朝飛 そうですね。間合いのとり方も上手いですからね。
林 あとは杢選手が23歳、澤選手が26歳で、杢選手は新卒。今年の春からどの選手も稽古がなかなか出来なかったということでは、より体が動くのは最近まで大学でしっかり稽古が出来ていた杢選手という見立てはあって良いかと思いますね。
古田 それではここは杢選手を推させていただくことにしたいと思います。
石原隆佑(北海道・トーエー企業) ― 大町隆雄(中国・山口県警察)
古田 第13試合、北海道から初出場の石原隆佑選手に、中国から2度目の出場の大町隆雄選手がマッチアップします。
西森 石原選手の所属であるトーエー企業というのは旭川のパチンコ中心のエンターテインメント企業です。監督が日大出身の方。きちんと柔道部があって、チームとして活動しています。北海道の準決勝、決勝の動画を見させていただいたのですが、準決勝は立った姿勢から釣り手を反対の手に添えるような「立ち背負い」で一本勝ち。決勝の横田選手には、低い体落気味の変形の大腰で一本勝ちでした。どちらも切れの良い技でした。この動画はトーエー企業のウェブサイトに掲載されていますので、これは会社としてしっかりバックアップしてくれているということだと思います。
古田 高校・大学通じてヤンチャな性格である、との噂を聞くことも多かった選手ですが、西森さんからお聞きしたその試合の様子にも、その強気が良く表れていますね。この2つの大技を勝負どころで決める。よほど気が強くて体の力に自信がなければできません。
西森 良い面構えをしていますよね。
朝飛 大町選手は同じような体型ですけど、高校時代から団体戦でも中核。スピードのある相手でも、大きい相手でも、非常に上手く戦います。
西森 勝負に関しては大町選手だと思います。講道館杯も良かったですからね。警察の選手は稽古出来ていないと言われているなかでも、かなり良いなという印象を受けました。
古田 対戦者の1人から「組んでみて、とんでもない力を感じた」との証言がありました。なので、3位決定戦で森健心選手に抑え込まれてしまった試合はとても意外だったと。
西森 やはり稽古が積みきれていないので、スタミナが続かなかったんでしょうね。
古田 それまでの試合では、全盛期を思わせる低く鋭い担ぎ技を連発していました。それでは勝負に関しては大町選手を推し、石原選手の負けん気の強さが試合の中でどう出るかに期待というところですね。
安田知史(九州・福岡県警察) ― 小川竜昂(近畿・日本製鉄)
古田 続いて第14試合。安田知史選手対、小川竜昂選手です。これも面白いカードですね。全盛期からだいぶ時間は経ってしまいましたが、ついに背負投の業師・安田選手が全日本選手権の舞台に帰ってきました。初出場は平成26年、その時は野村幸汰選手に指導3で敗れています。登録83キロ、本業の81kg級とほぼ変わらない体重でのエントリーです。
西森 全日本学生優勝大会で羽賀選手を担いだシーンは忘れられないですよね。
朝飛 あれはすごかった。
古田 あの頃、稽古でテディ・リネール選手を一本背負投でふっ飛ばしたという噂を聞きましたよ。とにかくワクワクさせてくれる、一挙手一投足から目の離せない選手でした。
西森 相手の小川選手もガンガン前に出てくるファイターです。噛み合うのではないでしょうか。
林 小川選手も本戦ではなかなか勝てていないんですよね。地区大会では3回優勝していますけど。
古田 毎年地区大会の様子を見た人達に聞くと、「小川は全日本でブレイクするのではないか」「物凄い強さ」と口を揃えますね。
西森 なぜか当たりが厳しいんですよね。2016年は初戦で北野裕一選手に勝って、次戦で上川大樹選手に大外刈を返されて敗れています。翌2017年は2回戦で垣田恭兵選手と当たって、GS延長戦含めて9分戦った末に敗れています。ポテンシャルは高いのですが運に恵まれないという印象です。
古田 これも、いかにも全日本選手権。
朝飛 安田選手の背負投の印象がものすごく強いわけですけど、29歳になってあの動きがまだできるかですよね。
古田 憶測ですが、体にかなりダメージが溜まりそうな柔道であったとも見受けます。
林 そろそろ小川選手が報われてくれても良い気がします。
西森 全くの余談になりますけど、日本製鉄のウェブサイトは選手紹介に力を入れていて、試合前のルーティーンなんかも書いてくださっているんですよ。小川選手は“足の裏を柔道衣の裾で拭く”とあります。ちなみに田中源大選手は“側頭部を叩く”こと、古田伸悟選手は“昆布とおかかのおにぎりを食べること”だそうです。
古田 いま私は旭化成のTwitterアカウントの情報がお気に入りなのですが、日本製鉄の「中の人」もなかなかやりますね。…齢、力、体格を考えて小川選手が有利とは思います。安田選手には、試合は無観客ですが、あの頃のような場内を沸かすような背負投の一発に期待したいですね。ここでは小川選手の勝利としたいと思います。
一同 異存ありません。
下和田翔平(関東・京葉ガス) ― 近藤弘孝(東海・愛知県警察)
古田 第15試合、下和田翔平選手と近藤弘孝選手の長身対決です。
西森 下和田選手が192センチ、近藤選手は193センチ。よくこんな試合を組んだものですよ(笑)
古田 似た属性の選手同士が早い段階で対戦しがち、これも「全日本あるある」ですね。
林 今年は193センチの選手が4人いるわけです。190センチの小川雄勢選手がいつも大型選手という文脈でメディアに取り上げられていますが、それより大きい選手が5人もいると、なんだか小さく見えてしまいますよね。
古田 平均体重が下がって高身長傾向が増したという、解釈が難しいスタッツになっていますね。
西森 アスリート傾向が増したということかもしれませんね。
古田 なるほど。そういう読み解きは可能ですね。巨視的に見ても、かつて全日本のメインストリームだった「アンコ型」の重量選手は減ってきていますから。
西森 一方で以前はいつも重量級が出てきた印象の北海道代表が90キロと95キロですからね。不思議な感じがしますね。今はGS延長戦もあって試合はどうしても長くなりますから、動ける選手でないと勝ち抜くことが難しいということかもしれません。
古田 確かに、なかなか今のルールでアンコ型の重量選手が圧力で勝っていくというのは難しいかもしれません。さて、この試合です。経験と実績では下和田選手が有利だと思います。
朝飛 近藤選手を東京学生で見たことがありますが、すごく良い試合をしていました。
古田 3年生の時ですね。誰もが絶賛する試合ぶりでした。それで注目されて、名古屋で開催された東アジア選手権大会にも派遣されたんですよね。
西森 東京学生は良かったんですけど、本番の全日本学生がもうひとつの出来だったんですよね。途中で交代させられてしまって、あれからなかなかチャンスを貰えなくなってしまった。
朝飛 安定性がないんでしょうね。逆に下和田選手は百戦錬磨ですよね。どう試合を進めたら良いかわかっている。
古田 決めが派手なので一発技の選手と思われがちですが、実はインサイドワークが凄い。組み手、試合の進め方、ゴールの定め方と実にレベルが高い。
西森 実は下和田選手、前回4回目の出場で初勝利だったんですよね。
古田 意外!
西森 最初に出たときは香川大吾選手に抑え込まれて、次は百瀬優選手に僅差負け、その次は日大の尾崎央達選手に「有効」を取られて負けて、昨年北野裕一選手にGS延長戦での払腰で勝ったのが初勝利です。
古田 そこまでやって、初勝利の相手も北野選手みたいな極めて厄介な選手が当てられている。全日本選手権というのは本当に厳しい舞台ですね。
西森 そういう意味では1勝も上げたわけですし、初出場と5回出場の経験値の差で下和田選手が有利なのは間違いないと思います。
古田 下和田選手が自分の試合をして勝つということでよろしいですかね。近藤選手にはかつてのような伸びやかな柔道、ポテンシャルの高さを見せてくれることに期待したいと思います。
永山竜樹(推薦・了徳寺大職) ― 河坂有希(四国・愛媛県警察)
古田 第16試合、来ました。60kg級の世界選手権銅メダリスト永山竜樹選手が登場。対するは四国から3度目の出場となる河坂有希選手です。
西森 ちなみに河坂選手、中学校時代は60kg級でした。高校に入ってから監督が数時間ごとに納豆とかプリンだとかを食べさせて体が大きくなったんですよね。
林 身長は171センチ。軽量級出身の痕跡が体格に出ています。
古田 西森さんの指摘はかなり重要です。ということは、対軽量選手という視点で見た場合、ただの中量級選手とは違うわけですね。
西森 そうです。多分軽量級を捌くのが上手いと思います。過去2回の出場は初めが国士舘の山下魁輝選手に敗れ、去年は郡司拳佑選手に苦杯を喫しています。自分より大きい選手とやっても上手いからなかなか取られないのですが、取り味に欠けるので最終的には持っていかれてしまう部分があります。永山選手はもちろん非常に強いですが、河坂選手にとっても悲願の全日本の1勝を掛けた戦いということになりますね。
林 河坂選手はさきほどの通り身長171センチ、永山選手からすればそんなに大きい選手とやる感覚はないかもしれません。そんなにリーチの差もないというか、もしかしたらスピードで翻弄して戦えるのかなと思います。
古田 とはいえ、永山選手は156センチですよ。あらためてこれは規格外。
林 そうか、171センチが相手でも15センチの差があるわけですね。
西森 とはいえ永山選手からすれば、普段東海大で練習している学生よりも、戦い易いと思いますね。そんなにガツガツ来るというタイプでもありませんし。状況によっては逆に「投げごろ」という思いで来るかもしれません。
古田 軽量級主観から、体重の上の選手と戦うという観点で考えると、河坂選手はくっついたときに危険なものを懐に呑んでいるタイプではない。重量級だけど軽量級っぽく捌きの巧い選手でもありますが、同時の重量級ならではの危険さが薄い選手でもあるわけです。確かに、思い切って勝負出来る素地がありますね。
朝飛 河坂選手、去年見た印象だと優しさを感じるんですよね。もちろん捌きも上手いし試合も面白かったんですけど、例えば飛塚雅俊選手が内柴正人選手の背中を持って絶対に動かないようにして軽量選手の良さを消してしまったとか、そういうことはしないのではないかと思います。永山選手からすると色々なことを出来る相手なんじゃないでしょうか。1回戦ですし、2人がお互いの力を出し合う展開になるのではと思います。
古田 色々なことができるというと、例えばどんなイメージでしょうか。これは旨味がある部分ですので、ぜひお話ください。
朝飛 反対の一本背負投。あまり身長差があると間合いが合わないのですが、足技を駆使しながら間合いを合わせて仕掛けていったり。それとやはり足技が上手いことはアドバンテージ。身長差があるからこそ足技が効いてくるのではと思います。
古田 それでは東海大で重量級と十分に稽古を積んでいるなかで相手がこの身長、この柔道のタイプということで。なんと、60kg級の永山選手の勝利を推したいと思います。
松村颯祐(東京・東海大3年) ― 尾原琢仁(九州・旭化成)
古田 打って変わって重量対決。第17試合は松村颯祐選手と尾原琢仁選手の試合です。
朝飛 松村選手は力が強いですよね。さらに地力がついてきているように感じます。重量級が相手だとむしろくっついて勝負するのではないかと思います。
古田 松村選手は袖釣込腰もありますからね。重量選手としては出口が多い。
朝飛 袖釣込腰に小外刈。もちろん前技もありますけど、くっついたら後ろもありますよね。裏投だとか。
西森 一方の尾原選手が行くとしたら左から大外刈を引っ掛けていくパターンですからね。それで松村選手を持っていけるかどうかですよね。
古田 良くも悪くも重量級の王道というか、そういう戦い方を貫く選手ですからね。あとは去年見せた優しさというか…。
西森 はい。どこか淡白なんですよね。勝負に関して。
古田 松村選手に圧を掛けられたときにそれでも行くんだという気持ち的なバイタリティを維持できるか。
朝飛 尾原選手は蟻クラブ出身なんですね。私の同級生の天理の有井(克己)さんがやっているところです。篠原信一さんの出身道場ですね。何か選手を大きくする魔法でも持っているのか、みんな190センチ超えちゃうんですよ。
一同 笑。
林 本当に重量級らしい、面白い試合が見られる気がします。典型的な重量級タイプの尾原選手、一方の松村選手もしっかり組んで柔道をしますから、しっかり組み合っての力勝負をして、「一本」で決まると思います。
古田 意外とここまで重量級同士がガチッと組み合うようなカードはない。ここは全日本の、大型選手のぶつかり合いという側面の伝統に叶う、良い試合に期待したいと思います。勝ち上がりとしては出口の多さを買って松村選手を推すということにしたいと思います。
一同 異存ありません。
田中源大(近畿・日本製鉄) - 今泉雪太郎(関東・栃木県警察)
古田 さあ1回戦最終戦の第18試合、田中源大選手と今泉雪太郎選手の一番です。
西森 田中選手は日本製鉄に行って良くなりましたよね。
林 明治大学時代は怪我もしていたようで、期待の大きさほどの活躍には至りませんでした。稽古を一番するは田中選手だとの周囲の評価は良く聞きましたし、5~6年前、上川大樹選手に、明治で誰が一番良いのかと聞くと、稽古では田中だと言うんですよね。でも怪我とか色々な事情があって試合では出し切れなかった。彼の代は小川雄勢選手がいて、大成から来た川田修平選手もいて非常に期待された学年でした。
古田 スカウトの段階で、この代で全日本学生優勝大会を獲るのではと言われていましたね。
林 本当だったら黄金時代になるはずだった。勝ち切れなかった原因の1つに、この田中源大選手が怪我により結果を出せなかったこともあると思います。社会人になって、そろそろ本来の力を発揮して欲しい。とにかく練習を真面目に一生懸命やると聞いていましたので、それが形になって欲しいですね。
朝飛 練習を見ていても、実際に凄く強いんですよ。ただ試合で、ここで思いっきり行けばというところで爆発出来なかった。でもこの全日本に近畿から勝ち抜いて出て来る、しかも3回目というのは非常に大きいことだと思いますから、そろそろドンと上がってきてほしいですね。そして今泉選手は今年31歳ですけど、確か一昨年でしたか、関東予選で村尾三四郎選手に勝っていたはずです。凄く力をつけているので面白いと思うのですが、これも警察の選手ですので、今年は環境的に思うように練習ができていないと思います。ですので、若さも含めて、田中選手が有利と考えます。
古田 それでは、ここは田中選手の勝ち上がりと予想させていただきます。
<(下)「二回戦~決勝」へ続く>
→(上)「私の全日本選手権ベスト『一本』」
→全日本柔道選手権歴代成績一覧