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金メダル候補一番手は阿部詩、挑むブシャーとケルメンディ/東京オリンピック柔道競技女子52kg級階級概況解説・シード予想

<世界選手権2連覇を果たした阿部詩>

階級概況

実力推測マップ。V候補筆頭は阿部詩。

優勝候補筆頭は世界選手権2連覇者の阿部詩(日本体育大3年)。得意技の右内股と右袖釣込腰はいずれも破壊力抜群。寝技も腕緘を起点に高い決定力があり、立技、寝技ともに隙がない。奥襟、背中、片襟、両袖と基本戦型のすべてが極端に「攻め」に振ったものであることでわかる通り、投げること自体で相手を封じる、そもそも攻めさせる前に投げてしまおうという超攻撃型選手である。

その阿部に挑むのが、現在海外勢ナンバーワンと目されるアモンディーヌ・ブシャー(フランス)と、もと階級の絶対王者マイリンダ・ケルメンディ(コソボ)。

<海外勢で唯一阿部にアモンディーヌ・ブシャー>

ブシャーは海外勢で唯一阿部から勝ち星を挙げている選手。2019年グランドスラム・大阪ではしぶとい組み手で合計時間7分超えの消耗戦に持ち込み、最後は得意の肩車「技有」で勝ち越した。もし連勝となれば阿部に天敵誕生というところだったが、続く2020年2月のグランドスラム・デュッセルドルフでは阿部が一方的に「指導3」を奪ってあっさりリベンジ(ただしこの試合はともに手札を隠していたかと思わる)を果たしている。以後、阿部も強くなったがブシャーの側もさらに力を増しており、ワールドツアー再開後はケルメンディや志々目愛(了徳寺大職)にも勝利してもっか3連勝中。乗りに乗っている。地力はあくまで阿部が上と見るが、フランスチームの分析力と作戦立案能力の高さを考えるならば戦略面ではブシャーに分がある。組み手のやり取りをすればするほど、時間が経てば経つほど、相手のペースに引きずり込まれる可能性が高い。柔道的会話はそれ自体が危険。余計な駆け引きをし過ぎず、一方的に技を仕掛けて早い段階での決着を目指したい。

<今期の不調は衰えか、それとも調整か。マイリンダ・ケルメンディ。>

ケルメンディはこのところ不調。明らかに力が衰えてきており、現時点では既に地力も阿部が上と見る。よほどのミスを犯さなければ阿部の勝利は堅いはず。ただしケルメンディの不調が単に調整上の問題にとどまり、今回本来の力を発揮するようであればかなり危険。たとえ浅くとも引っ掛けさえすればそのまま最後まで投げ切ってしまうあの腰技の存在がある以上、間合いを詰めての攻防はそれ自体が一発のリスクを負うこととなる。序盤での密着は避け、距離を取ってじっくり削ってから、可能であれば寝技で仕留めたい。

<オデッテ・ジュッフリダ。足技の手練れであり、階級きっての勝負師である>

上記2名以のほかに阿部への挑戦権を持つのは、「実力推測マップ」上の第2グループに属するナタリア・クズティナ(ロシア)オデット・ジュッフリダ(イタリア)チェルシー・ジャイルス(イギリス)の3名。クズティナは寝技系で力関係を超えてくるような飛び道具があるわけではないが、ジャンプ力のあるジュッフリダとジャイルスには要注意。ジュッフリダはもともと粘戦タイプだがいまや足業師。一発で試合を決めてしまう切れ味鋭い出足払があり、さらに内股透がかなり巧み。現在の阿部の主戦武器は右内股だが、不用意にこの技を仕掛けることは避けるべきだろう。ジュッフリダが階級きっての勝負師であること、そしてイタリアが極端な五輪シフトを敷く国であることも不気味。ジャイルスはコロナ禍を経て地力を大きく上げており、今年2月のグランドスラム・テルアビブではケルメンディを正面からの右内股「一本」に屠って優勝するなど一発の破壊力、そして何より勢いがある。柔道の相性で言えばそれほど怖くないが、一定の警戒は必要だろう。

後続グループでは、一段力は落ちるもののアンドレア・キトゥ(ルーマニア)が怖い存在。相手を怪我させかねないような荒っぽい仕掛けも厭わないドライな面があり、加えて一本背負投の形に相手の腕を抱えての内股透も備えている。キトゥ式内股透に関してはあまりに有名、当然阿部も研究しているはずでそれほど心配はないと思われるが、序盤で当たった場合にはラフな展開での負傷に注意したい。

表彰台争いはここまで。阿部、ブシャー、ケルメンディで表彰台3枠まではほぼ確定。残る1枠を賭けた戦いは第1グループの選手たちを中心に行われるはずだ。よほどトーナメントが荒れない限り、第2グループ以下の選手が割って入ることは難しいだろう。ただしクズティナは今年に入って試合を行っていないため調子が読み難く、ジャイルスも6月の世界選手権では3回戦敗退とそれほど絶対的な強さはない。変数はこの2人。この2人が早々に崩れるようであれば、3位争いは第3グループの選手も含めた混戦(かなり極端な展開だが)になる可能性もあるだろう。

シード予想

<シード予想。阿部は準決勝までが面倒だが、ライバル2人との連戦というシナリオは避けられた>

【プールA】
第1シード:アモンディーヌ・ブシャー(フランス)
第8シード:ナタリア・クズティナ(ロシア)
【プールB】
第4シード:マイリンダ・ケルメンディ(コソボ)
第5シード:アナ・ペレス=ボックス(スペイン)
【プールC】
第2シード:阿部詩(日本)
第7シード:チェルシー・ジャイルス(イギリス)
【プールD】
第3シード:オデット・ジュッフリダ(イタリア)
第6シード:シャーリン・ファンスニック(ベルギー)

<ブシャーには過去3敗のナタリア・クズティナが配された>

優勝候補の阿部は、第2シードとしてブシャー、ケルメンディとは反対側の山に配された。対戦予定は準々決勝でジャイルス、準決勝でジュッフリダ、決勝でブシャーとケルメンディの勝者となる。細かく見ればジャイルス・ジュッフリダとジャンプ力のある2人と連戦しておかねばならない面倒な配置だが、大きく見れば決勝でブシャーとケルメンディの勝者を待ち受ける形で、倒さねばならないのはいずれ1人のみという良い組み合わせだ。

というわけでブシャーとケルメンディは阿部への挑戦権をかけて逆側の準決勝で激闘することになる。準々決勝の組み合わせは対照的。ケルメンディは同じパワーファイターで戦いやすいアナ・ペレス=ボックス(スペイン)を、ブシャーは過去3戦3敗のクズティナと戦わねばならなくなってしまった。ちなみに3敗全てがGS延長戦決着、最後に対戦した2019年東京世界選手権は抱分「技有」を食う完敗であった。ブシャーの羽化はこの後、2019年の冬から始まったわけだが、ここまで分の悪い相手であればさすがに苦戦は避けられまい。次戦にケルメンディ戦という大一番が控えることを考えれば、少しでも損耗少なく切り抜けたいところ。過去3戦のような、GS延長戦を延々戦う展開は避けたい。

準決勝カードのブシャーvsケルメンディについて。過去の対戦成績はケルメンディの2勝1敗。ただし直近の戦いとなった今年1月のワールドマスターズ・ドーハでは、ブシャーが組み手の徹底と先手攻撃でケルメンディを封じ、「指導3」で勝利している。この試合のケルメンディは様子見といった感じで最後までローギアのままであったが、一方で現在のケルメンディにブシャーの手数攻勢を打開する具体的な手立てやパワーはもはやないように思われる。両者のコンディションが同程度であれば、というよりもケルメンディが飛び抜けたコンディションでない限りは、ブシャーの勝利と予想したい。変数は前述クズティナ戦での消耗度合いだ。

有力選手名鑑

<ダークホース候補はチェルシー・ジャイルス>

「有力選手名鑑」に実績、組み手や得意技、柔道の特徴をまとめてあるので参照されたい。
ピックアップ選手は、阿部詩(日本体育大3年)、アモンディーヌ・ブシャー(フランス)、マイリンダ・ケルメンディ(コソボ)、ナタリア・クズティナ(ロシア)、オデット・ジュッフリダ(イタリア)、チェルシー・ジャイルス(イギリス)、アナ・ペレス=ボックス(スペイン)、ラグワスレン・ソソルバラム(モンゴル)、ギリ・コーヘン(イスラエル)、シャーリン・ファンスニック(ベルギー)、ジョアナ・ラモス(ポルトガル)、ディヨラ・ケルディヨロワ(ウズベキスタン)、ファビアン・コッヘル(スイス)、アンドレア・キトゥ(ルーマニア)、ラリッサ・ピメンタ(ブラジル)、プップ・レカ(ハンガリー)、パク・ダソル(韓国)、アガタ・ペレンク(ポーランド)、アンジェリカ・デルガド(アメリカ)、エカテリーナ・グイカ(カナダ)の20名。

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