• HOME
  • 記事一覧
  • ニュース
  • パワー派揃う「打ち合い王国」 V候補は立ち技のマロンガとヴァグナー、寝技の濱田尚里/東京オリンピック柔道競技女子78kg級概況解説・シード予想

パワー派揃う「打ち合い王国」 V候補は立ち技のマロンガとヴァグナー、寝技の濱田尚里/東京オリンピック柔道競技女子78kg級概況解説・シード予想

<日本代表は当代きっての寝業師・濱田尚里>

階級概況

<実力推測マップ。V候補3名の属性は立ち、寝、とはっきり分かれた>

優勝候補は濵田尚里(自衛隊体育学校)、マドレーヌ・マロンガ(フランス)、アナ=マリア・ヴァグナー(ドイツ)の3名。属性は濵田が寝技、マロンガとヴァグナーが立技とわかりやすく分かれており、日本の柔道ファンにとっては濵田がこの2名を相手にいかに寝技に持ち込み、そして勝利するのかが最大の注目ポイントだ。

<濱田必殺の「腕緘返し>

濵田はご存じのとおり女子柔道ナンバーワンと謳われる寝業師。ひとたび寝勝負になれば、得意の「腕緘返し」や「引き込み返し」から着々と手順を進め、関節を極めて、あるいは抑え込んで勝ってしまう。投げに失敗した相手が我を忘れて立ち上がって逃れようとしまうほど(それが嵌りなのだが)、濵田と他の選手の寝技には大きな差がある。男女全階級を見渡してもほとんど、下手をするとほかに誰もいないかもしれない「自分の柔道を全うさえすれば勝てる」選手である。ゆえに寝技に持ち込みさえすればほとんど勝ちが確定するのだが、濵田には立技で勝つことへのこだわりがあり、これは良さであり伸びしろでもあるのだが、かつて実は自ら寝技へ引き込むことは稀であった。濵田は立技も平均以上のものを持っており、技の威力は一級品。しかし、相手の技を正面から体の力で受けてしまう癖があり、マロンガのような投げの威力がある水準を越えた選手との戦いでは、立技のフィールドに立っていること自体が大きなリスクとなる。これまではこの「寝技になれば無敵だが立技への志向が強い」ことが唯一にして最大の弱点だったのだが、本人のコメントや最近の戦いぶりから推察する限り、どうやら今回は形に関わらずとにかく勝利にこだわっている様子。コロナ禍が明けて出場した2大会では立ち姿勢からの引込返や巴投も見せており、課題であった寝技へのエントリー手段も順調に増やしている。立技についても弱点克服を目指して強化してきたとのことで、組み力が増し、足も良く動くようになっていた。寝勝負と割り切った濵田ほど恐ろしいものはない。絶対的に強いフィールドがあるというこのアドバンテージも含め、優勝候補3名のなかでもっとも金メダルに近い存在であることは間違いないだろう。また、これは以前五輪代表の「採点表」でも書かせていただいたことの引用なのだが「ここまで強くなれば、そして他候補選手との実力・実績が隔絶した状況であれば、(すべての代表選手に言えることであるが)五輪の試合はあくまで濵田本人のもの。もはやどんな戦いを志向して何が起こったとしてもドラマとして納得できる域にある」。これは実感である。ファンとしては、あとは濵田が五輪という最高の舞台で、どのような試合を見せてくれるのかを楽しみに待つのみ。

<2019年の世界王者マドレーヌ・マロンガ>

表彰台争いに関してもまずは前述の優勝候補3名が有力。ここに第1、第2グループの選手たちが挑み、そのうえで残った1枠を争うというのが順当シナリオだ。ただしこの階級は柔道が大味なフィジカルエリートが揃っていることもあり、非常に荒れやすい面を持っている。最近は比較的安定しているとはいえ、大会によっては上位陣が総崩れに近い状況になることも珍しくなく、実際にトーナメントが始まるまでその様相は読み難い。伏兵候補はマイラ・アギアール(ブラジル)とベルナデット・グラフ(オーストリア)、ベアタ・パクト(ポーランド)の3名。アギアールは世界選手権優勝2回(2014年、2017年)の階級を代表する実力者。本来であれば優勝候補の一角に名を連ねても良いのだが、コロナ明け唯一の出場となった6月のブダペスト世界選手権では2回戦でマルヒンデ・フェルケルク(オランダ、同大会で引退)に良いところないまま「指導3」で敗れており、今回はあくまで第1グループ内の、調子次第で優勝候補に並び得る存在という位置。続いてグラフ。この選手は世界大会でのメダル獲得歴こそないものの、密着しての一発に威力があり、ワールドツアーでは度々階級のトップ層を破って表彰台に上がっている。ハイリスクな接近戦スタイルゆえに成績は安定しないが、1試合限定ならばその破壊力は大きな脅威だ。最後のパクトだが、この選手は今年4月に行われた2大会、グランドスラム・アンタルヤで2位、欧州選手権で優勝といずれもほとんどノーマークから結果を残して上り調子にある。試合の様子を見る限りそこまで強い印象は受けないのだが、だからこその不気味さがあり、ピックアップした次第だ。

シード予想

【プールA】
第1シード:マドレーヌ・マロンガ(フランス)
第8シード:カリエマ・アントマルチ(キューバ)
【プールB】
第4シード:フッシェ・ステインハウス(オランダ)
第5シード:ナタリー・パウエル(イギリス)
【プールC】
第2シード:濵田尚里(日本)
第7シード:ロリアナ・クカ(コソボ)
【プールD】
第3シード:アナ=マリア・ヴァグナー(ドイツ)
第6シード:マイラ・アギアール(ブラジル)

優勝候補3名はきれいに山が分かれ、マロンガがプールA、濵田がプールC、ヴァグナーがプールDにそれぞれ配された。順当であればまず準決勝でまず濵田とヴァグナーが戦い、その勝者が決勝でマロンガと金メダリストの座を争うことになる。マロンガの側のシード枠はいずれも典型的な重量級柔道の選手であり、よほどのアクシデントがない限りマロンガの勝ち上がりが濃厚。一方下側の山の2名は準々決勝の相手として濵田にロリアナ・クカ(コソボ)、ヴァグナーにアギアールが配されており、まずはここが第一の山場だ。特にヴァグナーは少々重い相手を引いており、概況にも書いたとおりアギアールは本調子であれば優勝候補に挙げられるべき選手。楽に勝たせてくれるはずがない。勝利自体はヴァグナーの側と予想するが、それなりに競った内容になるはずだ。なお、濵田に関しては誰が相手でもやることは変わらず、投げられて「一本」を失わずに寝技に持ち込むことのみ。クカ、ヴァグナー、マロンガと連戦する組み合わせは考え得る限りもっとも過酷なものの1つだが、濵田ならば実力を発揮しさえすれば乗り越えられるはずだ。

<6月のブダペスト世界選手権を制した、伸び盛りのアナ=マリア・ヴァグナー。>

有力選手名鑑

後送する「有力選手名鑑」に実績、組み手や得意技、柔道の特徴をまとめてあるので参照されたい。18名をピックアップした。メルマガを先行、事後下記eJudoLITEにも随時アップさせて頂く。

選手名鑑 東京2020オリンピック(2021)

関連記事一覧