eJudo版・平成31年全日本柔道選手権予想座談会「『平成最後の全日本』を語りつくす」
二回戦
連覇狙う原沢久喜の出だしに注目
古田 いよいよシード選手が登場です。二回戦第1試合、連覇を狙う推薦選手・原沢久喜選手(7回目・百五銀行)と澤建志郎選手(初出場・石川県警察)の登場です。
西森 勝負という点では原沢選手になるとは思いますが…さきほど少し言いましたが、北信越は今回2枠とも石川県警察の選手。澤選手は石川県鶴来高校から福岡大。インターハイでは81kgで一回戦で永瀬貴規選手に敗れています。福岡大に進んでからは平成25年の全日本ジュニア90kgで準決勝まで行ったのですが小林悠輔選手に敗れ、3位決定戦で前田宗哉選手に負けて5位。平成26年の全日本学生体重別は90kgで3位。今年はシードで出たのですが、今回も出ている古居頌悟選手に「有効」で敗れています。
林 鶴来坂田道場の出身です。どの選手も足技が利きますよね。
古田 私たちが眼のつくところにたびたび出ていた選手ですね。幾度か試合も見ていると思います。勝ち上がり的には原沢選手を推して間違いないかと思いますが、澤選手には何を期待しますか?
西森 やはり、自分の柔道をどれだけ出来るかですよね。
古田 原沢選手は後半の厳しさを知っているからこそ、決勝までを見据えてどのような入り方、どんな思考で来るのか楽しみです。
絶好調・中村剛教の出来に期待
古田 近畿の中村剛教選手(2回目・大阪府警察)選手と先ほど勝ち上がりを予想した村上拓選手の試合です。
西森 ここは非常に面白いと思います。中村選手、もともと73kg級の選手ですけど、すでに2年前に全日本選手権も出ていますし、大きい選手を苦にしないんですよね。
朝飛 団体戦で王子谷(剛志)選手を投げたこともありますよね。
古田 大学時代ですね。
朝飛 王子谷選手が右の小外刈にいったときに左の内股で合わせて、王子谷選手が頭からどーんと落ちて。ポイントにはなりませんでしたが、投げたことがありました。ただ、練習量が今どうか。
林 良いみたいですよ。
朝飛 良いんですか!
西森 近畿予選も決勝まで進んでいますからね。
朝飛 いやー、面白い。
西森 勝ち上がりは、日本製鉄の田中大貴選手に勝ち、その次に古田伸悟選手に勝ち、辻本拓記選手に勝って決勝ですからね。
朝飛 天理の古田選手も相当な地力はありますから。これは期待しないと。
古田 内訳は田中選手をGS延長戦の体落「一本」、古田選手を合技「一本」、辻本選手に「有効」の優勢ですね。
林 関係の先生方からも、「中村が良い!」という話はかなり出て来ています。
西森 内股切れますし、担ぎも出来ますし。
朝飛 田中選手のような「負けない」試合運びも出来る重量級の試合巧者に、それも延長戦で勝つのは凄いですね。
古田 ここのところ復活というか、第二の上昇期が来ているなというのは感じていましたが、ここまでとは。では、ここは予選の成績と周囲の評判から、中村選手を推しましょう。
古田 次のカードは、飯田健太郎選手(2回目・国士舘大)と、大辻康太選手(3回目・桐蔭横浜大教)ですね。
西森 去年の飯田選手と渡邉(勇人)選手の対戦を思い出す、技が切れる選手同士の対戦ですね。大辻選手は奥さんの瑛美さんも全日本出場ですね。
朝飛 すごーい!
西森 夫婦同時出場は、史上初と思います。
古田 大辻選手は4月から職場が桐蔭横浜大となりました。心機一転ですね。
西森 そういうところで言うと、大辻選手も学生と存分に稽古が出来ているでしょうし、楽しみですね。勝負で言うと、階級も上の飯田選手が有利ということになるとは思いますが、面白い試合になりそうですね。
古田 飯田選手も選抜体重別で登り詰め切れなかったところがあるので、ぜひ輝いてほしいですね。それでは勝ち上がり的には飯田選手、大辻選手がどんな柔道を見せてくれるのか期待ということで。
太田彪雅のインサイドワークが勝るか、上川大樹の一発か?
古田 面白い試合が続きます!太田彪雅選手(2回目・東海大)と上川大樹選手の一番です。
西森 太田選手、選抜体重別で小川雄勢選手を投げた内股は素晴らしかったですね。
林 小川選手からあんな感じで「一本」取れる選手は、ちょっといません。
古田 これまでの小川選手の国際大会を良く見ているな、という作りと仕掛けでしたが、何より、林さんがおっしゃったように、内股という大技で取るのは凄いですよ。
林 相性的に得意というのはあると思いますけどね。
西森 以前も、団体戦で勝っていますからね。
朝飛 そのときも内股で良いのがあったんですよね。それから今回は良い小外刈があって、最後は内股で決まった。
林 小川選手が日本人相手で、あんなに綺麗に飛んだのは・・・。
朝飛 なかなかないですね。七戸選手が大内刈で、ドーンと投げたのが全日本選手権でありました(註:平成28年大会準々決勝)が、なかなかないですよ。
古田 この試合は右相四つですが、どうみますか?
朝飛 太田選手が前半、うまく試合を進めるんじゃないでしょうか。いきなり勝負に行くと一発が怖いですから。後半、上川選手の息遣いをみて勝負を仕掛けるという感じになると思います。
林 そういう頭の良い試合が出来る選手ですからね。上川選手にしたら、前半で勝負行きたいところだと思います。
古田 勝負を掛けたら掛けたで、かなり消耗しそうな印象もあります。難しいですね。
朝飛 今の状況で言うと、太田選手のほうが上かなと思います。
西森 重量級の選手の中ではインサイドワークに長けた選手ですからね。
古田 では、そこが上手く上川選手と噛み合うのではないかということで太田選手を推します。見立ては、太田選手が前半粘って、消耗を誘っておいての後半勝負。
千両役者・加藤博剛の「ワールド」に期待
古田 来ました。加藤博剛選手(11回目・千葉県警察)の登場です。対するは上林山裕馬選手(2回目・福岡県警察)。
西森 加藤選手。選抜体重別の時に話を聞いたところでは、「やっぱり自分でも年を取ってきているなというのは感じる」と。だけど「全日本に向けて新しい技を用意している」と。
林 おおー。
西森 それがどこで見られるのか、円熟の巴投に加えて、最近はYouTubeにいくつかぽろぽろと、加藤選手が投げている面白い技がアップされていますね。
古田 関東選手権の横分は素晴らしかったですね。色々言っている人がいましたが、あれを横分と呼ばずになんと呼ぶか、というくらいの典型的な横分でした。
西森 もう一つ、面白い技があった気がします。横分を新兵器に持ってくるのかー…
古田 横分、リスクが高くないですか?
西森 動画を見たところでは、危うさはなかったですね。
古田 理合通りに相手が飛んだという感じではありました。
林 見たことのない技をやってくれるのではないかという期待感はあります。見たことない決まり技でいうと、帯落とか。試合で見たことあります?
西森 ないですねー。
林 形としてなかったですかね?
古田 形には入っていないです。
西森 高専柔道の世界では「手巴」っていうのがあるんですけどね。帯を手で押さえて、巴の体勢に入って、寝技に持っていくという。
古田 最近、腕で前帯を持って仕掛ける巴投は見ますがあくまで腕はフォロー。「手巴」は脚の役割を腕でやるんですよね?
西森 そうです(笑)
林 帯落は、帯を掴んで、こうくるっと…裏側に回って投げるんでしたか。
西森 掬投風の技ではないですか?
古田 所謂、「大澤式掬投」が近いと思います。私、引き手を持ってあれを掛けるのが得意だったんですが、なるほど前帯のほうが掛けやすいし固定しやすい。理にかなってるんですね。・・・話が逸れました。
朝飛 いずれにしても、どんな選手でも嵌めてしまうんですよね。去年も、木元(拓人)選手にしても石内選手にしても、結局嵌められてしまった。
古田 「加藤ワールド」に。
西森 上林山選手はわりと動ける選手ですからね。馬力で前に出るタイプ。加藤選手にとっては一番相性のいい、得手にしているタイプだと思います。
古田 勝敗は加藤選手を推すことになりますが、内容ですね。前に出てくる上林山選手を、加藤選手がどう「ワールド」に嵌めるか。
林 やっぱり加藤選手の試合を見たい人たちってすごく多いと思うから、どんどん興味を湧かせてくれるような。
古田 先ほどの話ではないですが、通路に女性がわーっと群がるような。
西森 通路にマニアがわーっと。
古田 加藤選手の試合を見んと、武道館が溢れかえる(笑)。
西森 実際にやたらみんな動画撮っていますものね。
林 動画に残して、どうやっているんだろうと技術を見たい選手ですよね。
古田 ではこの試合もう一つの「裏の見どころ」は、試合中、観客席でスマホをさっと立てる人の多さというところですね。
斉藤立と黒岩貴信の本格派対決、ケレン味なき力比べに期待
古田 そしていよいよです。近畿地区を制して出場の黒岩貴信選手(2回目・日本製鉄)対、初出場の高校生・斉藤立選手(初出場・国士舘高3年)。
朝飛 2回戦の好カードですね、もう最高のカードですね。
古田 本格派対決ということでよろしいでしょうか。
西森 よくも悪くも噛み合う試合になるのではないでしょうか。
古田 期待です。
林 黒岩選手が身長193センチ、体重140キロ。一方の斉藤選手は190センチ、155キロ。
西森 どちらも身体の柔らかい、これぞ本格派という選手です。
古田 黒岩選手も、そして斉藤選手も相手にケレン味のない方が力を発揮できる選手です。・・・予想するのが難しい段階に入って参りましたが。
西森 先ほど良くも悪くもといったのは、すぐに決着がついてしまうと寂しいなという、贅沢な悩みなんですけど。(なるべく長く打ち合いを)見たい試合ですものね。
朝飛 斉藤選手が上田(轄麻)選手と戦って勝てなかった2試合や、昨年中野寛太選手に足技で投げられた試合などいろいろ見てきましたが、この間の東京予選を見る限りでは攻防の中で、次は反対の一本背負投が来るだろうとか、大外刈が来るだろうという準備が全部できていましたね。
古田 なるほど。
朝飛 次はこちらに来る可能性があるんじゃないかと、明らかに相手の次の行動を想定して、計算に入れた上で対応している動きでしたから、今回も相当色々なことを考えて試合に臨んでくるだろうなと思っています。もちろん黒岩選手も十分研究してくるでしょうし、持っているものも凄いのですが、今回は斉藤選手が胸を合わせて一発持っていくような展開があるのではないかなと、私は勝手に思っています。
林 なるほど。
朝飛 そして黒岩選手がそれに応じるというわけではないですが、そもそもそういう真っ向勝負の柔道をやってくれる選手なので、これは面白い試合になるだろうと思っています。
西森 お互いに良いところを出し合っての。
林 ダイナミックな試合になりそうですね。
西森 黒岩選手は左右が利くのでそこも面白いところですよね。
古田 斉藤選手、3月初旬に負った負傷が心配ではあります。肘は良くなったが、手首に痛みが残るとの情報もあります。
西森 怪我自体は早い段階で良くなったという情報もあったのですが、痛みはまた違いますからね。
古田 ただ、本番は4月29日ですから、時間はあります。昨年は予選の出場自体を我慢させた岩渕公一監督ら指導陣も、今年は全日本を早い段階からかなり意識していました。期待しましょう。
古田 さて、推薦選手の影浦心選手(3回目・日本中央競馬会)と本間稔永選手の試合です。
西森 勝ち上がりは影浦選手かな、と思います。
古田 ここのところ元気のない影浦選手が、全日本という大舞台でどういう試合の入り方をしてくれるか楽しみです。
林 少し先の話にもなってしまうかもしれませんが、影浦選手にとってはもっとも入りたくないブロックに入ってしまったかもしれません。
古田 正直、引きとしては相当厳しい。
林 大きい選手が得意なのに、そういう相手が1人もいません。
古田 しかも一癖、ふた癖あるタイプばかりですからね。
西森 そういう意味では、三回戦が問題ですよね。ここは突破できると思うんですけど。
古田 影浦選手の巧さ、経験、強さを勝って、この試合は影浦選手が突破ということで次に行きたいと思います。
「曲者」対決第1ラウンド、垣田恭兵に北野裕一がマッチアップ
古田 言葉は悪いですが、「曲者」対決。この段階で、癖があるということでは大会きっての2人が早くも対戦します。垣田恭兵選手(6回目・旭化成)と北野裕一選手が相まみえます。
林 もったいないですねー。
西森 本当にもったいない…。まあ、とはいえ、全日本のこれまでの実績から見ると垣田選手のほうがワンランク上であるということは言えますね。
朝飛 この前の選抜体重別の投げ方も凄かったですよね。
西森 熊代(佑輔)選手があんな飛び方するとはちょっと想像出来なかったですよ。
林 衰えないですよね。
古田 さらに味が出てきました。
朝飛 しかも自分と同じ、もしくは身体が小さい選手と戦っても。例えば新日鐵の吉永慎也選手も綺麗にもっていきましたよね(註:平成28年大会一回戦)。かと思えば小川選手みたいな大きい相手とやっても全然苦にしないで投げる。判定上「有効」にはなりませんでしたが、確かに投げましたからね。
林 一昨年は勝っています。原沢選手からも「技有」を取った実績もあります。
古田 それでは垣田選手に勝利の理ありと。
林 もったいない対決ですね。本当に。
古田 そうですね。影浦選手もそうですし、加藤選手もそうですが、大きい本格派との戦いを見たかった。今年の組み合わせを見たとき、最初の印象はやっぱりこのブロックでしたもの。「集めすぎ!」が最初の一言です。
林 それぞれ面白い試合をしてくれるとは思うんですが、やっぱりもったいないですね。今一つ、本来の個性を発揮できる敵役に恵まれない部分があります。
古田 では、垣田選手の勝ち上がりを予想して反対のブロックに移っていきたいと思います。
王子谷剛志vs中野寛太、新旧本格派対決は序盤の「圧力」の有無がみどころ
古田 推薦選手の王子谷剛志選手(7回目・旭化成)と、大学生になったばかりの中野寛太選手(2回目・天理大)の対戦です。
西森 これももったいない。
林 まあもったいないけど、面白いですね。
朝飛 中野選手、今年は結構やると思いますよ。
一同 おー。
朝飛 まあ、最終的には疲れてきて例えば支釣込足で転がされてしまうのかもしれませんが、結構戦ってくれると思います。王子谷選手がしっかり組んだら大外刈というラインが見えてくると思うんですけど、中野選手はずらしながら試合を進めてくると思うんですよね。出足払や、彼のいいところが出てくる展開になる気がするんですよね。
古田 中野選手が足技で王子谷選手をぐらつかせる場面をぜひ見てみたいと思いますね。
西森 でも王子谷選手、全日本になると実に上手いんですよね。組み方も雑にならず緻密ですし、相手が疲れてくるのもしっかり待てるし。本当に上手にこなせる。
古田 また全日本になると勝ち上がりの過程も上手いです。
朝飛 体力も残しながら上がってくるんですよね。
古田 中野選手に勝ちの目があるとすればどんな展開が考えられますか?普通に考えれば王子谷選手の圧が段々効いて来て、最終的には朝飛先生がおっしゃったように胸を合わせて支釣込足なり、小外刈なり、浮落なりで持っていく絵が想像しやすいですが。
朝飛 足でぐらつかせるというのは確かに中野選手の持ち味ですが、中野選手はしっかりと技に入れば大きい選手を持っていくだけの力があると思うんです。斉藤選手に勝ったのもたまたまじゃないんですよね。組んでいるときの安定性もあるので…。中野選手、最近新しい技は勉強していますかね?
西森 袖釣込腰は続けてやっていますよね。
朝飛 やっていますね。
林 入る前がちょっとわかりやすいですけどね。中野選手、結構、はっきりと組み替えてきます。
朝飛 奥襟を持たれた時の圧を分散させられたら面白いですね、あとは、あまりにも王子谷選手が前に出て来すぎたらチャンスが出てくるのかなと思いますね。
古田 序盤の戦いぶりは、王子谷選手の圧がちゃんと掛かっているかがひとつの見どころですね。王子谷選手を押しますが、非常に攻防自体が楽しみな一番です。
古田 続いて、一色勇輝選手(2回目・日本中央競馬会)と佐藤正大選手の対戦です。これは、また…面白い。
西森 一色選手は、今どき珍しい大ダンビラ一本で勝負するタイプ…上から叩き落す大外刈一本で勝負してくる選手なので、しぶとく、担ぎのある佐藤選手とどういう風にかち合うか。個人的には一色選手が好きなので、一色選手を押したいなと(笑)
朝飛 この間の水曜日もうち(慶應義塾大)の蓜島(剛)と稽古して頂いて。日本大の金野潤監督がついていて、「返されてもいいから大外刈をやれ」と言ったら、返されようが何しようが、本当に力を使って凄い大外刈を打ってくるんですね。それで最後、倒れこんであとブザーまであと20秒というところに、金野先生が「立ち上がって一発でいいから大外刈、行って来い」と言うと、バンとぶつかってぐぐぐぐと行って、最後は前のめりにバタンと倒れたんですよ。この人はかっこいい!と思いました。あとは、学生体重別団体の尼崎の会場は運動靴が物凄く散らばりますよね。あれを1人で直しているところを見たことがあります。本当に格好良い選手なんです。
古田 非常に全日本選手権らしい選手だと思います。一色選手は高校では全国大会の個人戦に出て来れなかったのですが、金野先生が素材の良さを見抜いてスカウトして、本当に彼の「作品」と言える選手の1人ですよね。佐藤選手は本格派を凌ぐことに長けている一筋縄ではいかない選手ですが、それを突破できるだけの力が一色選手にあるかどうか。逆に佐藤選手が一色選手の力を凌いで投げるだけの技術と粘りがあるかどうか。
西森 面白い試合になりそうですね。
古田 そうですね。全日本で最も見たいタイプの、典型的な構図の試合のひとつですね。
西森 一色選手は、前回の出場では高校の先輩、垣田恭兵選手と対戦したんですね。
一同 あー。
古田 まさに、一筋縄ではいかないタイプの、典型の手練れと戦ったわけですね。
西森 それで先にポイント取られてしまって、大外刈で何度かあわやという場面を作ったんだけど取り切れなかった。
古田 これは予想が難しいですが、一色選手の圧力と、一種愚直でストレートな技出しが佐藤選手の技術を凌駕するという予想でよろしいですか?
林 うーむ。佐藤選手もありですけどねえ・・・。ひとつ情報として。一色選手、凄く真面目ですよね。大学を卒業して環境が変わりましたが、日本中央競馬会はかなりしっかりした研修があって、この4月は意外にきつい部分があると思うんですよ。
古田 なるほど!さすが林さん、貴重な情報です。
林 去年、影浦選手はそれによって力を出し切れなかったのか、と思った部分もありました。
西森 でも原沢選手は1年目で優勝しましたよ(笑)。
林 今年はダートが東京オリンピックに向けて工事中。逆にダートで走りこんでいないはず。長い目で見ると大切なトレーニングだと思いますが、短期的に言えば(走り込みが)、ないことによって、今まで通りの普通の練習になっていればそれはそれで力が出せるかもしれません。ただし、社会人として普通の研修をやっている時期ではあるのでそこは織り込んでおいても良いかなと思います。彼は器用なタイプではなさそうですからね。
古田 稽古量がパフォーマンスに直結するタイプという印象はありますよね。
林 そう。でも勝ち上がってほしいなという思いはあります。
古田 佐藤選手は講道館杯で、腰を引いてファイティングポーズをとって、口を大きく開けて叫んでいたり、試合中、引き手争いのさ中に気合を入れるため自分の頬を叩いたりと、非常に見ていて面白い。異常な気合の入り方をテコにしてステージを上げてくる選手というのは一定数存在しますが、そのラインで自分を一段あげる方法を見つけたような気がしています。
朝飛 この前、佐々木健志選手を投げたときは吼えていましたね。うっすらガッツポーズもしていたかもしれません。
古田 そういえば、佐藤選手は初出場ですから、これで、姉(佐藤瑠香選手)、弟とも全日本出場を果たしたということになります。
朝飛 親子あり、夫婦あり、兄弟あり。
林 なんだかそういう風に言うと、全日本が温かい大会みたいに聞こえますね(笑)
古田 皇后盃も全日本選手権とこういう風に絡むことが増えてきて、女子柔道もいよいよ歴史が厚くなってきたなという気がします。
ウルフ登場、初戦の相手は同階級の新添悠司
古田 次はウルフアロン選手(4回目・了徳寺学園職)対、近畿の新添悠司選手(初出場・大阪府警察)の対戦です。
林 ここもきょうだい(兄妹)ですね。ただ勝ち負けで言うと、同じ100kg級ですから、世界チャンピオンの方を推さざるを得ないですかね。
朝飛 新添選手も良い柔道をします、やりにくい柔道をしない型の選手ですから、ウルフ選手としては力を出しやすいですよね。
古田 背が高くてすらっとしていて。
林 あ、190センチを超えているんですね。
西森 192センチですね。
古田 高校3年で全日本ジュニアに出て来たときには、大学でもっと伸びて、あるいは強化選手に入ってくるのではと期待していました。
西森 筑波大に行った後、少々停滞していたイメージはありますよね。でもここで出てくるのはやっぱり相当地力があるんですね。
古田 少年柔道から、妹さんともどもかなり評判が高かったんですよね?
朝飛 強かったですね。170センチ以上あったのに先鋒で出て、マルちゃん杯で優勝しました。
古田 その才能が、いよいよ最高峰の大会で、同階級の世界王者に挑戦。気風の良い試合に期待しましょう。
古田 続いて上田轄麻選手(4回目・日本製鉄)と郡司拳佑選手の対戦です。
西森 上田選手も重量級にしては極めて組み手の上手い、戦術性に長けた選手で、非常に手堅いですね。郡司選手は良いところを消されそうな気がします。
朝飛 郡司選手、力を付けてきましけどね。また右の相四つだから力を出せるだろうなとも思うのですが、戦術にしても、試合の流れにしてもやはり上田選手は上手いですからね。
古田 上田選手は組み手も上手ですが、力も強いんですよね。その力を相手の良いところを消しながら上手に使ってくるので、郡司選手のような技の強さを押し出している選手にとっては決して取り口が良くないように思いますね。
西森 郡司選手は、上田選手を食って上に上がれるかというのが今後の柔道人生に大きく影響してくるように思うので…、チャレンジマッチといいますか。思いっきりやってほしいですね。
古田 それでは座談会チームとしては上田選手を推しておきますが、郡司選手に大いに期待ということで。
二回戦屈指の好カード、揚がる佐藤和哉と今春充実の七戸龍が激突
古田 次は予想が難しいですよ。
西森 佐藤和哉選手(3回目・日本製鉄)と七戸龍選手です。いやー、今、佐藤選手は調子良いですからね。
古田 全日本選手権って本当にもったいない大会ですよね。これが二回戦のカードですか。
林 もったいないというより、こういうのがあるから良いんですよ、全日本は。
西森 ここのところの調子を出せるのであれば、佐藤選手が上がるのではないかと思います。去年の講道館杯から調子良いですよね。講道館杯、東京予選、選抜体重別と。
朝飛 そうですね。選抜体重別の原沢選手との戦いも、決して逃げているような感じはなかったですよね。
古田 かつての脆さも併せ持った業師という印象から、一段ステージから上がったように感じます。
西森 東京予選では飯田選手にも勝っているわけですから。
林 きれいに内股で「技有」取って。
古田 七戸選手も素晴らしいんですけど、現状の佐藤選手の勢いを買ってここは佐藤選手を押したいと思います。
西森 去年、講道館杯で戦っていたのでは?
古田 少々お待ちください。・・・七戸選手と佐藤選手、戦っていますね。講道館杯。GS延長戦の末に、「指導2」対、「指導3」で佐藤選手が勝っています。
西森 七戸選手はその前の試合、王子谷選手と戦って消耗していたというのもあるとは思うんですけどね。
古田 ちなみに佐藤選手、その前の試合では上川選手から小外刈「一本」。
朝飛 かぁー!これは乗っていますねえ!
古田 その前が国士館大の竹村昂大選手から小外掛「技有」に、大外刈「一本」。素晴らしい。
林 いいですね!これは佐藤選手を推すべきでしょうね。
古田 七戸選手を応援する気持ち、全日本の活躍に期待する気持ちは誰もが持っていると思うのですが、ここは講道館杯からの結果を判断して、佐藤選手の勝利としておきます。
古田 続いて熊代佑輔選手(4回目・ALSOK)と辻本拓記選手の戦いです。双方100kg級の選手ですね。
林 私は、がぜん熊代選手を押します。
西森 幾度も我々を驚かせてきた熊代選手ですが、ここ半年くらい、ちょっと力が落ちてきたかなという印象もあります。
林 そう思うでしょう?
西森 お?ということは、今、良いんですか?
林 聞いたところでは、今回も秘策を練っているようですよ。
古田 林さんの情報、分厚いですね!
林 この全日本にはかなり、掛けているようです。
古田 落ちて来たというよりも、年齢重ねて調子の波が出てきた印象はあります。いいときの熊代選手は相変わらず、とてもいいですよ。
西森 この人はスタートが遅い分、歩みを止めないというか、いまだに飄々と伸び続けているように感じますよね。
林 柔道を楽しんでいる感じがします。
朝飛 去年の講道館杯で優勝したときのインタビューも、自然体で素晴らしかったですよね。格好良かったです。
林 去年の全日本選手権東京予選の決勝、原沢選手に大外刈をがんがん掛けた試合も忘れがたいです。
古田 熊代選手のベストバウトはあの試合かもしれません。ほれぼれしました。
林 羽賀龍之介選手を袖釣込腰で投げた試合は上手かったですね。
朝飛 よかったですね。小内刈でも投げましたね。
林 今でも伸びている感じがあります。細かい技術も積んでいるし、右も左も同じように掛けます。
西森 去年の全日本選手権では石川竜多選手を袖釣込腰で豪快に放っています。
朝飛 あー!そうだった、ものの見事に投げましたね。あの試合の後に、久しぶりに会って、あの袖釣込腰を掛けてみてくださいとお願いすると、こうやって引き手を外して入るから、手がこのままで(両手がまとまって)そのまま飛ぶんだ、と説明してくれました。引こうとしたら相手が嫌がるから、そのまま外して投げるとこの(抵抗出来ない)形になると。
古田 たしかにこれ、体が固まってしまいますね。・・・それでは熊代選手の勝ち上がりを予想しておきましょう。林さん仰る「秘策」、新兵器にもぜひ期待ということで。
今春不調の小川雄勢、全日本での巻き返しなるか?
古田 小川雄勢選手(4回目・パーク24)と、東海地区の古居頌悟選手(初出場・愛知県警察)による一番です。
西森 古居選手は、東海大甲府高から東海大。先ほど、本間選手が体育系大会の100kg級で優勝した話をしましたが、その年の90kgで優勝したのが古居選手ですよね。ついに全日本の舞台まで出られるようになった。後に続く選手に勇気を与える存在だと思います。小川選手はこのところ国際大会、選抜と成績を残していない中、ここで気持ちを切り替えてやれるのかという、試合の入りを見るのには非常に面白い試合かなと思います。
古田 国際大会では小川選手、結果は残せませんでしたが、「投げて勝たなければダメだ」という決意がある試合も見受けられました。苦しい立場になって迎える全日本でどういう柔道を考えてくるか。
林 昨日、小川選手に話を聞いたのですが、最近の、決して良いとは言えない状況についてどう思っているかを聞いてみると「試合が続いて、自分の柔道がバラバラになっていて、こなす柔道をしてしまっている。こなすだけでは勝てないというのを感じている」と。続いて、ではこれからどういう試合をしていきたいのかということを聞いたら「とにかくしぶとく、我慢強く、前に出る」と。多分それが彼の一番のアイデンティティというか、一番の戦い方。
古田 うーむ。これまでと、方向性は変わっていないですね。
林 徹底したら、これは強いと思います。
古田 国際大会の序盤は一本を取りに行く柔道が散見されたと思います。
林 その「一本を狙う」色気をつけたがために、柔道自体がバラバラになっていったのではないかと。
古田 うーむ。
林 それが逆に自分の柔道を崩すことになったということで、もう一回原点である「しぶとく、我慢強く」に立ち戻ると。ただ、小川選手がこれをやると相当強いと思いますよ。
朝飛 今、ルールが、押して出たときにどっち「指導」が来るかわからないじゃないですか。あれが、(前に出て優位を作るタイプの)彼にとっては大きいですよね。すごく。
林 そこを上手く見せられるかどうかは、確かに大きい。
古田 「押し出す行為はきちんと反則を採りなさい」という流れは、国内にも来ていますね。全国高校選手権では監督会議、審判会議でこの点事前の確認があったようです。
林 「押し出し」ではなく、前に出て前に出て、圧力をかける。彼の本来の良さである、圧力をかけて相手を潰していく戦いに徹すれば面白いのではないかと。先日、講道館の上村春樹館長の取材をさせて頂いたのですが、館長は学生時代、ザ・ガードマンと言われていて。
古田 あ!久しぶりに聞きました(笑)
林 そういう柔道に徹していたわけだけど、館長がオリンピックの代表になったのも、「強いからじゃない、投げられないからだ」と。投げられなければ、いずれ勝つという逆説的な発想ですよね。当時のルールの問題もあっただろうけど、投げられないことを起点に、全てのタイトルを取っていった。
古田 小川選手がそこに徹したらそうそう投げることはできないだろうなと思います。ただ、一本を取るのか、圧力に徹するのか、論理的な矛盾というか、インタビューを伝え聞く部分だけでも揺れは感じますよね。私は今年の一連の国際大会を観て、以前垣田選手に敗れた試合もそうだったのですが、「脇に食いつかれた」ときの小川選手がどういう行動を取るかに注目しています。ここ数回の負けは全てこれが起点で、しかも研究されている気配が濃厚です。垣田選手との対戦も、正面にいたときはむしろ有利だったが脇につかれると非常に苦しかった。きちんと自分の試合を研究して、そのぶん成長しているのかという面でも、ここに注目したい。
西森 いまの観点から発言させて頂きますと。原沢選手、王子谷選手、影浦選手、小川選手と東京オリンピックを狙える今回のトーナメントの「角」にいる4人を見たときに、この1年で、一番上積みがあるのは原沢選手ですよね。気持ち的には背水の陣の中での勝利経験だったり、技術的には、小内刈が上手くなって、崩し技として大内刈と組み合わせて使うことが出来るようになっていたり。それでいうと、王子谷選手、小川選手、影浦選手にどういう技術の上積みがあったのかというと、明快に答えるのはなかなか難しい。確実にこういう技が増えた、という上積みは薄いですよね。
古田 小川選手に関しては高校時代の柔道の延長線上、スケールのみを上げて来た印象があります。…ただ、林さんのおっしゃる通り、戦いの鉄則として「自分の強いことをやり続けることの強さ」というのは、観点として無視できない。それで頂点に立てるかはともかく、現状、明確な新しい武器がないのであれば、そこに立ち戻って、今出来ることの最大限を出すというのも、ひとつの戦い方とは思います。
林 小川選手の中では、直接言ってはいないですが、もう自分の中で東京世界選手権、東京オリンピックっていうのが難しいのかもしれないという気持ちもあるとは思います。彼の言い方としては、それも大事な試合だとは思うけど、それは関係ない、全日本のタイトルを柔道家として取ることだけが今回の目標なんだと。だから、あくまでも全日本を取るために戦うと。こうやって肚を括っているのはなかなか強いと思います。あとは、ルールがちょっと違うというのも計算していると思います。「有効」があったり。そこを最大限に生かして戦うのではないでしょうか。
古田 簡単に投げに行かないで、じっくりと、ひたひたと状況を積み上げる小川選手の怖さというのは確実にあります。いずれ、どんな入り方をするか大いに注目したいですね。
古田 九州から尾原琢仁選手(2回目・旭化成)。ここに春山友紀選手がマッチアップします。
西森 尾原選手は昨年、全日本実業個人でブレイクしましたよね。力をつけてきていると思います。今回の大会でも上背は相当高い部類。
林 193センチあります。3人いるうちの1人ですね。
朝飛 あと2人はだれですか?
林 七戸選手と黒岩選手ですね。
朝飛 (資料を見て)192センチが原沢選手と下和田選手、190センチが斉藤立選手と小川雄勢選手ですか。
西森・古田 大きい!
朝飛 190センチ以上が8人ですね。
林 飯田健太郎選手も188センチありますからね。え、前田宗哉選手も190センチ!?
朝飛 それでは、9人です。
西森 そんなにある?誤植じゃないですか?(笑)
古田 大学に入っても背は伸びている、と聞いたことはありましたが、凄いですね。今回は大型大会ですね。・・・それで話を戻して、尾原選手対春山選手です。
朝飛 尾原選手は力をつけてきていますね。
古田 春山選手は90キロ級。
朝飛 春山選手はしぶとさの一方、引っかかってしまうとそのまま転がってしまう場面も意外と多いです。
古田 昨年、実業個人を取材した記者は、尾原選手の実力を非常に高く買っていました。ここは実力と、まさに技術を突破して「引っ掛けて転がす」尾原の体格と強さを推しましょう。