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【東京世界柔道選手権2019特集】序盤から曲者タイプ襲い掛かる原沢、3回戦のナイダン戦がその後の出来占う・男子100kg超級直前展望

原沢久喜
日本代表は原沢久喜

→東京世界柔道選手権2019組み合わせ(公式サイトippon.org内)

エントリーは41名。「概況×有力選手」で示した予想からの、シード選手配置の変更はなし。階級の概況や恒例の「実力推測マップ」はこの「概況×有力選手」、選手の特徴や得意技などの紹介は「有力選手(選手名鑑)」を参照されたい。

優勝候補の配置は予想のとおり、グラム・ツシシヴィリ(ジョージア)がプールA、原沢久喜(百五銀行)がプールB、ルカシュ・クルパレク(チェコ)がプールCとなった。原沢はツシシヴィリと準決勝で対戦することになる。試合の様相の詳細な予想は「概況×有力選手」をご参照いただきたいが、相性的には相当に厳しい戦いとなるはず。ツシシヴィリとの現在の力関係はどのようなものなのか、原沢がどのような作戦でこの大一番に臨むのかに注目したい。ここが事実上の決勝だ。

ナイダン・ツヴシンバヤル NAIDAN Tuvshinbayar
立ちはだかるナイダン・ツヴシンバヤル

原沢の序盤戦に話を移したい。前述のとおり準決勝に大山場を控える原沢だが、実はそこまでの組み合わせもかなり厳しい。初戦(2回戦)の相手は昨年大会の銀メダリスト、ウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)と2017年ブダペスト世界選手権で敗れたステファン・ヘギー(オーストリア)の勝者、さらに続く3回戦の相手は昨年のグランドスラム大阪で敗れたナイダン・ツヴシンバヤル(モンゴル)、そして準々決勝の相手はラファエル・シウバ(ブラジル)と、控えめに言っても全シード選手で最も厳しい引きとなっている。なかでも戦いにくいのが3回戦で対戦するナイダンだ。力の絶対値は原沢のほうが数段上だが、とにかく試合運びが巧く、攻防一致の担ぎ技で手数を積んでくる厄介な相手。グランドスラム大阪では、左払巻込が潰れたアフターの動きで、関節が極まるような形で巻き込まれた。本来ならば寝技の攻防と判断されるべき形で、かつ原沢が関節技を回避するためにみずから前転した形を審判が見極められなかったというアクシデントではあったが、そもそもこのようなギリギリの「際」を作り出す試合運びの上手さ、勝負どころを的確に見抜く勝負勘のよさが脅威だ。あくまでも原沢の勝利と予想するが、厳しい戦いとなることは必至。試合時間が長引けば長引くほど相手の「策」の仕掛けのチャンスも増える。一切の柔道的会話をせず、強引に攻めて早々に仕留めてしまいたい。

原沢の力は間違いなくこの階級のトップグループからも一段抜けており、十分に優勝するに足るレベルにある。あとはそれをどう使うか、どうその力を相手に伝えるかだけが問題だ。2016年リオデジャネイロ五輪以降、原沢は大きく言ってあと一歩勝ち切れていない。7月のグランプリ・ザグレブの決勝で敗れた試合を見る限りでは、やはり勝負に甘い面があることは否めない。恐らく本人もそれを自覚しており、ゆえに展開を作る技術など手札を増やしているのだろうが、最近は逆に勝負に徹しすぎてディティールに埋没する傾向があるようにも見受けられる。本来の原沢の強みはその柔道自体の強さにあり、種々様々の引き出しはあくまで相手をその「柔道の強さ比べ」の土俵に引きずり出すためのオプションであるべきだ。積むべきものは積み、その上で正面から「柔道の強さ」で粉砕する。そんな原沢らしい柔道に期待したい。相手の良さを封じることの上に、自分の良さを出す柔道を置く。これが優勝への道ではないか。きょうは大いに、期待したい。

有力選手の配置、各プールのひとこと展望は下記。

グラム・ツシシヴィリ TUSHISHVILI Guram
現役世界王者グラム・ツシシヴィリ

【プールA】
第1シード:グラム・ツシシヴィリ(ジョージア)
第8シード:キム・スンミン(韓国)
有力選手:テムル・ラヒモフ(タジキスタン)、アリアクサンドル・ヴァハヴィアク(ベラルーシ)、キム・スンミン(韓国)、ヘンク・フロル(オランダ)、ユーリ・クラコヴェツキ(キルギスタン)

上側の山からはグラム・ツシシヴィリ(ジョージア)の勝ち上がりが確実。下側の山では1回戦でヘンク・フロル(オランダ)とユーリ・クラコヴェツキ(キルギスタン)が戦い、その勝者、おそらくフロルが、3回戦でキム・スンミン(韓国)とツシシヴィリへの挑戦権を賭けて争うことになる。相性的には重量級が体を捨てたところを捲るのが上手いフロルに分があるが、最近のキムは非常に好調。馬力も全盛期のそれを彷彿させるところまで戻ってきており、今回はキムが勝利すると予想する。ツシシヴィリはキムのような素直なパワーファイターを非常に得意としており、過去の対戦時には両袖を絞った状態からの大外刈で真っ向からねじ伏せている。ベスト4進出はツシシヴィリでまず間違いないだろう。ただし、ここにフロルが勝ち上がった場合には、相性的にかなり揉める可能性が高い。両者の対戦成績はフロルの2勝1敗。いずれの試合でもフロルの機動力と懐の深さのためにツシシヴィリのよさがほとんど消されてしまっていた。今年のヨーロッパ選手権ではツシシヴィリが勝利しているものの、フロルに「技有」を奪われての逆転勝ちだった。あくまでも勝者はツシシヴィリと予想するが、フロルがツシシヴィリにとっての「ジョーカー」であることは間違いない。このカードが実現した場合にはここで王者が陥落する可能性も高く、必ずチェックしたい一番だ。

【プールB】
第4シード:原沢久喜(百五銀行)
第5シード:ラファエル・シウバ(ブラジル)
有力選手:ウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)、ステファン・ヘギー(オーストリア)、ヴラダト・シミオネスク(ルーマニア)、アンディー・グランダ(キューバ)

勝ち上がり候補は原沢久喜(百五銀行)。詳細は本文を参照されたし。

【プールC】
第2シード:ルカシュ・クルパレク(チェコ)
第7シード:ロイ・メイヤー(オランダ)
有力選手:ウラジスラウ・ツィアルピツキ(ベラルーシ)、ベクムロド・オルティボエフ(ウズベキスタン)、イナル・タソエフ(ロシア)、ウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)

上側の山はルカシュ・クルパレク(チェコ)が勝ち上がり候補。しかし、3回戦で対戦する位置に苦手な担ぎ技系のベクムロド・オルティボエフ(ウズベキスタン)が置かれている。この選手とは地力の差があるが、相性的に考えると苦戦は避けられないだろう。

一方、下側の山では2回戦でロイ・メイヤー(オランダ)とイナル・タソエフ(ロシア)が対戦し、その勝者が3回戦でウルジバヤル・デューレンバヤル(モンゴル)と対戦する。このなかで最も地力があるのはタソエフだと思われるが、この選手は後の先の選手であり、担ぎ技連発ファイターのメイヤーとは相性が悪い。過去の対戦でも一方的に「指導3」を奪われて敗れており、今回もメイヤーが勝ち上がるはずだ。ウルジバヤルとメイヤーは2015年を最後に対戦していないが、その時点ではメイヤーの2勝1敗。ただし、ウルジバヤルは2016年後半から一気に力をつけてきた選手であり、2015年と現在の強さは完全な別物。ここはウルジバヤルの勝利と予想したい。

よって、準々決勝のカードはクルパレク対ウルジバヤル。両者の対戦成績はクルパレクの2勝1敗。しかし、直近の対戦である2018年バクー世界選手権の3位決定戦では、ウルジバヤルが勝利している。相手を抱き込みたいクルパレクに懐に潜り込みたいウルジバヤルと、両者の間合いは完璧に噛み合い、これまでの対戦は必ず接戦。今回も競った内容になると思われるが、ここは最近の勢いと担ぎ技を保有していることの利を買って、ウルジバヤルの勝利と予想したい。

【プールD】
第3シード:ダヴィド・モウラ(ブラジル)
第6シード:オール・サッソン(イスラエル)
有力選手:キム・ミンジョン(韓国)、ベクボロト・トクトゴノフ(キルギスタン)、ヨハネス・フレイ(ドイツ)

上側の山からはダヴィド・モウラ(ブラジル)の勝ち上がりが確実。一方、下側の山では2回戦でオール・サッソン(イスラエル)とキム・ミンジョン(韓国)のカードが組まれることとなった。ともに担ぎ技の使い手だが、完成度はまだまだサッソンの方が数段上。キムは上背のないタイプでサッソンが担ぎ技を仕掛けにくい可能性もあるが、この選手は影浦心(日本中央競馬会)と対戦した際にも一切窮することなく担ぎ技を仕掛けており、今回も関係なく自らの柔道ができるだろう。勝ち上がりはサッソンと予想する。サッソンは次戦で好選手ヨハネス・フレイ(ドイツ)との対戦が組まれているが、どちらが勝ったとしてもここはそれほど問題なく勝ち上がるはずだ。

準々決勝のカードはモウラ対サッソン。この両者の対戦成績は1勝1敗、直近では今年3月のグランドエスラム・エカテリンブルクで対戦しており、その際はサッソンが背負投で一本勝ちしている。接戦となることは確実だが、相性、地力ともにサッソンに分があり、ここはサッソンの勝利と考えるべきだろう。よって、ベスト4進出者はサッソン。

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