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【東京世界柔道選手権2019特集】熱戦11分11秒、王者アグベニューが田代未来を破って3連覇達成・女子63kg級速報レポート

クラリス・アグベニュー、田代未来
熱戦11分11秒。死力を尽くした戦いを終え、勝者アグベニューが田代をかき抱いてその健闘を讃える

取材:eJudo編集部
撮影:乾晋也、辺見真也

→東京世界柔道選手権2019組み合わせ(公式サイトippon.org内)

東京・日本武道館で行われている東京世界選手権2019は28日、競技日程第4日の男子81kg級と女子63kg級の競技が行われ、女子63kg級はクラリス・アグベニュー(フランス)が優勝した。アグベニューは大会3連覇、4度目の優勝。決勝は昨年の銀メダリスト田代未来(コマツ)をGS延長戦の末に払巻込「技有」で破った。

準決勝、クラリス・アグベニューがユール・フランセンから後袈裟固「技有」
準決勝、クラリス・アグベニューがユール・フランセンから後袈裟固「技有」

この日のアグベニューは2回戦で強豪アリス・シュレシンジャー(イスラエル)を開始10秒の大内刈「一本」で畳に埋めるロケットスタート。以後も3回戦でプリスカ・アウィチ=アルカラス(メキシコ)を1分5秒所謂「ネクタイチョーク」(決まり技名称は片手絞)「一本」、準々決勝でリアオ・ユジュン(台湾)を12秒の大内刈「一本」と会場揺るがす豪快な技を連発。準決勝はユール・フランセン(オランダ)を後袈裟固「技有」で下して決勝進出。

一方の田代は硬さがみられ立ち技に常の伸びやかさを欠いたが、手堅い寝技に助けられる形で最初の2戦を抑え込みで突破。やや落ち着きを取り戻した準々決勝はサンネ・フェルメール(オランダ)を小外刈2発の合技「一本」で下し、勝負どころの準決勝は五輪金メダリストのティナ・トルステニャク(スロベニア)の反則負けという意外な形で勝利をおさめて、アグベニューへの挑戦権を得た。

田代未来
延長、田代未来が左大内刈。
クラリス・アグベニュー
技の終わりにアグベニューが左払巻込を叩き入れ「技有」

決勝は互いの引き手による袖の確保を最前線に、極めて戦略性の高い、緊張感ある競り合い。田代は組み手で相手を封じながら遠間で戦って消耗を強いるという大戦略を貫き、GS5分12秒には消耗し切ったアグベニューから「指導2」までをもぎ取りあと一歩で勝利というところまで迫る。しかし消耗し切った相手に選んだその出口は、力比べに持ち込みたい相手のフィールドである、クロス組み手からの抱きつき大内刈。アグベニューが踏みとどまるといったん手を離さざるを得ず技を中断、一瞬両手が離れたところを見逃さないアグベニューが払巻込に飛び込んで「技有」。熱戦ついに決着した。

疲労、達成感、そして悔しさのあまりしばし動けぬ2人であったが、アグベニューは田代を引き起こしてかき抱くと、持ち上げて抱擁。「人生でもっとも激しい試合」(本人談)を演じたライバルの健闘を讃えていた。

攻められても、あと一歩で投げられるところまで追い詰められても回避ではなく常に自分の攻撃に繋ぎ続けてついに勝利を得たアグベニュー、絶対王者をあと一歩まで追い詰めた田代。聖地・日本武道館の真ん中で大熱戦を演じた2人を讃える満場の拍手は、鳴りやむことがなかった。

トルステニャクの腰車が抜け、腕を極める形の反則となってしまう。
トルステニャクの腰車が抜け、腕を極める形の反則となってしまう。

アグベニュー、田代とともに「3強」に数えられたリオ五輪の覇者トルステニャクはこの日不調。得意の連続攻撃は鳴りを潜め、独特の前傾姿勢からの激しい釣り手の振り崩しも見られず、それでも散発で放つ左一本背負投は深く入り込めず相手は崩れない。それでも田代戦まで辿り着いたが、浅く放った左外巻込を強引に継続して、既に釣り手側に回り込んでいた田代の腕を逆に極める形になってしまう。不調ゆえか状況に関わらず投げ切ろうとしたその盲目的な突進が命取り、腕挫腋固に近い形で体を捨てる反則規定に抵触し、ダイレクト反則負けとなった。

3位にはマルティナ・トライドス(ドイツ)とユール・フランセン(オランダ)が入賞。なかなかメダルに縁がなくここまで2年連続5位の辛酸をなめていたトライドスは、今大会も田代かトルステニャクを3位決定戦の畳に迎える悪いめぐり合わせであったが、前述の通りトルステニャクが準決勝でダイレクト反則負け。以後の試合を戦う権利を失い、トライドスは不戦勝という僥倖で初の銅メダルを手にした。

3強とそれ以外のグループの差が大きい63kg級であるが、今大会を経てさらにその傾向は強まった印象。田代とアグベニューが突出する構図で五輪までの1年が進むことを強く意識させられた大会だった。

入賞者、決勝ラウンドと日本選手全試合の戦評は下記。

入賞者

女子63kg級メダリスト。左から2位の田代未来、優勝のクラリス・アグベニュー、3位のマルティナ・トライドスとユール・フランセン。
女子63kg級メダリスト。左から2位の田代未来、優勝のクラリス・アグベニュー、3位のマルティナ・トライドスとユール・フランセン。

【入賞者】
(エントリー46名)
1.AGBEGNENOU, Clarisse (FRA)
2.TASHIRO, Miku (JPN)
3.TRAJDOS, Martyna (GER)
3.FRANSSEN, Juul (NED)
5.TRSTENJAK, Tina (SLO)
5.VERMEER, Sanne (NED)
7.LIAO, Yu-Jung (TPE)
7.BOLD, Gankhaich (MGL)

【成績上位者】
優 勝:クラリス・アグベニュー(フランス)
準優勝:田代未来(コマツ)
第三位:マルティナ・トライドス(ドイツ)、ユール・フランセン(オランダ)

決勝ラウンド戦評

【3位決定戦】
マルティナ・トライドス(ドイツ)○不戦△ティナ・トルステニャク(スロベニア)
※前試合でダイレクト反則負け(立ち姿勢から腕挫腋固の形で体を捨てたことによる)のため

マルティナ・トライドス
トライドスは悲願の銅メダル到達。

なかなか世界選手権で表彰台に手が届かなかったトライドスはここまで2年連続5位。今回も組み合わせ上3位決定戦を戦うのは田代かトルステニャクとなるはずで希望の持ちにくいところだったが、意外な形で初のメダル獲得。ついに悲願達成となった

【3位決定戦】
ユール・フランセン(オランダ)○優勢[技有・隅落]△サンネ・フェルメール(オランダ)

ユール・フランセン
同国対決はフランセンの勝利に終わった。

フランセン、フェルメールともに右組みの相四つ。試合が始まるなりフェルメールが両襟で前進、場外際の左大内刈で相手を畳に這わせる。しかし以後は横変形に組み合っての膠着状態が続き、2分19秒にフェルメールに消極的の咎による「指導」、しかし以後も展開変わぬまま、試合時間3分まで時計の針が進む。3分16秒、打開を期したフェルメールが組み手とは逆の右腰車を仕掛けるとフランセンこれを待ち受けて捲り、隅落「技有」確保。フランセンはこのまま相手の腕をとって寝技で攻め、相手を立たせぬまま残り時間を使い切る。フランセンが同国対決を制し、銅メダルの栄に輝いた

【決勝】
クラリス・アグベニュー(フランス)○GS技有・大外巻込(GS7:11)△田代未来

田代未来
右引き手による左袖確保の有無がこの試合の最前線

左相四つ。田代右引き手でまず左前襟を捕まえ、体を反時計回りに外側に開く。次いで左大外刈を見せるが待ち構えたアグベニュー脚だけで刈り返し、弾き飛ばされた田代が崩れてやや後退。この試合の構図を端的に示す、非常にわかりやすい立ち上がり。

この試合の最前線は互いの右引き手による左袖確保。アグベニューのもっとも攻めやすい形は右引き手一本で田代の左袖を折り込んで、フリーの左釣り手を振り上げてどこにでも下ろせる状態。一方の田代が目指すのは同じく右引き手でアグベニューの左袖を捕まえ、この釣り手を殺した状態のまま、相手の正面に立たず横にずれて進退してスタミナを削ること。アグベニューの組み手はこの終着点から帰納して論理的に考えられたもの、前半はまず両袖での絞り合いに持ち込んでから釣り手を大きく振って切ることでこの理想の形を作り出そうとし、中盤以降は餌として田代にまず自身の右前襟を握らせ、ここで袖を得ることを起点に最終形に辿り着くことを目指す。これに対し、田代は一手目で袖を得るという大方針を大枠しっかり貫いて進退。時折横変形の立ち位置で二本を持つ形を作るが、この際アグベニューはやや左足を引いて前傾しており、大外返を狙っての誘いを呉れていることがあきらか。油断がならない。田代は軽挙せず、足を入れながら、時折ペースを上げながら、じっくり進退。

中盤戦の田代の蹴り崩し、アグベニューの袖折り込みによる1分18秒の場外への送り出し、1分51秒のアグベニューの袖を得るなりの左払巻込、この掛け潰れをめがけての田代の隅落による突進とみどころはあったが、大枠としてはこの緊張感ある組み手の駆け引きで時間が過ぎる。残り36秒、田代に消極的との咎で「指導」が与えられ、スコアに差が作られたところで本戦4分が終了。試合はGS延長戦へ。

延長開始早々、田代引き手で袖をしっかり得て軸を作ると、前に出られたアグベニューこの展開はあっさり捨てて畳を割る。これを受けて主審は13秒アグベニューに場外の「指導」を宣告。田代は出足払に大内刈、さらに素早い動きで引き手を得てと動き良く、展開に手ごたえありの様子。1分には前襟を得て良いタイミングの左大内刈、アグベニューはこのまま攻めさせてはならじと色を為し、組み手の切り離しから一方的に持つなり思い切った払巻込を見せて展開を押し戻し、あくまで譲らず。

以後も横変形にずれ合っての蹴り崩し合いが続く。田代時折大外刈を見せるがアグベニューの後の先狙いを感じて深くは踏み込まず。2分15秒にはこの試合初めて左内股、アグベニューに釣り手の袖を与えたところから引きずり出しを狙って掛けたこの技にはポイントの可能性が感じられた。続いて飛び込みの大内刈に出るが、一瞬崩れたアグベニュー脅威的な集中力で後回り捌きの左払巻込に変換「待て」。

互いに絶対に隙を見せられない、密度の高い組み手争いが続く。アグベニューが小外刈から巻き込みに潰れ、田代が突進して抑え込みを狙った後の4分12秒に「待て」が掛かると、アグベニューは仰向けで天井をみやり相当消耗した様子。そして5分12秒、がっちり組み手を得た田代の前にアグベニューの頭が下がり、防御姿勢の「指導2」。田代、ついにポイントリード。あと1つの「指導」で勝利確定である。

その後も田代引き手を得ては反時計回りに動き、支釣込足と大外刈を行き来しながらじっくり攻める。アグベニューが大外返を見せるがその動きには本戦で見せた力感は薄い。そしてあるいはアグベニューに「指導」かという間の「待て」からの再開後、田代クロス組み手から抱き着いてケンケンの左大内刈で勝負に出る。

一歩、二歩とアグベニューが下がって場内には大歓声が沸き起こるが、アグベニューが踏みとどまった残すと自身の体が浮いた田代、危機を感じたかここで技を中断。しかし受け切ったアグベニュー即座に行動を起こし、思い切りよく左払巻込。田代はクロス組み手を離さねばならぬゆえ一瞬両手が中空にある状態、これを押し返す材料がない。必死に身を捩じるも果たせず側方から着地「技有」。総試合時間11分11秒の熱戦ついに終了、アグベニューが世界選手権3連覇を果たした。

アグベニューは田代に握手を求めると抱擁。さらに大きく抱え上げてその健闘を讃える。観衆も大拍手で両者の健闘を讃えた。

日本代表選手全試合戦評

クラリス・アグベニュー、田代未来
熱戦決着。田代を抱え上げるアグベニュー。

【2回戦】
田代未来○上四方固(1:34)△ヤン・ジュインシア(中国)

田代が左、ヤンが右組みのケンカ四つ。田代前に出、引き手争いの中ヤンは右釣り手を奥襟に回し、いったん圧力を掛けておいての右内股。しかしこれは中途半端で田代は崩れず、ヤンが片膝を畳に着き、田代が引き手を持ったまま上から圧する形となり「待て」。
続く攻防、ヤンは釣り手の掌を田代の首裏に掛けるようにして圧力を呉れると、隅返。しかし体を捨てた瞬間腕が伸びて拘束が外れてこれも中途半端。田代すぐさま動き、伏せた相手の襟に左手を掛けて絞めを狙う。ヤンが嫌うとそのまま後襟に指を入れて、これを引っ張って頭を下げさせながら右で相手の太腿を抱え、自分の側に引っ張り返す。やや中途半端な体勢ながら横四方固が出来上がり主審「抑え込み」を宣告。ヤンが暴れると田代腰を切りながら左手を離して左から胴を抱える。もともと体勢を1度直すのが前提の抑えこみであったが、抱えどころが肩ではなく胴になったことで上体が動くようになったヤンはさらに激しくもがく。田代胴を抱える形の上四方固に移行。なんとかバランスして抑え切り「一本」。

【3回戦】
田代未来○肩固(1:58)△アンリケス・バリオス(ベネズエラ)
田代が左、バリオスが右組みのケンカ四つ。上背とリーチがあるバリオス、上から釣り手で背中を叩きながら右大内刈の形で足を入れるがそのまま体勢を崩し、田代が胴を抱える形で潰して「待て」。田代が前進するとバリオス次々場外際に詰まり、そのまま畳を割ることを繰り返す。1度目は隅返で出、2度目は潰れて状況を流そうとするがこれは主審見逃さず59秒場外の「指導」を宣告。同じくバリオスが場外に出て終わる展開一合を経て、田代が引き手で左袖を得て腹側に織り込むとバリオスそのまま左腕を内側に流し、組み手と逆の左へ払巻込を試みる。しかしこの技も粗く、単に掛けたというだけに留まる。田代そのまま胴を抱える形で潰し、体を下側に滑り込ませて首を抱えながら「横返し」。まず縦四方固で「抑え込み」の宣告を貰うと、左に降りて肩固に連絡。大過なく「一本」。

【準々決勝】
田代未来○合技[小外刈・小外刈](3:14)△サンネ・フェルメール(オランダ)

左相四つ。田代試合が始まるなり釣り手一本の左大外刈、崩すと中腰の相手をすぐさま左で絞め上げ、次いで腹を包んで固定し、さらに腿を右手で抱えて片手絞を狙い、角度不十分とみるや片羽絞の形で絞めかかるが、この展開の早さもフェルメールが節々でしっかり防御しているがゆえ。結局取り切れず「待て」。
田代大内刈から内股に連絡するが作りが足りず、崩せぬまま前に潰れてフェルメールが食いついて「待て」。続く展開は田代が釣り手を絞り落として組み手を作る間にフェルメールが右小外掛を見せ、双方が場外に流れ「待て」。フェルメールはこの攻防に手ごたえを得たか、まず左足を踏み込みながら腹を相手に当てるようにして距離を詰めると、重心の浮いた田代に対しひときわ大きく右小外掛を見舞う。詰められた田代仕方なく左払腰で反転して展開を切り「待て」。ここまで2試合ほとんど立って試合をしていない田代、3戦目に至っても少々動きが硬い印象。
田代釣り手で奥襟を叩くがフェルメールすぐさま絞り落とす。田代は絞られた釣り手を嫌って切るアクションを見せるが、ここでひと芸。切ってすぐさま襟を掴むその動作に混ぜ込み、コンパクトに左小外刈を入れる。フェルメール大きく崩れ、田代は伏せ掛けた相手を引き起こして体を捩じ入れ「技有」をもぎ取る。

フェルメールは奮起、両袖の形からいったん左を切ると片襟の左背負投に入り込んで田代を大きく崩す。しかし田代は冷静、続く展開では釣り手を絞られることを嫌ったフェルメールの動きをよく見て横変形に誘導、死角から左小外刈を見舞う。一段当て、二段目で抜き上げるとフェルメール大きく崩れ「技有」。合技「一本」で田代のベスト4進出が決まった。

【準決勝】
田代未来○反則[DH](1:21)△ティナ・トルステニャク(スロベニア)
※立ち姿勢から腕挫腋固の形で体を捨てたことによる

田代が左、トルステニャクが右組みベースの両組み。試合が始まるなり、田代は組み手争いから得意の左小外掛で相手を伏せさせ、絞技を狙う。これはトルステニャクが耐え切り「待て」。きょうここまで不調のトルステニャクはこの試合に限っては意外に動き良し。明らかにギアを上げている様子だが田代は全く問題にせず、組み勝っては足を飛ばして圧を掛け続ける。1分4秒には田代の奥襟を嫌って伏せたトルステニャクに偽装攻撃の「指導」。続く展開、田代が釣り手を持つとトルステニャクが強引な左腰車。田代が耐えると釣り手が抜け、それでも体を捨てながら腕を抱え込み、さらにもう一段回旋を加えて投げようと眼下の畳に向かって突進する。ほとんど手首を抱え込んだこの技は浅いが、トルステニャクは不調の自覚ゆえか目を瞑って仕掛ける勢いで体を捩じり続け、必死に力を籠める。この際、田代は隅落を狙って相手の頭側に回り込んでおり、結果としてトルステニャクが腕挫腋固の形で体を捨てたような格好になってしまう。田代の腕の逆を取って極めんとした絵。不可抗力ではあるが、この形は明確な反則。1分19秒、トルステニャクにダイレクトの反則負けが宣告され、意外な形で田代の決勝進出が決まった。

【決勝】

クラリス・アグベニュー(フランス)○GS技有・大外巻込(GS7:11)△田代未来

※前掲のため省略

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