【東京世界柔道選手権2019特集】組み合わせ抽選を踏まえて、男子最大の混戦階級を見通してみる・男子81kg級直前展望
→東京世界柔道選手権2019組み合わせ(公式サイトippon.org内)
エントリーは82名。「概況×有力選手」で示した予想からの、シード選手配置の変更はなし。階級の現況と見通しについては「概況×有力選手」を、選手の特徴については「有力選手(選手名鑑)」をご覧頂きたい。階級の現状に即して、大量20名の特徴や組み手、得意技を掲載している。
これまで何度も「優勝候補20名」と評させて頂いてきた激戦階級の81kg級。現在もこの傾向は続いているが、2年半余りにわたる攪拌の末に最近は比較的上位陣の顔ぶれが固まってきている印象。今大会では、特に成績が高い位置で安定している5名を優勝候補としてピックアップ(「概況×有力選手」の図「実力推測マップ」参照)させて頂いた。そのうちシード権を持っている選手は4名。それぞれの配置は、サイード・モラエイ(イラン)がプールA、サギ・ムキ(イスラエル)と藤原崇太郎(日本体育大3年)がプールC、ヴェダット・アルバイラク(トルコ)がプールD。そしてシード外に漏れていたハサン・ハルモルザエフ(ロシア)はモラエイと同じプールAに配された。モラエイとハルモルザエフはともにプール上側の山に置かれており、対戦するのは4回戦。この段階でどちらかが決勝ラウンドに残れずに大会を去ることになる、非常に厳しい組み合わせだ。
日本代表の藤原は前回大会の銀メダリスト。ただし同大会での藤原は非常に組み合わせに恵まれていた。地上波でのみ観戦された方はご存じないかもしれないが、実は藤原とは反対側のブロックでは有力選手が投げて投げられての大激戦を繰り広げており、近年の世界選手権でもまれに見る「地獄」とも形容すべき潰し合いが行われていたのだ。(余裕があればこちらにまとめられている昨年大会の模様をご確認いただきたい。そのレベルの高さと面白さに驚かれるはずだ)。
さて、今大会の藤原の配置だが、昨年とは打って変わって非常に厳しいものとなっている。ベスト16までは特筆すべき強豪との対戦はないものの、以降は4回戦でアレクサンダー・ヴィーチェルツァク(ドイツ)、準々決勝でムキ、準決勝でアルバイラク、決勝でモラエイとハルモルザエフの勝者と対戦せねばならない、優勝候補のフルコースである。昨年結果としては裏ルートから頂上決戦まで勝ち上がった形の藤原だが、今年は正規ルートの登攀に挑まねばならない。まことに厳しい、過酷としか言いようのない組み合わせだが、以降のツアーを見る限りでは藤原の力は本物。仮に昨年厳しい側の山にいても十分に勝ち上がれたと思われ、今回の組み合わせはむしろ実力を世界に示すチャンスでもある。正面からトーナメントを勝ち上がり、決勝では過去2敗のモラエイにリベンジマッチを挑みたい。
なお、世界選手権のようなビッグトーナメントではそこで突如ブレイクを果たす伏兵が現れるのが常となっているが、この81kg級ではその傾向は他階級に比べて何倍も高い。下記有力選手に挙げられていない選手が突如世界王者となる可能性も十分。序盤戦からこのあたりにアンテナを張っての観戦をお勧めしたい。率直に言うが、当方は、1人か2人「誰この人?」というとんでもない出来の選手が現れると踏んでいる。
有力選手の配置、各プールのひとこと展望は下記
【プールA】
第1シード:サイード・モラエイ(イラン)
第8シード:イヴァイロ・イヴァノフ(ブルガリア)
有力選手:ハサン・ハルモルザエフ(ロシア)、アントワーヌ・ヴァロア=フォルティエ(カナダ)、イ・スンホ(韓国)、ナシフ・エリアス(レバノン)
前述のとおり、上側の山にはサイード・モラエイ(イラン)とハサン・ハルモルザエフ(ロシア)が揃って配されており、4回戦で潰し合うことになる。一方、下側の山からは常の実力ならばシード選手のイヴァイロ・イヴァノフ(ブルガリア)の勝ち上がりが有力だが、この選手の初戦(2回戦)の相手はなんと7月の2大会で2位を獲得して好調のアントワーヌ・ヴァロア=フォルティエ(カナダ)。さらにここを勝ち上がった選手は4回戦で好選手イ・スンホ(韓国)と階級を下げて今大会に臨んでいるもと90kg級屈指の曲者ナシフ・エリアス(レバノン)の勝者と対戦することになる。いずれも実力者であり様相の予想は困難。ここでは仮にイヴァノフの勝ち上がりを予想するが、誰が勝ち上がってもおかしくない大混戦プールだ。
【プールB】
第4シード:マティアス・カッス(ベルギー)
第5シード:ドミニク・レッセル(ドイツ)
有力選手:アントニオ・エスポージト(イタリア)、ディダル・ハムザ(カザフスタン)、スルジャン・ムルヴァリエヴィッチ(モンテネグロ)、アルファ=ウマ・ジャロ(フランス)
比較的穏やかなブロック。上側の山では今年のヨーロッパ選手権王者マティアス・カッス(ベルギー)の力が抜けており、この選手の勝ち上がりが濃厚。下側の山からはこの階級最大の曲者ドミニク・レッセル(ドイツ)が勝ち上がると予想されるが、この選手は初戦(2回戦)で昨年のアジア競技大会王者ディダル・ハムザ(カザフスタン)の挑戦をうけることになる。両者はともに極端な後の先タイプであり、相手が前に出てくればこそ強さを発揮するレッセルにとっては戦いにくい相手。あくまでもレッセルが勝ち上がると予想するが、厳しい戦いとなることは間違いない。この山の下部からは左右の大内刈を使い分けるフランスのパワーファイター、ルファ=ウマ・ジャロ(フランス)が勝ち上がってくると思われ、レッセルとハムザの勝者とベスト8を賭けて争うことになる。
【プールC】
第2シード:サギ・ムキ(イスラエル)
第7シード:藤原崇太郎(日本体育大3年)
有力選手:ルスラン・ムッサエフ(カザフスタン)、アスラン・ラッピナゴフ(ロシア)、ロビン・パチェック(スウェーデン)、アッティラ・ウングヴァリ(ハンガリー)、ウラジミール・ゾロエフ(キルギスタン)、シャラフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)、ダミアン・シュワルノヴィエツキ(ポーランド)、アレクサンダー・ヴィーチェルツァク(ドイツ)、アレクシオス・ンタナツィディス(ギリシャ)
前述のとおり、サギ・ムキ(イスラエル)と藤原崇太郎(日本体育大3年)が詰め込まれたブロック。上側の山には多くの強者が配置されており、ムキは初戦(2回戦)でルスラン・ムッサエフ(カザフスタン)、3回戦でアスラン・ラッピナゴフ(ロシア)とアッティラ・ウングヴァリ(ハンガリー)の勝者、4回戦でウラジミール・ゾロエフ(キルギスタン)の挑戦を受けることとなる。あくまでも勝ち上がりの候補はムキだが、ウングヴァリやラッピナゴフも表彰台クラスの力があり、気の抜けない過酷な組み合わせとなっている。1回戦のラッピナゴフ対ロビン・パチェック(スウェーデン)、2回戦のラッピナゴフ対ウングヴァリは好カード、是非チェックしたいところ。
下側の山からは藤原の勝ち上がりが濃厚。4回戦以降の見通しについては本文で触れたとおりだが、初戦(2回戦)で対戦予定のシャラフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)と3回戦で対戦予定のダミアン・シュワルノヴィエツキ(ポーランド)はワールドツアーの表彰台経験がある実力者。特にシシュワルノヴィエツキは昨年大会で5位を獲得しており、要注意マークをつけておかざるを得ない。ムキと同様こちらも初戦から力のある選手と続けて戦わねばならない組み合わせとなっており、力を残して上位戦に勝ち上がれるかも重要なポイントとなる。
【プールD】
第3シード:フランク・デヴィト(オランダ)
第6シード:ヴェダット・アルバイラク(トルコ)
有力選手:モハメド・アブデラル(エジプト)、エドゥアルド=ユウジ・サントス(ブラジル)、アンリ・エグティゼ(ポルトガル)、エマニュエル・ルセンティ(アルゼンチン)、エティエンヌ・ブリオン(カナダ)、ルカ・マイスラゼ(ジョージア)、オトゴンバータル・ウーガンバータル(モンゴル)、クリスティアン・パルラーティ(イタリア)、サミ・シュシ(ベルギー)
上側の山にはフランク・デヴィト(オランダ)、モハメド・アブデラル(エジプト)、アンリ・エグティゼ(ポルトガル)と階級を代表するパワーファイター3名が詰め込まれた。組み合わせではデヴィトとアブデラルが3回戦、その勝者が4回戦でベスト16進出を賭けてエグティゼと戦うことになる。ただし、エグティゼは2回戦でエドゥアルド=ユウジ・サントス(ブラジル)、3回戦でエティエンヌ・ブリオン(カナダ)との対戦が組まれており、かなり過酷な組み合わせ。実力的にはデヴィトの勝ち上がりを予想するが、この選手はクロスグリップを持っての自爆癖があり、その戦いぶり極めて不安定。上記4人全員に等しくベスト8進出の権利があると考えるべきだろう。
一方、下側の山も強者がぎっしりと詰め込まれており、優勝候補の1人であるヴェダット・アルバイラク(トルコ)は、初戦(2回戦)でワールドツアーで3大会連続メダル獲得中のジョージアの新鋭ルカ・マイスラゼ(ジョージア)、3回戦でオトゴンバータル・ウーガンバータル(モンゴル)、4回戦で昨年の世界ジュニア選手権王者クリスティアン・パルラーティ(イタリア)とサミ・シュシ(ベルギー)の勝者と対戦せねばならない、過酷な組み合わせ。こちらも勝ち上がり候補はアルバイラクだが、マイスラゼやオトゴンバータルが勝ち上がる可能性も十分にあり得る。