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【東京世界柔道選手権2019特集】阿部詩が王者ケルメンディ倒して連覇、志々目愛は意地の銅メダル確保・女子52kg級速報レポート

取材:eJudo編集部
撮影:乾晋也、辺見真也

女子52kg級全試合結果 

→東京世界柔道選手権2019組み合わせ(公式サイトippon.org内)

東京世界柔道選手権2019女子52kg級準決勝、阿部詩がマイリンダ・ケルメンディの腕に食いつき「腕緘返し」で引っこ抜く。
準決勝、阿部詩がマイリンダ・ケルメンディの腕に食いつき「腕緘返し」で引っこ抜く。

日本武道館で行われている東京世界柔道選手権2019は大会2日目の26日、男子66kg級と女子52kg級の2階級の競技が行われ、女子52kg級は阿部詩(日本体育大1年)が優勝した。阿部は大会2連覇、準決勝ではリオ五輪の覇者マイリンダ・ケルメンディを破った。一昨年の世界王者志々目愛(了徳寺大職)はケルメンディに敗れるも銅メダルを確保した。

序盤から素晴らしい勝ち上がりを見せた阿部の山場は前述の通り、準決勝のケルメンディ戦。パワーと鉈を振るうよな奥襟確保が持ち味のケルメンディだが、この試合で阿部に「指導」のリードを許すともう1つのモードである戦術性の高さを存分に披露。延長は阿部が攻めても攻めてもいつの間にか難解な陣地争いに引き込まれて展開を戻される粘戦となり、ついに阿部にも「指導2」が与えられてスコアはタイとなる。しかし直後生まれたエアポケットに阿部が右小内刈を入れて崩し、間を置かずに寝技に移行。得意の「腕緘返し」で引っこ抜き、横四方固「一本」でこの難しい試合を勝ち抜いた。

東京世界柔道選手権2019女子52kg級決勝、阿部詩がナタリア・クズティナから袖釣込腰「一本」
決勝、阿部詩がナタリア・クズティナから袖釣込腰「一本」

決勝はナタリア・クズティナ(ロシア)を相手にせず、僅か30秒、右袖釣込腰「一本」。担ぎ上げ、足を高く揚げて回旋をフォローする完璧な一撃で見事優勝を決めた。

志々目愛は前述の通りケルメンディに「指導3」で敗れたが、3位決定戦は第1シードのアモンディーヌ・ブシャー(フランス)を圧倒。軸足の負傷をものともせずに肚の決まった攻めを見せ続け、中盤に「韓国背負い」で「技有」を確保。最後は「腹包み」から崩袈裟固に繋いで合技「一本」。出場自体が危ぶまれた重症を跳ね返し、みごと銅メダルに辿り着いた。

入賞者と、3位決定戦以降および日本代表選手全試合の戦評は下記。全試合結果はこちら。

入賞者

東京世界柔道選手権2019女子52kg級メダリスト。左から2位のナタリナ・クズティナ、優勝の阿部詩、第3位のマイリンダ・ケルメンディと志々目愛
女子52kg級メダリスト。左から2位のナタリナ・クズティナ、優勝の阿部詩、第3位のマイリンダ・ケルメンディと志々目愛

【成績上位者】
優 勝:阿部詩
準優勝:ナタリア・クズティナ(ロシア)
第三位:志々目愛、マイリンダ・ケルメンディ(コソボ)

決勝ラウンド戦評

【3位決定戦】
志々目愛○合技[背負投・崩袈裟固](4:00)△アモンディーヌ・ブシャー(フランス)

東京世界柔道選手権2019女子52kg級3位決定戦、志々目愛がアモンディーヌ・ブシャーから「韓国背負い」で「技有」
3位決定戦、志々目愛がアモンディーヌ・ブシャーから「韓国背負い」で「技有」

志々目が左、ブシャーが右組みのケンカ四つ。ブシャーもっとも得意とする左への肩車を見せるが志々目心得て潰し「待て」。二本持って相手の肩車を封じたい志々目、しかし片手状態でも大内刈を放って巧みに崩す。直後の1分57秒ブシャーに消極的の咎で「指導」。
志々目両襟、釣り手を大きく振って牽制を呉れると右襟を両手で握っての「韓国背負い」。崩れた相手を巧みに背中で押し込んで2分27秒「技有」確保。以後も背中を持っての内股で攻め、ブシャーが片手で肩車の気配を見せると体を大きく開いての膝車で崩し、非常に巧みな進退。最終盤、ブシャーが思い切って奥襟を叩き、しかしこれを餌にやはり左へ肩車。志々目しっかり潰して「腹包み」。右肩を潰して抑え切らんとするがブシャーが耐えると、教科書通りに後から回り込んで所謂「舟久保固め」の形で相手を牽引する。徐々に引っ張り出されたブシャーの顔が上を向いて「抑え込み」宣告。このまま10秒が経過し合技「一本」。志々目、銅メダル確保。

【3位決定戦】
マイリンダ・ケルメンディ(コソボ)○反則[指導3](2:29)△ジョアナ・ラモス(ポルトガル)

ケルメンディが左組み。普段は組み手に拘らぬが左組みベースのラモスは、常の攻撃では崩せずとまず右払巻込で先制攻撃。これは効かず「待て」。
53秒、ケルメンディが左釣り手をしならせ、唸る勢いで背中を狙って叩き込むとラモスは顔を抑えて頽れる。しばしあって顔を上げると足元には大量の血だまり。どうやら鼻を負傷した模様、入念な止血による長い中断を経て、試合が再開される。やや減速したケルメンディに対しラモス巴投に飛び込むが潰れて1分18秒偽装攻撃の「指導」。続いて1分57防両者に「取り組まない」咎による「指導」。ラモスはスコア上後がなくなる。ここで、ケルメンディの圧に抗したラモスは左で左片襟を掴む練れた防御。しかしあくまでも「繋ぎ」に使うべきこの形のまま動きを止めてしまい、主審やむなく片襟の咎でラモスに「指導3」。ケルメンディは銅メダルを確保、37歳のラモスは5位入賞で大会を終えた。

東京世界柔道選手権2019女子52kg級3位決定戦、顔面から出血したラモスはそれでも試合を続行
3位決定戦、顔面から出血したラモスはそれでも試合を続行

【決勝】
阿部詩○袖釣込腰(0:30)△ナタリア・クズティナ(ロシア)

東京世界柔道選手権2019女子52kg級決勝、阿部詩がナタリア・クズティナから袖釣込腰「一本」
決勝、阿部詩がナタリア・クズティナから袖釣込腰「一本」

右相四つ。阿部両袖を掴むと相手の左側に回り込み、右袖釣込腰。高く腰に乗せると内股様に右脚を上げて回旋をフォロー「一本」。

日本代表選手全試合戦評

阿部詩(日本体育大1年)

成績:優勝

【2回戦】
阿部詩○隅落(1:36)△ラリッサ・ピメンタ(ブラジル)
始まるなり阿部両袖を得、得た瞬間には右内股「技有」。ここまで僅か8秒。1分8秒両者に袖を絞り込んだ咎で「指導」。1分36秒、阿部が両手で袖を持つとピメンタがその釣り手を体を開いて切り離す。阿部そのまま引き手一本で押し込んで背を抱くと、嫌ったピメンタ下がりながら左内股で展開を切らんとする。阿部見逃さず隅落に捉え「一本」。

【3回戦】
阿部詩○大外刈(2:58)△ディヨラ・ケルディヨロワ(ウズベキスタン)
右相四つ。ケルディヨロは先に袖を絞り込んで封じようとの構え。阿部は絞らせたまま右内股。35秒にも絞らせたまま担いで右回転、これだけでケルディヨロワ大きく崩れて膝から落ち「待て」。ケルディヨロワは袖を絞ると後重心で完全な守りの構え、55秒には偽装攻撃、1分53秒にはピストルグリップで袖を絞った咎で計2つの「指導」が累積。阿部は右袖釣込腰に組み際の袖釣込後藍で攻め、2分30秒には組み際の片襟右大外刈で大きく崩してこれで手ごたえを得た模様。試合時間3分に近づくところで、阿部組み際に左引き手で袖を確保、相手が残る腕を慌てて引くとこれに合わせて右でも袖を持ち、右袖釣込腰。一瞬吊り上げながら足は大外刈で相手を刈りこむ。後に重心を置くことがベースだったケルディヨロワこれは耐えられず崩落「一本」。前技を警戒する相手に、吸い込みながらの後ろ技。見事な一撃だった。

【準々決勝】
阿部詩○優勢[技有・大内刈]△チェルシー・ジャイルス(イギリス)
右相四つ、体の大きいジャイルスは粗いが地力のある面倒な選手。阿部、引き手で右袖を得ると一瞬嫌って下がる相手を追いかけ右袖釣込腰。ジャイルス高々上がって阿部の腰の上を転がるが、膝から落ちて「待て」。ここまで15秒。以降はジャイルスが離れた位置から奥襟を叩き込み、阿部はこれをまず大内刈で迎え撃ち、以降は両袖をベースに袖釣込腰様の右大外刈、大内刈で攻め返す。阿部が引き手で袖を折り込んで右大外刈で裏に出、ジャイルスが足を大きく開いて崩れた直後の2分14秒にはジャイルスに消極的との咎で「指導」。残り33秒、ジャイルスが思い切って奥襟を叩いて阿部の体を包む。阿部やや前屈してこれを切り離さんとする、と見せかけて前屈したまま釣り手で相手の左肩を包み、沈み込むように右大内刈。懐内で思いきり食ったジャイルスさすがに耐え切れず崩落「技有」。阿部は残り時間を手堅く戦い切ってタイムアップ。いよいよ準決勝でケルメンディ戦に挑む。

【準決勝】
阿部詩○GS横四方固(GS3:15)△マイリンダ・ケルメンディ(コソボ)

初顔合わせ、新旧世界女王による大一番は阿部が右、ケルメンディが左組みのケンカ四つ。釣り手で背中が欲しいケルメンディの一手目は「ケンカ四つクロス」に近い形。まず右で阿部の右袖を掴んで寄せ、次いで左釣り手で背中を叩き、叩いたら右を開放するというのがその手順。しかしこの右で右を抑える段階のまま膠着してしまい、33秒片襟組み手の「指導」失陥。阿部は前襟で釣り手を持って押し込み、ケルメンディを下がらせて十分戦える気配。しかし一瞬引き手の駆け引きに陥ると、主審極めて素早く動いて1分0秒阿部に片手の咎で「指導」。スコアはタイとなる。阿部は勇を鼓して引き手で袖、釣り手で奥と完璧な形で圧力。ケルメンディが頭を下げてひたすら耐える非常に珍しい場面が生まれ、1分45秒ケルメンディに「指導2」。あと1つの「指導」で阿部の勝利確定である。
しかしケルメンディは一筋縄ではいかない。再び「ケンカ四つクロス」からの奥襟アプローチという面倒な策に切り替え、腰の差し合いに誘い、背中を叩いての内股と具体的な技も見せる。阿部は釣り手の肩を外して鋭い内股、先んじて腰の差し入れ、隅落による目繰り返しとしっかり手立てを繰り出し展開を譲らず。試合はこのままGS延長戦へ。

延長は阿部ペース。両袖の右袖釣込腰で攻めこむが、ケルメンディはそのパワーと裏腹の戦術的な柔らかさ、戦術性の高さを見せて粘る。阿部が展開を1歩進めるたび、背中を叩いての内股、脇を差し合っての攻撃意志演出、そしてその中で背中を引き寄せての圧力と引き出しを次々開けて難解な戦術フィールドに阿部を誘い込んでその優位を無力化。そうこうしているうちに形上阿部が引き手を嫌う格好が出来上がってしまい、GS1分58秒に阿部に片手の咎で「指導2」。スコア上双方が後のない状況となる。ケルメンディは時来たれりとばかりに内股、そして「ケンカ四つクロス」の半身でふたたび絡みつく。しかし「指導」差を追いついた戦術的解放感ゆえかやや間合いが空き、阿部は小外刈を打ち込んで脱出すると片手の右小内刈。足元を崩されたケルメンディが崩れるといち早く反応。伏せた相手に食いつくなり強引な「腕緘返し」、相手の体勢整う前に無理やり右腕を引っ張り出し、引っこ抜いて体を持ち上げると小さい回転でクルリと抑え込みに繋ぐ。ケルメンディ足を絡めて粘るが初動で出遅れたゆえ小さい空間で体が屈曲し過ぎており、明らかにこれは弱い形。阿部足を引き抜き、絡めた腕を放して脚を押し付け横四方固で抑え込む。敗北を悟ったケルメンディ早々にあきらめて動きを止め、大歓声の中GS3分10秒「一本」が宣告される。この難戦を乗り切った阿部は見事の一言。決勝進出決定である。

【決勝】
阿部詩○袖釣込腰(0:30)△ナタリア・クズティナ(ロシア)

※前述のため戦評省略

志々目愛(了徳寺大職)
成績:第3位


【2回戦】
志々目愛○合技[浮落・横四方固](2:24)△アンバル・リヘウ(ベルギー)
志々目が左、リヘウ右組みのケンカ四つ。志々目引き手で袖を掴むとリヘウ背負投に掛け潰れて「待て」。奥襟を掴むと潰れて試合を流し簡単には持たせぬ構え。1分57秒、リヘイが右背負投に座り込み潰れると志々目膝を入れて圧し左内股の形で転がして「技有」。2分過ぎ、志々目引き手で袖、釣り手で奥襟を持つと左小内刈。リヘウ転がり、なぜかこれにポイントは宣告されなかったが志々目慌てず横四方固で被さる。危なげなく合技「一本」。

【3回戦】

志々目愛〇優勢[技有・内股]△レカ・プップ(ハンガリー)
ここまでアンドレア・キトゥ(ルーマニア)とパク・ダソル(韓国)の強豪2人を倒して来たプップとの一番は志々目が左、プップが右組みのケンカ四つ。腰の差し合いが続きお互いがここから内股を一発ずつ。互いに投げ切れなかったが、志々目53秒に左小外刈で伏せさせまず「指導」ひとつを確保。志々目はこの左小外刈に手ごたえを得、1分19秒にはこの技でプップを追い、場外まで弾き出す。2分26秒、脇を差して来たプップの釣り手の上から背中を得ると作用足を探り入れ、入れておいての左内股。外に逃げる相手を腰を突っ込むようにして横に追って「技有」。以降は小外刈に大内刈、相手を崩しての寝技と手堅く戦ってタイムアップ。いよいよ次戦、本番のマイリンダ・ケルメンディ戦に辿り着いた。
【準々決勝】
志々目愛△反則[指導3](3:49)○マイリンダ・ケルメンディ(コソボ)

大一番は左相四つ。志々目引き手で袖を折り込んで前に出るとケルメンディ数歩トントンと下がって畳を割る。あくまで組み手の間合い、駆け引きのレベルの空間移動であったが主審素早く動いて28秒早くも場外の「指導」。志々目手ごたえを得たか引き手をしっかり絞り、前へ。圧を受けたケルメンディ止め切れずまたもや場外へ押しやられるが、主審今度は動かず試合続行。ここまでは志々目がむしろ圧倒的優勢であるが、ケルメンディは引き手から持つ手順をここで完全廃棄。一呼吸で釣り手を叩き入れるやり方に変えてついに上から背中を深く叩き、引き手で袖を得る完璧な形を作る。釣り手を張ってひとまず守った志々目だがあまりの圧に耐えかね、体をずらして横に力を逃がすと首を抜いた形での回避になってしまう。主審見逃さず2分14秒志々目にも「指導」。ケルメンディこの方法に手ごたえを得、再び駆け引きなしにびしりと音の出る勢いで釣り手で背中を掴む。志々目は右構えにシフトして押しとどめ、残る左をケンカ四つに近い形で争うこととなったが主審はこのやり取りを許さない。2分51秒志々目にのみ片手の「指導」。志々目はスコア上後がなくなる。ケルメンディまたもや唸る勢いで、しかも凄まじいスピードで釣り手を背中に叩き入れる。志々目脇下を突いていったん間合いを取り、右足で相手の左足を内、外と払い蹴って再び左手で持ちどころを争う構え。しかし僅か数秒この形が出来たとみるや主審あっという間に「待て」。志々目に片手の咎で3つ目の「指導」を与え、唐突に試合が終わってしまった。

序盤は志々目がむしろ圧倒的優勢であったが、たった1回組み手を与えただけでまったく情勢が変わってしまった。反則裁定の早い審判傾向を見極めたケルメンディの試合を見る目と繰り出す引き出しの確かさ、そしてパワー。ケルメンディの恐ろしさを思い知られた一番だった。

【敗者復活戦】
志々目愛○GS技有・内股(GS4:37)△チェルシー・ジャイルス(イギリス)

体の力抜群、準々決勝で阿部詩を相手に善戦したジャイルスを畳に迎える一番。この試合はケンカ四つ、志々目左内股で先制攻撃も、釣り手が抜けてしまって投げ切れず。相手の体の長さと強さを考えてか、続く展開は前襟を振っての左小外刈に切り替える。ジャイルス激しく崩れるも尻餅で耐えて「待て」。志々目以後も左内股と小外刈で攻め続けるが、2分44秒ジャイルスが奥襟を叩くとそのまま伏せてしまい、防御姿勢で「指導」失陥。
ここで志々目、再び左小外刈。ジャイルスが手を突いて耐えると位押しに押し込み、立ち上がり掛けた相手を転がし制して「技有」。しかしこれは映像チェックの結果取り消されてしまう。試合はこのままGS延長戦へ。志々目は小外刈と内股で着々攻めるが、パワーのあるジャイルスは時折振り回すような崩しで反攻。軸足に負傷を抱える志々目としては軽々に深い攻めは繰り出しにくい印象。しかし志々目、小外刈で追いかけて場外の「指導」をもぎ取ると、肚を決めてひときわ思い切り左内股。外側に軸足を回しこんで跳ね上げ、相手が耐えると背中で押し込む。痛めた左足を爪先一杯まで伸ばし切り、執念の「技有」。志々目、メダルマッチ進出決定。

【3位決定戦】
志々目愛○合技[背負投・崩袈裟固](4:00)△アモンディーヌ・ブシャー(フランス)

※前述のため省略

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