【東京世界柔道選手権2019特集】大野将平はプールCに配置、死角探すのが難しい絶対の優勝候補・男子73kg級直前展望
→東京世界柔道選手権2019組み合わせ(公式サイトippon.org内)
エントリーは90名。「概況×有力選手」で示した予想からの、シード選手配置の変更はなし。有力選手の特徴や得意技、実績については「有力選手(選手名鑑)」を参照頂きたい。
優勝候補の大野将平(旭化成)はプールCに配された。気の毒なことに大野を引いてしまったのは、第2シードのラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ(ジョージア)。両者は4回戦で対戦することになり、敗れた方は敗者復活戦にも回ることができず、大会を去ることになる。シャヴダトゥアシヴィリはオーソドックスなパワーファイターであり、タイプ的にも実力的にも大野が遅れを取ることはまずないだろう。そもそもこの階級において大野の力は他を圧している。さらに大野の強さの最大の因は好不調による変数の少ない地力の高さにこそあり、大きく崩れるということもほとんどない。今大会には唯一大野に対抗し得るであろう現役世界王者のアン・チャンリン(韓国)が負傷のために出場しておらず、この周辺事情も考えれば大野の優勝はまず間違いないと言えるだろう。
敢えて大野が気をつけるべきことを探せば、一つ。実力差に関係なく掛かるときには掛かってしまう足技、特に出足払や送足払を武器とする選手との対戦だ。大野が2013年に世界王者となって以降、海外勢に敗れた試合は不戦敗を除くと2014年チェリャビンスク世界選手権の1試合のみだが、その際は送足払により「一本」を失っている。この要素を持つ選手は、現在の階級内ではファビオ・バジーレ(イタリア)とヴィクトル・スクヴォトフ(UAE)の2名だが、バジーレはプールAに置かれており、仮に対戦があるとしても決勝。かつ、バジーレの力を考えるならば、そこまで勝ち上がってくる可能性は限りなく低い。しかし、もう1人のスクヴォトフは大野と同じプールCに置かれており、4回戦で対戦する可能性がある。スクヴォトフは3回戦で前述のシャヴダトゥアシヴィリと対戦せねばならないため、そもそも勝ち上がってくる可能性は低いが、仮に対戦となった場合にはある程度注意を払う必要があるだろう。ただし、大野がこの敗れ方をしたのはまだまだ絶対王者として成長途上にあった2014年のこと。現在の大野はあの当時よりも遥かに成熟した完成度の高い選手となっており、そもそもこのタイプを相手に移動の際を作るようなミスは犯さないだろう。
この階級は大野以外の選手は大混戦。下記に上げた有力選手のほとんどに上位進出の可能性があり、激しい戦いが予想される。下記の各プールの展望で組み合わせや相性による勝敗予想を行うが、そのとおりにトーナメントが進む可能性はほとんどないだろう。
有力選手の配置、各プールのひとこと展望は下記。
【プールA】
第1シード:ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)
第8シード:トハル・ブトブル(イスラエル)
有力選手:ヴァジム・ショーカ(ベラルーシ)、ジャンサイ・スマグロフ(カザフスタン)、ディルク・ファンティシェル(ベルギー)、ファビオ・バジーレ(イタリア)
ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)の置かれた上側の山は強豪不在の無風地帯。この選手のベスト8進出はまず間違いない。一方、下側の山ではシード選手のトハル・ブトブル(イスラエル)とジャンサイ・スマグロフ(カザフスタン)が初戦(2回戦)で潰し合う組み合わせとなっており、これは序盤戦屈指の好カード。ここを勝ち上がった選手がそのまま4回戦進出となるはず。下側下部からはファビオ・バジーレ(イタリア)が勝ち上がってくると思われるが、常の実力ならばブトブルとスマグロフのいずれかがバジーレに勝利して、ベスト8進出果たすと考えられるが、バジーレは大舞台にほど強く、ここのところ好調。ここはバジーレのベスト8進出と予想したい。
【プールB】
第4シード:ヒダヤット・ヘイダロフ(アゼルバイジャン)
第5シード:アキル・ヤコヴァ(コソボ)
有力選手:ムサ・モグシコフ(ロシア)、アルテム・ホムラ(ウクライナ)、イゴール・ヴァンドケ(ドイツ)、ツェンドオチル・ツォグトバータル(モンゴル)、フェルディナンド・カラペティアン(アルメニア)、サイインジリガラ(中国)
上側の山はヒダヤット・ヘイダロフ(アゼルバイジャン)とムサ・モグシコフ(ロシア)が4回戦で対戦する。この両者は過去に2度対戦しており、どちらもヘイダロフが勝利しており、今回もヘイダロフのベスト8への勝ち上がりが有力。一方下側の山ではアキル・ヤコヴァ(コソボ)とツェンドオチル・ツォグトバータル(モンゴル)の若手有力選手2名が置かれており、こちらは3回戦で対戦予定。直近の対戦ではツォグトバータルが勝利しているものの、この試合はかなりの接戦であった。両者はともにここのところ好調であり、今回もかなりの熱戦が期待できるだろう。ここでは運動性のの差でツォグトバータル勝利と予想したい。一方、下側下部にはこれと言った強豪はおらず、誰が勝ち上がってもおかしくない混戦模様。地力ではフェルディナンド・カラペティアン(アルメニア)が抜けており、この選手の勝ち上がりを予想したい。
【プールC】
第2シード:ラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ(ジョージア)
第7シード:ガンバータル・オドバヤル(モンゴル)
有力選手:ヴィクトル・スクヴォトフ(UAE)、ミクロス・ウングヴァリ(ハンガリー)、ガンバータル・オドバヤル(モンゴル)、ヒクマティロフ・ツラエフ(ウズベキスタン)、ゲオルギオス・アゾイディス(ギリシャ)、ジョヴァンニ・エスポージト(イタリア)、ビラリ・ジログル(トルコ)、マルティン・ホヤック(スロベニア)
日本代表選手:大野将平(旭化成)
大野将平(旭化成)の勝ち上がりが確実。ベスト8までの勝ち上がりは本文で触れたとおり。初戦(2回戦)の相手は実力者のミクロス・ウングヴァリ(ハンガリー)だが、まったく問題にしないはずだ。準々決勝のあいてもおそらくはガンバータル・オドバヤル(モンゴル)になるはずだが、この選手は柔道が素直な正統派であり、大野にとっては戦いやすい相手。実力差をそのまま反映する形で勝利することができるだろう。
【プールD】
第3シード:トミー・マシアス(スウェーデン)
第6シード:アルチュール・マルジェリドン(カナダ)
有力選手:アンソニー・ツィング(ドイツ)、デニス・イアルツェフ(ロシア)、ギヨーム・シェヌ(フランス)
トーナメントの空白域。上側の山は無風であり、シード選手のトミー・マシアス(スウェーデン)の勝ち上がりが確実。下側からは3回戦で対戦するアルチュール・マルジェリドン(カナダ)とデニス・イアルツェフ(ロシア)の勝者が勝ち上がるはずだ。ここは近頃安定して成績を残しているマルジェリドンが勝ち上がると予想したい。ベスト8で組まれるマシアス対マルジェリドンは階級屈指の曲者2名による好カードだ。