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【東京世界柔道選手権2019特集】カナダ代表出口クリスタが初優勝、決勝は昨年の王者芳田司を破る・女子57kg級速報レポート

取材:eJudo編集部
撮影:乾晋也、辺見真也

→女子57kg級全試合結果

→東京世界柔道選手権2019組み合わせ(公式サイトippon.org内)

決勝、出口クリスタが芳田司から裏投「技有」
決勝、出口クリスタが芳田司から裏投「技有」

東京・日本武道館で行われている東京世界選手権2019は27日、競技日程第3日の男子73kg級と女子57kg級の競技が行われ、女子57kg級は出口クリスタ(カナダ)が初優勝を飾った。出口は松商学園高から山梨学院大に進んだ日本育ちの選手。決勝は同学年の現役世界王者、高校3年時にインターハイ決勝を争ったライバル芳田司(コマツ)をGS延長戦の裏投「技有」で破った。

出口は好調、決勝以外の全試合を「一本」で終わらせる圧勝だった。一方連覇を狙った芳田は決して好調とはいえず、準々決勝のユリア・コヴァルツィク(ポーランド)戦では残り20秒を過ぎてから背負投「技有」を失う苦しい展開を逆転するという勝ち上がりだったが、準決勝はリオ五輪王者のラファエラ・シウバ(ブラジル)にGS延長戦の一本背負投「一本」で快勝。能力の高さをあらためて証明し、しっかり銀メダルを確保した。

3位にはシウバと、芳田相手に大善戦を演じたコヴァルツィクが入賞した。

準決勝、芳田司がラファエラ・シウバから一本背負投「一本」
準決勝、芳田司がラファエラ・シウバから一本背負投「一本」

出口、芳田、シウバの優勝候補たちのほか、目立っていたのはコヴァルツィクと、フランスの新鋭サハ=レオニー・シシク(フランス)、そしてダリア・メジェツカイア(ロシア)。コヴァルツィクは粘り強い組み手と相手がなぜか反応出来ない独特のタイミングの足技、相手の組み手の左右を選ばぬ右襟を握っての「韓国背負い」で見事3位を獲得した。シシクは重心の低さと鈍そうな佇まいに似合わぬ高い身体能力、そしてなにより二本しっかり持って足技から崩す柔道の質の良さで5位入賞。次代の第一人者を予感させる戦いぶりだった。今季の欧州選手権を制して一躍トップ選手の仲間入りを果たしたメジェツカイアは1回戦でメダル候補のジェシカ・クリムカイト(カナダ)を袖釣込腰「一本」で破るなど、こちらもシシク同様低い重心を生かしてプールファイナルまで勝ち進んだ。

入賞者、決勝ラウンドと日本代表選手全試合の戦評は下記。全試合記録についてはアップ次第ここにリンクを貼らせて頂く。

入賞者

世界柔道選手権2019、女子57kg級57kg級入賞者。左から2位の芳田司、優勝の出口クリスタ、3位のユリア・コヴァルツィクとラファエラ・シウバ
57kg級入賞者。左から2位の芳田司、優勝の出口クリスタ、3位のユリア・コヴァルツィクとラファエラ・シウバ

【入賞者】
(エントリー56名)
1.DEGUCHI, Christa (CAN)
2.YOSHIDA, Tsukasa (JPN)
3.KOWALCZYK, Julia (POL)
3.SILVA, Rafaela (BRA)
5.CYSIQUE, Sarah Leonie (FRA)
5.ILIEVA, Ivelina (BUL)
7.GJAKOVA, Nora (KOS)
7.MEZHETSKAIA, Daria (RUS)

【成績上位者】

優 勝:出口クリスタ(カナダ)
準優勝:芳田司
第三位:ユリア・コヴァルツィク(ポーランド)、ラファエラ・シウバ(ブラジル)

決勝ラウンド戦評

【3位決定戦】
ユリア・コヴァルツィク(ポーランド)○背負投(3:44)△イヴェリナ・イリエワ(ブルガリア)

3位決定戦、ユリア・コヴァルツィク)がイヴェリナ・イリエワから「韓国背負い」で「技有」
3位決定戦、ユリア・コヴァルツィク)がイヴェリナ・イリエワから「韓国背負い」で「技有」

左相四つ。片手状態、具体的には左釣り手で相手の右襟を得ての「韓国背負い」を狙いたいコヴァルツィクに、しっかり二本持つことでこれを封じて自分のペースに持ち込みたいイリエワと構図のハッキリした試合。イリエワが二本持ち続けるが、コヴァルツィクが体の強さと独特のタイミングで繰り出す足技で具体的な攻撃を封じるという体でなかなか試合が動かない。1分32秒双方に「指導」。直後コヴァルツィク左襟を得てまず右一本背負投に座り込むがイリエワ潰して背中につき、動ぜず。2分3秒にもコヴァルツィクが「韓国背負い」を見せるが十分心得たイリエワが先んじて横移動して力を逃がし、抜け潰して「待て」。試合のペースは常に先に袖と襟の二つをしっかり持つイリエワにあり、下げられるコヴァルツィクには2分59秒「取りくまない」咎で2つ目の「指導」。
イリエワはあと1つの「指導」、あるいは具体的な投げを狙って加速。両襟の左小外刈で小さく叩いて手ごたえを得ると、続いて組み手をしっかり作っての左小外刈でたたらを踏ませ、あとは取るだけという情勢。しかし決着を意識したかイリエワ組み手が甘くなり、引き手で左袖を持ったまま相手の左手先を体に近づけてしまい、コヴァルツィク僅かながら左で右襟を得る。時間にして僅か数秒だったが、コヴァルツィクこのチャンスを見逃さず必殺の「韓国背負い」。膝をついて耐えたイリエワの腹下で体を横断させる形で押し込み、3分43秒劇的「技有」獲得。残り時間はこの時点で僅か17秒、そのまま試合が終わった。ほぼ時間一杯イリエワが支配した試合であったが、ワンチャンスを生かしたコヴァルツィクが見事勝利。初の銅メダルを獲得した。芳田司相手の大健闘も含め、この日の活躍ぶりからコヴァルツィクのメダル獲得は妥当な結果であった。

【3位決定戦】
ラファエラ・シウバ(ブラジル)○優勢[技有・隅落]△サハ=レオニー・シシク(フランス)

3位決定戦、ラファエラ・シウバが支釣込足を誘い、サハ=レオニー・シシクから隅落「技有」
3位決定戦、ラファエラ・シウバが支釣込足を誘い、サハ=レオニー・シシクから隅落「技有」

長身のベテラン・シウバに短駆で重心低い若手シシクがマッチアップしたこの試合は左相四つ。シシク引き手で襟を得ると躊躇なく奥襟を叩いて間合いを寄せる。シウバが嫌い、33秒片手の咎で「指導」。シシク同じ形で間合いを詰めると力強く支釣込足、シウバ得意の隅落で切り返すが投げ切れず「待て」。以降も組み合うことに怖じず間合いの近い奥襟勝負を挑むシシクが展開を引っ張り、一方のシウバはこの形を明らかに嫌う。大外刈で潰れるも得点の匂いなし、1分17秒に「待て」が掛かると開始線に戻る動きが重く、その表情からも消耗明らか。しかし2分26秒、シシクが同じ形から誘い込まれるように支釣込足を放つと、シウバ攻防一致で素早く動き、時計回りの隅落。頭を思い切り下げ、激しく体を折った、まるで相手が掛けることを予期していたかのような確信的な動き。片足でこれを食らったシシク激しく畳に落ちて「技有」。
一発でこれまでの優位を崩されたシシクは激しく前進。釣り手をクロスに入れるとシウバ肩車で掛け潰れ、奥襟を叩くと払巻込で潰れ、そして払巻込の掛け潰れから両手を放してしまい3分24秒にはついに「指導2」失陥。逆境に弱いシウバの悪い癖が出掛かったようにも思われたが、以後は手を前に出してしっかり相手を迎え撃ち、シシクの右袖釣込腰を潰してクロージング。シウバ、「技有」優勢で勝利して銅メダルを確保。

日本代表選手全試合戦評

【2回戦】
芳田司○腕緘(2:55)△エレーヌ・ルスヴォ(フランス)

芳田が左、ルスヴォが右組みのケンカ四つ。ルスヴォは徹底して芳田に釣り手を持たせぬ作戦、袖を絞りこみ続ける。40秒過ぎには一転思い切り奥襟を叩いて芳田の頭を下げさせ、51秒芳田に防御姿勢の「指導」。この後も芳田の釣り手を最前線に組み手の攻防が続く。2分30秒を過ぎたところでルスヴォの出足払に芳田は燕返を合わせ、これでたたらを踏ませたことをきっかけとする展開で釣り手で前襟を持つ良い形を作る。ここで芳田左内股から左小内刈、左小外刈と繋いで「技有」。芳田伏せた相手に素早く寝技に食いつく。耐えんと足に延ばして来た左腕を捕まえると腕緘。ルスヴォは腹這いの姿勢のまま「参った」。

【3回戦】
芳田司○内股(2:33)△サンネ・フェルハーフェン(オランダ)

芳田が左、フェルハーフェン右組みのケンカ四つ。芳田寝ては「腕緘返し」に横三角、立っては釣り手で前襟を得ての内股に小内刈と、パワー自慢のフェルハーヘンの陣地を徐々に浸食。2分半過ぎに左内股、いったん作用足を着いて間合いを整え、入りなおして押し込み「一本」。

【準々決勝】
芳田司○GS合技[内股・崩袈裟固](GS1:30)△ユリア・コヴァルツィク(ポーランド)

左相四つ。コヴァルツィク袖を絞り、強い体を生かして進退。芳田左小内刈に触ってからの大内刈を見せるがコヴァルツィクは小外掛の形で返し芳田はやや危うい落ち方。コヴァルツィク、さらに芳田の横移動に左小内刈を合わせて大きく崩し攻勢。やや苦しい芳田釣り手を絞らせたまま左内股も効かず、釣り手はやはり切れず。ここからコヴァルツィクが「韓国背負い」でまたも芳田を大きく崩す。再開直後の1分36秒、相手の袖口を絞り込んだ芳田に「指導」。芳田は相手と間合いが噛み合わずやりにくそう、左、右と足を飛ばしてケンケンの左大内刈を試みるが距離が遠いままの手押しになり、返されかかって「待て」。このままの膠着で試合が進み、しかし3分11秒にはコヴァルツィクに消極的との咎で「指導」。しかし3分39秒、釣り手を求めて芳田が手を伸ばしたところにコヴァルツィクが「韓国背負い」。膝をついた芳田押し込みに堪えられず横転、「技有」。残り時間は僅か21秒。芳田絶体絶命だが、残り8秒、両手で相手の左袖を抱え込んで左内股巻込、組み手不十分だが高い跳ね上げが効き、起死回生の「技有」。
命を繋いだ芳田、GS延長戦は引き手のみの内股で良く攻め、1分35秒コヴァルツィクに消極の「指導」。 再び内股を放つと窮したコヴァルツィクは右へ「韓国背負い」。芳田予期して外側に逃げ、伏せたコヴァルツィクを寝技で攻める。そのまま立たせず、崩袈裟固「一本」。

【準決勝】

芳田司○GS一本背負投(GS2:25)△ラファエラ・シウバ(ブラジル)

左相四つ。シウバ激しく前に出るが、一合かちあったあとは互いに引き手で袖を求めて慎重な組み手争い。1分1秒双方に「取り組まない」咎の「指導」。以後も芳田は袖釣込腰、シウバは横変形にずれての肩車と打ち合うが、引き続く寝技で芳田がことごとく攻め続けてプレッシャー、徐々に展開を芳田が得る印象。終盤はシウバが引き手で帯を掴む形、あるいはクロス組み手と打開の手立てを探るが芳田はすぐに抜け出して動ぜず。試合はGS延長戦へ。芳田右袖釣込腰に片襟の右背負投で攻め、40秒過ぎには右一本背負投で抜け落として素早く寝技を展開。「腕緘返し」から「腹包み」としつこく攻め続ける。シウバ最後は脚を絡んで「待て」を貰ったもののかなり消耗した印象。1分47秒にはシウバの消極的との咎で「指導2」。シウバは集中力が落ちた印象、芳田は袖釣込腰フェイントの後ろ技で崩し、2分25秒には逆に今度は前技、シウバの出籠手を捉えて右一本背負投に飛び込む。股中まで避けようがないほど深く入った一撃、たまらずシウバ転がって「一本」。世界王者同士の一番は芳田の勝利に終わった。

【決勝】
出口クリスタ(カナダ)○GS技有・裏投(GS2:26)△芳田司

同学年対決は出口が右、芳田が左組みのケンカ四つ。芳田の左出足払を出口が巴投に切り返して試合がスタート。出口は積極的、両袖の右袖釣込腰から内股に繋いで試合を引っ張る。芳田は釣り手で前襟を握ると右一本背負投をみせるが効薄く、出口は1分58秒に出足払から巴投の連携、続く展開では芳田の左大内刈の思い際に思い切った右大外刈も見せる。しかし間合いが遠いこの技を芳田が潰して寝技に持ち込み腕挫十字固、出口がこれを腕をしまいこんで防ぐと今度は体を下に滑り込ませての引き込み、実に1分間にわたって寝技で攻め続ける。最後は芳田の引込返を出口が先に自ら回転して逃れ「待て」が掛かったが、この攻めっぱなしの寝勝負を契機に試合の流れは芳田の側へ。釣り手で前襟を得る良い形からの左出足払に右肩車、組み手の良さからすればこの選択は少々勿体なかったがその攻勢は認められ、3分28秒出口に消極的の咎で「指導」。前進する芳田の前に出口徐々に良いところが持てなくなり、芳田が再び右への肩車を見せたところで本戦4分が終了。試合はGS延長戦へ。

延長もペースは芳田の側にあり。引き手で袖、釣り手で上から前襟を得て迫る。出口は右背負投、続いて1分過ぎには大内刈から巴投と見せるが、芳田はかわし、膝立ちの中途半端な姿勢になった出口の腹に膝を入れるようにして位押しに圧する。組み手も良い形が続くようになり、流れはここに至って完全に芳田。

しかし芳田ここで判断ミス。出口が右大内刈を空振りすると、巴投を選択して掛け潰れてしまう。主審すかさず動いてGS2分11秒芳田に偽装攻撃の咎で「指導」。3分近く維持して来たスコア上のリードはこれで潰える。

直後の展開、釣り手で襟を得た出口は大きく右出足払を振って、芳田に足を上げさせ、引き手で袖先を得る。上がった芳田の左足が降りるとそのまま右の袖釣込腰。前隅に送り出された芳田が右手を畳に着き、立ち上がると引き手を離さぬまま背中に食いついて裏投一撃。引き手を胴に巻き付けられた形の芳田は上体を固められて抗せず、真裏に落下。出足払、右袖釣込腰、裏投と続いた3つの技の連携はまさに一瞬、これが「技有」となり出口の初優勝が決まった。

芳田は失点直前の「指導」失陥が痛かった。優位な状況で、必要のない捨身技を積んで良い流れを失ってしまった。

不利な状況にもあきらめず、「指導」後という展開の僅かなエアポケットを突いてワンチャンスを生かした出口は見事。決勝点の裏投は近い方向に抜き上げるのではなく、深く回り込んで相手の右側をまで進出したがゆえに決まったもの。胴の拘束、逆らい難い方向と決めに至る要素が一瞬で出来上がった。素晴らしい勝負勘と柔道センスだった。芳田は引き手を掴まれているがゆえに隅落を食らう可能性を考えて潰れることが出来ず、立つしかなかった。

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