「今年度大会のみどころ、私の注目選手」~「一回戦」/eJudo版・令和3年全日本柔道選手権予想座談会(上)
一回戦
小川竜昴(近畿・日本製鉄) ― 小林悠輔(東海・有限会社渡邉電設)
古田 まず1回戦第一試合は小川竜昴選手と小林悠輔選手。
朝飛 最初からすごいですね。
林 いいカードですね。
古田 小林選手は昨年度大会のベスト8進出者。今大会は序盤戦のカードがいいんですよね。
西森 実に。
古田 では西森さんからお願いします。
西森 左相四つですよね。ともに攻撃型の選手。小林選手のほうが丁寧に組み付いてきて、小川選手のほうがやや強引であっても大外刈中心に攻め込んでくるというタイプの違いはあるのですけど、噛み合えば、全日本選手権の開幕を飾るにふさわしい攻め合いになるのではないかと思います。個人的にはやはり小川選手が強引にでも前に出ていく展開になると思います。それから、小林選手が旭化成を辞めて、今の練習環境はどうなのかなと思うところはあります。この意味では、日本製鉄で充実した稽古が出来ているであろう小川選手のほうが有利ではないかと予想します。
古田 朝飛先生いかがでしょう。
朝飛 昨年の試合から言いますと、2人とも、組み手も攻め方も凄く丁寧で確実に勝つに行くという形。それぞれ右の石内選手と太田選手にその生命線の組み手を崩されたような形だったと思うんですけど、ですからまず組み手がしっかり進められるかはポイントになりますね。そして、いま言われた小林選手の環境が変わってどうなのかというところですが、資料で体重を見たら100キロで登録されているんですね。少し体が大きくなっている。身長174センチで100キロとなると、少しイメージが変わります。当初は小川選手の大外刈か内股の足がうまく引っかかるのかな、と思ったんですけど、体重の差がさほどないとなるとこれはどうでしょう。・・・でも小川選手のほうが攻撃的に行って、手堅くそれを小林選手が捌く形を作りながら、しかし小川選手がどこかで?いで?いでという場面が出て・・・。やはり小川選手が有利かというふうに見えますね。
古田 林さんいかがでしょう。
林 小川竜昴選手は今回、近畿で5位ですよね。一時期は近畿で優勝するぐらいの力で、ものすごく脂が乗っていた時期があった。その時期に結果があまり残せなかったのは惜しかった。飛躍すべき時に少し巡りを掴めなかった感じですね。今回こそは頑張って欲しいところです。小林選手は去年非常に良い柔道をしました。体が大きくなったのは、体重別ではなくてこの全日本にターゲットを定めたからなのか、それとも環境が変わっていまひとつ練習が積めていないのか、これはこの時点では判断がつかないですけれども、東海地区予選が全試合一本勝ちというところでは、大きさそれ自体が武器になっている可能性はあると思います。決勝リーグも菅原健志選手、山本考一選手、中川裕喜選手を相手にすべて「一本」で勝っているようですので、決して侮れないというか、良い状態で臨んでくる可能性はありますね。
西森 小川選手は日本製鉄の主将です。日本製鉄はいま近畿大会の代表を独占するぐらい充実していますので、それを束ねていくという意味では良い稽古ができているのではないかと思います。余談ながら、昨年もお話ししましたけど、日本製鉄はホームページがかなり充実していまして。それによるとマイブームはサウナだと。
一同 (笑)。
西森 いい感じで整えてくるんじゃないかと思います。
林 なるほど(笑)。…古田さんの見解は?
古田 どちらも組み手が上手い攻撃型ですけど、小川選手のほうが、膠着したときに大きい技を出す「破れ」があるのかなというふうには思ってはいます。小林選手は環境が変わったということで、「組み手がものすごく上手い」「技一発が鋭い」どちらの面が出てくるかだなと。柔道選手は体形が変わったり十分稽古が出来ていないと、自分の芯というか「ここまでは出来る」という土台の部分に回帰する傾向があるので、このどちらに寄るのかで大きく運命が変わる気がします。
林 去年は中野寛太選手を破り、熊代選手を破って物凄い活躍でした。ただ、あの勝利は「上手さとスピード」が源泉でした。ああいうスピードが活かせるような柔道じゃないと全日本は厳しいかもしれませんね。
古田 100キロに上げてなお小林選手の「鋭い技」の側面を生かすとなると、技の組成というか投げる所以がそもそも変わって来る気がするんですよね。・・・便宜上必ず勝敗を決めるということで、皆さんのお話からは小川選手を推すという形で大丈夫でしょうか。
朝飛・林・西森 はい。
古田 いつも林さんがおっしゃる、「初戦が面白い全日本は面白い」。これが非常に期待できるカードであることは間違いないと思います。
林 ガツンと一本勝負、に期待したいですね。
古田 どちらも技が決まれば派手な選手ですから。良い技を期待したいと思います。では、仮に小川選手の勝利ということで話をすすめさせて頂きます。
田中源大(近畿・日本製鉄) ― 山本悠司(九州・旭化成)
古田 第2試合、近畿・田中選手と九州・山本選手です。朝飛先生いかがでしょう。
朝飛 田中選手、去年、試合を見ていて感心していたのですが。圧を掛けて相手を場外際に詰めた時の出足払が本当に上手なんですよね。相手の山本選手も技の威力があるので、重量級でも持っていく形も見えますが、田中選手がそれをうまく捌きながら、圧を掛けて足で掻き回わし有利に進めるように思います。
古田 林さんいかがでしょう。
林 かつて田中選手が大学生のころ、やはり全日本選手権のプログラムの取材の際に、上川大樹選手に「明治大で一番良いのは誰?」って聞いたことがあるのですが、彼は「田中源大ですね」と即答していたのですよね。
朝飛 そうそう。
林 ただ、ケガもあって大学時代はこれという結果が出せなかった。彼の代は小川雄勢選手と川田修平選手と併せた有望選手3人が一気に入って、これは明治大の全盛期が来るのではないか、全日本学生優勝大会を獲るのではないかと大いに期待された代なのですが、結果として不発に終わった。ただ、奇しくも今回その3人が3人とも皆出ている。僕は皆かなり地力をつけて来ていると見ています。田中選手は近畿地区大会も優勝していますし、今年はかなり面白いのではないかと、見ています。
古田 西森さんいかがでしょう。
西森 ケンカ四つですよね。田中選手は圧のかけ方がうまいので、山本選手の入り際だとかを出足払で狙ったり。
古田 そうそう。
西森 一方、体落で圧をかけながら捻ってきたりとか、そういう展開になるのかなと思います。ただ、山本選手ももともとは73㎏級でインターハイを獲り、天理大に行って最後は81㎏に上げて、今回は体重86キロで登録。相当パワーアップしていることが予想されます。なので田中選手といえども簡単にはいかないのではないか。
古田 あの柔道でパワー・体格が増したらかなり面白いですよね。
西森 はい。これもどんな試合になるか、非常に楽しみです。…どうでもいい小ネタなんですけど、山本悠司選手は帯広農業高校出身。こちらの監督が野田慎太郎さんという天理大出身の先生で、実は私高校1年生のときに全日本ジュニアで対戦して、内股で綺麗に投げられたんです。という訳で山本選手には勝手に思い入れを感じています(笑)。
一同 (笑)。
古田 山本選手は高校生のころから取材対象ですが、そのころからずっと、ふとした時などきちんと挨拶をしてくれて、非常にいい男ですよ。
西森 インターハイの決勝の相手が吉田優平選手。今大会はその世代がけっこう多いのですよね。
古田 地力も才能も持ちながら学生の時になかなか突き抜けられなかった人たちが、こうやって全日本という場を得て、再び柔道家として面目を施す機会を得たのは喜ばしいです。・・・山本選手も基本的には動いて担ぎ技の選手。というところでは、やはり田中選手に払い技があるのがポイントかもしれないですね。軽量選手の常の対重量級戦、圧をかける相手に動きの中で攪乱という戦型の中では、重たい側に払い技があるというのは非常なプレッシャーになるのではないでしょうか。
西森 田中選手は上背もそんなにないので、山本選手が担ぎに入るにしてもけっこう窮屈だと思います。だから入り端を切り返されたり、というシーンは頭に浮かびます。
古田 同感です。そして入り際に投げられなくても払い技が入っていくことで、だんだん田中選手の圧がきくようになっていくという展開は予想ができますね。皆さんのお話のニュアンスから田中選手の勝ちを予想するという形で進めたいと思いますが、よろしいでしょうか。
朝飛・林・西森 はい。
古田 どの選手も良い選手でなかなか言い難いとは思うんですけど、元祖「機関誌柔道」の座談会の先生方のように一種冷徹に「こちらが勝つと思います」という感じを少し濃くして、進めていきましょう。
朝飛 予想されなかったほうの選手が、それを見て頑張るなんてこともありますしね。
中西一生(東京・国士舘大) ― 大瀧和(中国・岡山県警察)
古田 続きまして第3試合。国士舘大・中西選手と中国地区代表の大瀧選手の試合。・・・林さんいかがでしょう。
林 中西選手は、ここ1ヶ月の3大会を見ていてもやはり学生の中では抜けた存在、非常に実力がある選手という印象を強く持ちました。中西選手の優位を予想します。
古田 西森さんいかがでしょう。
西森 大瀧選手は近代福山高から國學院大、2017年に國學院大が全日本学生優勝大会のベスト8に入ったときの主力メンバーですね。トリッキーなタイプではなく、大内刈を中心としたオーソドックスな正統派の柔道であったと記憶しています。中西選手は今伸び盛りですよね。春に全国体育系大会の90kg級で優勝、先月の全日本学生体重別選手権で決勝まで進みましたし、今や国士舘大の主力です。まだ技術的に粗いところもあるというのは感じますが、その粗さも含めていま非常に伸びているという印象。私もここは中西選手がその勢いで大瀧選手を押しきるのではないかと思います。
古田 朝飛先生はいかがでしょうか。
朝飛 大瀧選手がどれだけ試合の数を積んで調整出来ているかはわからないのですが、中西選手はいまかなりの数の試合をこなしています。それによって自分の弱いところも見つけて修正して、いいリズムを得て、勢いもあると思います。こういう伸び盛りのときに上手く行かないところを何回も経験して良くなっていくというのは、一番勢いが出るんですね。その勢いが勝ってしまうのかなと。
古田 いま御三方とも、学生3大会の中西選手の活躍をあげられたわけですが。私はこの3大会の直前に行われた東京柔道選手権、この大会の出場を決めた試合を見ることが出来たのですが、熊代選手を背負投で思い切り投げたあの日の出来からすると、学生3大会の彼はむしろ調子が悪かったとすら思いますよ。
朝飛・林・西森 ああ~。
古田 中西選手はこんなものではない、と記事の中で庇おうかと思ったくらいです。学生体重別などは初戦を見て「今日はずいぶん元気がないな、大丈夫かな?」と思ったくらいですが、きちんと決勝まで進みましたからね。大会が進むごとに疲労感が強くなってきた印象でした。今回は減量もありませんし、きちんとコンディションを整えて来たらばかなりの力を出してくれると思っています。・・・ではここは、皆さまの意見が揃ったということで中西選手を推して、次の試合に進みたいと思います。
飯田健伍(関東・京葉ガス) ― 古田伸悟(近畿・日本製鉄)
古田 続きまして関東・飯田選手と近畿・古田選手の戦いです。
西森 飯田選手は出場4回目。実はまだ1回も勝利をあげることが出来ていません。最初に出た時が増渕樹選手に敗れ(平成24年大会)、次が日大にいた西村久毅選手に敗れ(平成28年大会)、去年は後藤龍真選手に敗れている。とっくに勝っていても全然おかしくないぐらいの実力がありながら、なかなか白星をあげられていないということで、今回に掛ける気持ちはかなり強いものがあると思います。古田選手とは互いに力を伝えやすい相四つだと思いますので、どういう作戦をもって臨んでくるのか楽しみにしています。古田選手は去年も出場したのですが、佐々木健志選手と初戦で当たって、ほとんど何もできないまま抑え込まれたような形になってしまったので、こちらも期するものはあると思います。お互いの気持ちがぶつかり合うような試合になるのではないでしょうか。勝敗自体に関してはベテランの味ということで飯田選手の勝利を予想したいと思います。
古田 うーむ。昨年の、短い時間ながら古田選手が見せたポテンシャルというか、天理大出身らしい真っ向勝負の絶対値高い「強さ」を感じたところもあるのですが。外連味のある飯田選手の柔道に、オーソドックスタイプの「強さ」を出しに行く古田選手という構図で見ていて、なかなか予想が難しい試合だなと思っています。朝飛先生いかがでしょう。
朝飛 いま古田さんが言われた通りで、「天理の選手」はたとえ不利であっても一発投げるのではないかという魅力がありますよね。羽賀選手が優勝大会で安田知史選手に一本背負投で思い切り投げられてしまったり(※2013年全日本学生柔道優勝大会準決勝)。去年は初戦で敗れはしましたが、古田選手の入り方の面白さというか、そういうところは確かに感じました。古田選手の入り方がバツっと合ったら、大外刈、内股が見られるのかなと思うところもあります。ただ、こういうことを言うと失礼かもしれませんが、柔道が良いゆえ綺麗すぎるというかそういうところを突かれると苦しくなる部分もある。
古田 勝敗決め難いでしょうか。林さんはいかがですか?
林 古田選手を推します。正統派の、天理大らしい良い柔道を買います。なんとなくですが、古田選手が勝つ気がします。
古田 飯田選手は少年柔道加熱期の産で、キャリアも面白く、これまで触れた柔道も多様。組み手も上手ければ技も威力があって上手い、それでいて手練手管で勝つことも出来る。ただ、そういうタイプが全盛であった時代を経て、今の競技世界では、ルール的にも、ファンのニーズ的にもしっかり持って投げる天理型の柔道への欲求が高まっている気がします。林さんの「なんとなく」の裏には、そういう空気感も一役買っているのではないかと思いますね。・・・票が割れましたね。
林 飯田選手のキャリアは面白いですね。もっと勝っていてもおかしくない。
古田 はい。少し歯車のかみ合わせが変われば、既に「全日本の門番」の地位を確固たるものにしているというシナリオもありえたと思います。
朝飛 本当にそう思いますよ。地力はかなり、あります。年を経るごとに少しのんびり型になって来ているのかなという風には見えますけど。
古田 まとめに掛かりましょう。西森さんは飯田選手を推していますが、林さんは古田選手。朝飛先生は?
朝飛 先ほどの、大外刈か内股に引っ掛かるのではといいところで、古田選手を推します。
古田 はい。では西森さんは飯田選手を押しつつも、全体の論としては古田選手が勝ちあがるということで先に進めてまいりたいと思います。
佐藤正大(関東・自衛隊体育学校) ― 岩崎恒紀(四国・香川県警察)
古田 関東・佐藤正大選手と四国・岩﨑選手の試合となりました。ここは西森さんに岩崎選手を紹介してもらうところからですかね。
西森 岩﨑選手、初出場です。中央大が2018年優勝大会ベスト8に入った年の優秀選手にもなっています。これが3年生の時で、4年生の時は主将。なんと法学部です。
古田 「中央の法」! すごい!
西森 作陽高校でも学業成績は非常に良かったと聞いています。中学時代も世界史などは学年トップというくらい、勉強もできる子だったということです。得意技は大内刈。すらっと立って組んで、そこから足技などで攻める非常にきれいな正統派の柔道ですね。今大会に北信越代表で出ている金沢学院大の中村拓郎選手にも、2018年の学生優勝大会では大内刈で一本勝ちしています。その時は準々決勝で筑波の田中英二朗選手に合技で勝っていたりと、実力者ですね。ただし、勝負となると、この正統派の岩﨑選手が対峙するのが……。
古田 そこですね。いま「綺麗な柔道」と聞いた時に、全員がそう思ったでしょうね。
西森 出場選手の中でもっとも、しぶといというか、やりにくいというか、「読めない」佐藤正大選手なわけです。岩﨑選手の良さがなかなか出させてもらえないのではないかという気がします。去年、七戸選手にあれだけ粘った末に一本背負投で投げたり、羽賀選手にも最後まで投げられずに内股を受け切ったりと、一種異様なものを感じさせる佐藤選手の柔道が岩﨑選手を封じ込めるのではないかと予想します。
古田 佐藤選手の異様さ。面白いんですよね。佐藤選手は関東地区予選で山梨学院大の畠山竜弥選手と試合をしたのですが、畠山選手はご存じの通り組み手が命。切って、一方的に持っては場外めがけて押し込んでいく。100kg級の相手にそういう柔道をされると2階級下の佐藤選手はどうしても場外際に押し込まれてしまうわけですが、佐藤選手の方は組み合って投げたいわけですよ。そうすると、場外際で徳俵に足が掛かっている佐藤選手のほうが物凄く怒って一声叫んだりするわけです。表情も凄い。あべこべですよね。本来この絵なら「来い」とアピールするのは、押し込んでいる相手の方のはずなのに。佐藤選手の気迫に気圧されたのか「指導」もなかなか出ない。相手がそれでいまひとつ行き切れないうちにだんだん試合の流れが佐藤選手の側になってきて、最後は一発投げて勝ってしまった。怖ろしいですよ。なかなか昨今の日本でこんな試合は見られない。場外に詰められている側が威嚇して叫ぶのですから。相手は怖かったと思います。
朝飛 体重別団体の時も、東海大と戦っている時に、途中で顔をはたいて出直したときがありましたね。なかなか気合いの男ですよね。
古田 試合前に気合いを入れる様には、毎度注目しています。試合中に思わぬところで笑みを見せたり、引き手争いのさなかに自分の頬を叩いたり、とにかく見ていて飽きない選手です。…岩崎選手は私にとっては作陽高時代のイメージが強く、となるとあそこもいま「気合いの入った入場」に特徴のあるチームですが、岩崎選手はちょっと毛色が違うかな。…ここは、佐藤選手のしぶとさ、巧さが岩崎選手のスケール感ある柔道を凌ぐということでよろしいでしょうか?
朝飛 そうですね。しかも初戦ですから、まだ手も「上がっていない」ですね。手が良く動く、一番いいときですね。手が止まらない。佐藤選手が手を止めず、動かし続ける絵が見えます。
古田 そこで「手」が出てくるのが、朝飛先生、たいへん本質的というか、言葉がいいなぁと思いました(笑)。では、佐藤選手の勝ち上がりということで次に進めさせて頂きます。
中村雄太(東京・東海大) ― 垣田恭兵(九州・旭化成)
古田 東海大の1年生・中村雄太選手と、先ほどから幾度も話に出てきております旭化成・垣田恭兵選手の試合となりました。いやあ、魅力的なカード!
朝飛 本当にこれが初戦でいいのか、というほどの好カードですね。中村選手は東海大仰星高時代からこの世代の中心選手として活躍していて、1年生ながら大学でもレギュラーを張っています。そして垣田選手はこういう大物というか、これから出てくるぞ、という選手とやるのが好きなのではないかと。
古田 間違いなく大好物だと思います。
朝飛 大好物だと思いますよね。だからもう「いいよ、組んで」みたいな感じで、組み手も一見それほどこだわらずに組んでいるようにみえて,しっかりポイントを押さえ、中村選手がここで捉えるか、というギリギリのところで掛け返したりとか、そういうところが見られるのではないかと思います。
西森 大物のブリを釣るような昂ぶりを感じているんじゃないですかね(笑)。
古田 西森さん、いま「これを言いたい」オーラが凄く出ていました(笑)。
朝飛 中村選手もいま物凄い勢いで伸びている選手ですので、良いところに入れば何が起こるかわからない。これもまた楽しみです。
西森 私もすごく楽しみです。中村選手、この間の優勝大会で千野根有我選手を投げましたし、1年生で有望なのはわかっていたのですけど、今物凄く伸びてるんですね。 (註:座談会後、12/19の全日本ジュニアでは優勝を飾った)。重量級なんですけど重量級らしからぬ技の組み立てというか、彼は大内刈が一番の武器なんだと思うのですけど、千野根選手を投げたときはここから大外落に繋ぎました。
古田 高校の時はもう少し「縛りのある」正統派柔道でしたが、引き出しが増えたのですね。
西森 ただ、まさにそういう相手こそ垣田選手の大好物です。ケンカ四つでもありますし、垣田選手が後ろに食いついて、というような絵は容易に浮かんできます。
古田 中村選手、東海大の上水研一朗監督は「1年生だけど1年生じゃない」とほぼエース扱いでした。ただし、その学生優勝大会の日体大戦で、まさに攪乱タイプの石原樹選手に掻きまわされて、襟を取りに手を伸ばしたところに「韓国背負い」を食らってしまった。攪乱タイプということで言うと垣田選手は国内最高峰ですから、これはなかなか大変です。林さん、いかがですか?
林 う~ん。ここはある意味1回戦でいちばん面白いカード。垣田選手には老獪さとそもそもの強さ自体があり、中村選手は若いけど上手さもあり。・・・中村選手に越えてほしい壁ですけど、垣田選手にはまだまだだぞ、と言って欲しい。どちらにも勝って欲しいのですよね。
朝飛 垣田選手はもう罠をいくつも張って待ってますよね、たぶん。たくさん罠を張って、中村選手は気付かないうちにそれを踏んでいるという。でも中村選手は逆に、さきほど古田さんがおっしゃった石原選手に投げられた試合を経て、かなり自分の柔道を見つめなおしてくると思うので。簡単には罠に掛からないと思うのですけど。・・・しかし垣田選手はとにかく老練。彼が腰に抱きついて、中村選手がどうしても内股に「いかされちゃう」ような絵が見えて来てしまう。
西森 1つのポイントは、中村選手が大内刈を掛けさせてもらえるか。ケンカ四つなので、なかなか引き手を簡単に取らせてはくれないでしょうし、釣り手だけでやってしまうと、まさしく日体大戦の二の舞になる。そこは中村選手も修正して、おそらく引き手を取りにいく、取れなかったら襟を持って大内刈で流れを作りに掛かるとか。
古田 彼、最近は「両襟奥」も上手く使っていますしね。
西森 はい。逆に、またそれを前提として垣田選手がどういう技を準備してくるのか。この「中村の大内刈」と引き手の周辺を巡る攻防には注目したいと思います。
林 若い中村選手に垣田選手と駆け引きを続けるのはやはり厳しいかな。古田さん、そろそろまとめます?
古田 もっとしゃべりたい(笑)。朝飛先生、中村選手って高校生の時、体落やりませんでしたっけ?
朝飛 なんかそのイメージありますね。
古田 両足つけて、体幹を生かしているイメージが強いのですよね。先ほど西森さんがおっしゃった通り引き手を持って繋がることが前提ですが、持ったまま両足を着けたまま崩して投げられる体落があれば1つカギになると思います。そうそう、「面倒な相手」ということでは、相四つではありますが、東京都予選は日体大卒の長井晃志を大内刈で投げています。近頃元気がないとはいえ、あの厄介な長井選手を投げて決めるのはかなりのものです。…とはいえ、勝ち上がりとしては、垣田選手を推すということでよろしいでしょうか?
朝飛・林・西森 はい。
古田 垣田選手の面白さはもちろん、いまグイグイ伸びている中村選手がどれほどの大物なのか、将来どこまで行けるのかを計る大きな試合になるのではないか、と思います。
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