ロンドン五輪銀の中矢力が現役引退、「73kg級黄金時代」の立役者

2度の世界王者に輝き、ロンドン五輪では銀メダルを獲得した中矢(写真は2012年)

もと73kg級の世界王者(2011年パリ世界選手権・2014年チェリャビンスク世界選手権)で2012年ロンドン五輪の銀メダリスト・中矢力(ALSOK)が、17日、オンラインで引退会見を行った。

東京オリンピックを競技人生の節目と考え、今年いっぱいで現役生活に終止符を打つことを決意していた。会見では「26年間でたくさんの経験ができた。ここまで成長出来たのも、指導者の方々や家族の支えがあったから。感謝の気持ちでいっぱい」と挨拶した。

中矢は2014年のチェリャビンスク世界選手権での戴冠後、翌2015年のアスタナ世界選手権決勝で大野将平に苦杯。代表権を逃したリオデジャネイロ五輪後の2017年秋からは81kg級に階級を上げ、同年講道館杯出場も果たしたものの以後国際大会への再進出はならず。ラストイヤーと決めていた2020年は73kg級に階級を下げてチャンスを待ったがコロナ禍で試合が行われず、この日の引退を迎えることとなった。

固技で「一本」の山を築いた。>

当代きっての寝業師として知られ、抑込技・関節技・絞技をバランスよく使いこなして「一本」の山を築いた。ルールが変更されたロンドン五輪後は投技にも進境著しく、体幹の強さと、その後に訪れる寝勝負の強さという自身の特徴を生かした独特の技を練り上げて、2度目の世界制覇に繋げた。この頃日本の73kg級は2010年世界選手権王者の秋本啓之、2011年と2014年の王者中矢、2015年アスタナ世界選手権を制した大野将平と3人の世界王者がひしめきあう黄金時代。中矢はその中核を担った。

今後は指導者の道を歩む。

会見後に行われた質疑応答の要旨は下記。

大野将平とも激戦を繰り広げた。>

―――このタイミングでの決断。

引退はオリンピック周期で考えていました。ですので、今年は掛けていた年。最後の年はもともとの階級である73kg級で勝負しようと体を作っていました。試合に出ておかしくない状態は作り上げていた。でも今年は試合もなく、来年も見込みがわからない。その中で、これから自分がやっていくことはなんだろう、と考えると、これからの選手に自分がやってきたことを伝えることではないかと思いました。

―――一番印象的な試合は?

たくさんの試合に出、すべての試合が印象的ですが、強いて言うなら、ロンドン五輪決勝。たくさんの世界大会に出ましたが、オリンピックの決勝の舞台は違った。どんな試合に出ても試合で記憶なくなるようなことはありませんでしたが、いざオリンピックの決勝の畳に上がったら頭が真っ白になってしまい、自分の柔道が出来ませんでした。

―――ロンドン五輪後、苦しい時期がありました。
(リオ)オリンピックの代表は1人なので、絶対に大野将平選手には勝たないといけないと思っていました。もう1度世界選手権で優勝できたのは、大野選手という強敵が現れてくれたおかげです。また、秋本啓之選手が先に世界で活躍しており、彼の背中を追うことで世界チャンピオンになることが出来たと思っています。いま挙げた2人の世界チャンピオンが僕にとって本当に大きな存在。最大のライバルでした。

―――中矢選手といえば寝技です。寝技についてと、寝技で勝った自分の中で「これ」という試合を教えてください。

僕は技が切れるような選手ではない。泥臭く、をイメージしながら戦い、寝技では絶対負けたくないと日々思いながら稽古に励んでいました。勝った試合は…。寝技で勝った試合のほうが多かったので、そこまで「これ」という試合はないんですけど、心に残っているのは、オリンピックの決勝で腕を取られた(極められた)場面。普通なら「参った」してもおかしくない腕の曲がり方だったんですけど、「腕が折れても『参った』はしない」と決めていました。寝業師としての意地が出た場面だったと思っています。

―――どんな指導者を目指しますか。

これまで、僕の柔道を見て真似する選手はいなかったんです(笑)。ということは、真似が出来ない柔道をいかにどう伝えていくかが課題。僕色にどう染めていくかが大事かなと思っています。技が切れる選手というよりは、しつこい選手を作っていくのが目標です。

オンラインで会見に応じた中矢。終始爽やかな笑顔だった。(写真提供:ALSOK)

<中矢力選手 おもな戦歴>

1989年7月25日生まれ。新田高→東海大。

2006年 インターハイ 優勝 (高校2年)
2008年 全日本ジュニア体重別選手権 優勝
2009年、2010年 全日本学生柔道体重別選手権 優勝
2010年 講道館杯 優勝 (シニア国内大会初優勝)
2010年 グランドスラム東京 優勝 (ワールドツアー初優勝)
2011年 パリ世界選手権 優勝 
2012年 選抜体重別 優勝 (初優勝)
2012年 ロンドン五輪 2位
2014年 チェリャビンスク世界選手権 優勝
2015年 アスタナ世界選手権 2位

2020年、31歳で現役引退。

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