【東京世界柔道選手権2019特集】日本人2強の組み合わせに明暗、永山竜樹はキムウォンジンとスメトフ、ウロズボエフを一手に引き受ける・男子60kg級直前展望
→東京世界柔道選手権2019組み合わせ(公式サイト ippon.org)
エントリーは74名。「概況×有力選手」で示した予想からの、シード選手配置の変更はなし。階級全体の勢力図についてはこの「概況×有力選手」、有力選手の特徴などは「有力選手(60kg級選手名鑑)」ページを参照されたい。
事前のシード予想のとおり、髙藤直寿(パーク24)と永山竜樹(了徳寺大職)はトーナメントの上下に配置が分かれ、直接対決が実現するのは決勝だ。
ドローの結果待ちだった不確定要素2名の配置は、ディヨルベク・ウロズボエフ(ウズベキスタン)がプールA、キム・ウォンジン(韓国)がプールBとなった。なんとキムは永山の直下に置かれており、両者は2回戦、つまり永山の初戦で激突する。もちろんこれが序盤戦最大の注目カードだ。永山としてはいきなりジョーカーを引いてしまった格好だが、相性的には決して悪くない相手だと思われる。両者に過去の対戦歴はないものの、キムは長身で線が細く、永山のスピードとパワーを生かすにはもってこいの相手のはずだ。永山にはベスト8以降、準々決勝でイェルドス・スメトフ(カザフスタン)、準決勝でウロズボエフと世界王者級との連戦が待ち受けている。初戦から消耗するわけにはいかない。出来れば永山らしい豪快な一撃で早々に勝利を収め、逆にこの難敵との対戦を上位対戦に向けた加速装置として利用してしまいたいところだ。名前はあるが、相性的にはおそらく分がある。考えてみれば、勢いをつけるにはこれ以上の相手はいない。体の長い相手ゆえ、安易に抱いて体捌き一発で試合が決まってしまうような「際」を作らせてしまうのではという点が少々心配だが、フィジカル的な優位を考えれば問題ないのではないだろうか。
というわけでキムはまずまず問題なし。やはり面倒なのはスメトフ。永山は担いで捨てて跳ねて、あるいは右に左に裏にと投げの種類も方向も多彩で技術的なレベルの高い選手だが、最大の武器はパワー。技の「掛かる」所以も平時の進退も意外に筋力頼みの面がある。そしてこの点での優位性が失われると急に苦しくなることがあり、パワーがあって絞ってくるタイプのガンバット・ボルドバータル(モンゴル)に2敗を喫しているのはこれが一因とみる。そして体重別制の競技では、体に搭載できる筋肉の量は身長に左右される。低身長の永山はこの点でアドバンテージがあるわけだが、スメトフの身長は永山とほとんど変わらぬ160センチ。周囲の「(スメトフは)力が強い」という証言を合わせて考えると、似たタイプのこの選手との試合は意外に苦戦となるのではないか。ガンバット同様スメトフは正対して戦うタイプで、脇に食らいついていくという永山のモードが1つ潰されていることも苦しい。初顔合わせのスメトフ戦、どういう方法論を以て戦うのか注目したい。
一方プールCに配された髙藤も、永山ほどではないものの、なかなかに面倒な組み合わせを引いた。初戦(2回戦)で当たるミフラジ・アックス(トルコ)は変則の谷落を使う伸び盛りの若手選手。さらにここを抜けても4回戦ではワリーデ・キア(フランス)と対戦する可能性が高く、ビッグトーナメントでこそ怖い捨身技系を2人も相手にしなければならない。いずれも現在の髙藤であれば博打を仕掛けるような場面自体を作らずに退けられるはずだが、一定の警戒はしておきたい。トーナメントが順当に進めば、準々決勝の相手はシャラフディン・ルトフィラエフ(ウズベキスタン)、準決勝がアミラン・パピナシヴィリ(ジョージア)になると予想される。プールDは混戦が予想されるため相手が変わる可能性もあるが、誰が上がってきたとしても髙藤にとってはそれほど大きな違いはないだろう。いずれにせよ、永山の相手と比べると相当に戦いやすい組み合わせであり、決勝に向けてできるだけ体力を温存して切り抜けたい。
前述のとおり永山の側はかなり過酷な組み合わせだが、それでも決勝は髙藤と永山によるライバル対決となるはず。お互いが持てる全てをぶつけ合っての熱戦に期待したい。
有力選手の配置、各プールのひとこと展望は下記。
【プールA】
第1シード:ロベルト・ムシュヴィドバゼ(ロシア)
第8シード:フランシスコ・ガリーゴス(スペイン)
有力選手:ヤン・ユンウェイ(台湾)、アシュリー・マッケンジー(イギリス)、ルカ・ムヘイゼ(フランス)、ディヨルベク・ウロズボエフ(ウズベキスタン)、ルフミ・チフヴィミアニ(ジョージア)、エリック・タカバタケ(ブラジル)
このトーナメントの最激戦区。上側の4回戦ではロベルト・ムシュヴィドバゼ(ロシア)とディヨルベク・ウロズボエフ(ウズベキスタン)が潰し合うことになり、いずれか一方はここで畳を去ることとなる。絶対値の高さでは圧倒的にウロズボエフが勝っているが、この選手は調子に波があり、常に一定のパフォーマンスを発揮できるムシュヴィドバゼとは相性が悪い。この段階ではウロズボエフ勝利と予想するが、確率としてはムシュヴィドバゼ勝利のシナリオの方が現実的だろう。いずれが勝利するにせよ、下側の山の顔ぶれを見る限りこちら側の勝者がベスト4まで勝ち上がるはずだ。なお、ムシュヴィドバゼの直下で組まれているヤン・ユンウェイ(台湾)対アシュリー・マッケンジー(イギリス)の1回戦も普段のワールドツアーならば上位対戦クラスの好カード。
一方、下側の山では2回戦でいきなりフランシスコ・ガリーゴス(スペイン)とルフミ・チフヴィミアニ(ジョージア)の対戦が組まれている。ともに階級のトップグループと第2グループの汽水域に位置する選手であり、どちらが勝ってもおかしくない好カード。実力ではガリーゴスに分があると見るが、チフヴィミアニは今年ヨーロッパ選手権を制して勢いに乗っており、面白い試合を見せてくれるはずだ。加えてこの勝者は次戦でエリック・タカバタケ(ブラジル)と対戦予定。こちらも3回戦屈指の好カード、しっかりとチェックしておきたい。
【プールB】
第4シード:永山竜樹(了徳寺大職)
第5シード:イェルドス・スメトフ(カザフスタン)
有力選手:キム・ウォンジン(韓国)、ヤニスラフ・ゲルチェフ(ブルガリア)、エリオス・マンジ(イタリア)
前述のとおり永山竜樹(了徳寺大職)とキム・ウォンジン(韓国)が2回戦で早くも激突する。有力選手としてはこの勝者と4回戦で当たる位置にヤニスラフ・ゲルチェフ(ブルガリア)が置かれているが、この豪華メンバーの前ではその存在感は無きに等しい。下側の山からはイェルドス・スメトフ(カザフスタン)の勝ち上がりが確実であり、この3名の対戦だけに注目すれば十分のはず。
【プールC】
第2シード:髙藤直寿(パーク24)
第7シード:シャラフディン・ルトフィラエフ(ウズベキスタン)
有力選手:ミフラジ・アックス(トルコ)、ワリーデ・キア(フランス)、トルニケ・チャカドア(オランダ)
髙藤直寿(パーク24)の勝ち上がりが確実。髙藤の序盤戦については本文で触れているため省略するが、無風状態の下側の山からは間違いなくシャラフディン・ルトフィラエフ(ウズベキスタン)が上がってくるはずだ。両者の対戦成績は髙藤の2勝0敗。いずれも一方的な内容での一本勝ちであり、今回も問題なく髙藤が勝利すると予想される。この2名以外の試合では、ワリーデ・キア(フランス)とトルニケ・チャカドア(オランダ)が髙藤への挑戦権を掛けてて戦う3回戦に注目したい。どちらも接近戦を得意とする選手であり、スリリングな投げ合いが見られるはずだ。
【プールD】
第3シード:アミラン・パピナシヴィリ(ジョージア)
第6シード:ダシュダヴァー・アマルツヴシン(モンゴル)
有力選手:ヨーレ・フェルストラーテン(ベルギー)、グスマン・キルギズバエフ(カザフスタン)、フェリペ・キタダイ(ブラジル)、チェ・インヒュク(韓国)
第2グループの有力選手が多く詰め込まれており、最も様相が読み難いブロック。シード選手のアミラン・パピナシヴィリ(ジョージア)とダシュダヴァー・アマルツヴシン(モンゴル)が実力では1歩リードしているが、ともにベテランであり調子次第では食われる展開も十分に考えられる。仮にこの両者が勝ち上がると仮定した場合には、過去に6勝2敗、現在3連勝中と分のよいパピナシヴィリが勝ち上がるはずだ。