【東京世界柔道選手権2019特集】日本代表2人の力が突出、髙藤直寿と永山竜樹の対決がトーナメント最大のみどころ・男子60kg級概況×有力選手
階級概況
現役世界王者の髙藤直寿(パーク24)と永山竜樹(了徳寺大職)の力が突出しており、この日本勢2名の優勝争いが観戦の軸。トップグループの中でもこの2名に抗するだけの力を持つものは限られており、2015年世界選手権王者のイェルドス・スメトフ(カザフスタン)、2016年から2大会連続で世界3位を獲得しているディヨルベク・ウロズボエフ(ウズベキスタン)、そして昨年11月に競技に復したキム・ウォンジン(韓国)の3名までと言い切ってしまって良いかと思われる。ただしこの3名と優勝候補2名の間にも相応の実力の開きがあり、あくまで「アクシデントが起きたときに番狂わせを演じる可能性がある」程度の力関係と理解しておきたい。本命は間違いなく髙藤と永山だ。
続く上位候補は、昨年2位のロベルト・ムシュヴィドバゼ(ロシア)や一昨年2位のオルハン・サファロフ(アゼルバイジャン)らのトップグループに、フランシスコ・ガリーゴス(スペイン)、ルフミ・チフヴィミアニ(ジョージア)ら第2グループの上位を加えた選手たち。ただし、現在の60kg級は上位から下位までに差があまりなく、平時のワールドツアーで上位候補が第3グループの選手に敗れる場面も多く見られる激戦階級。第3グループに分類した選手たちにはヤン・ユウウェイ(台湾)やヨーレ・フェルストラーテン(ベルギー)ら近頃急激に力をつけてきている選手も多く、彼らが今大会で上位選手を食って一気に序列を上る可能性も十分。
ロンドン-リオ期以来長い間この階級を「実績ある選手がずらり揃ったハイレベル階級」と紹介し続けて来たわけだが、実はその中核を形作って来た第2グループの選手たちがあるいは加齢、あるいはおそらくは試合出場過多による消耗やモチベーションの低下、あるいは戦術のマンネリ化と相互研究による足の引っ張り合いにより、全体として緩やかな長期低落傾向にあると観察される。いまや60kg級は実は「名のある選手が多いわりにそれほどレベルが高くない」階級に変貌しつつあるという印象。髙藤と永山が相対的にその地位を上げている裏には、この周囲の低落傾向も寄与していると考える。
今年はこの実績があるが停滞気味のグループに、前述ヤンやフェルストラーテンらの新興勢力が挑みかかるという、勢力図上の分水嶺とも観察することが出来る。現状の上位層がこのまま東京五輪までその地位を守って結局このグループ内の力関係や相性でメダルの色を決めていくという線が濃厚ではあるが、若手を中心とした新勢力がこの構造を壊していけるのか、このあたりにも注目しておきたい。
髙藤と永山のライバル対決について。両者が最後に戦ったのは昨年9月のバクー世界選手権準決勝。髙藤がGS延長戦での左小内刈「技有」で勝利を得たものの、永山も「一本」級の左背負投(回りすぎてノーポイント)を放つなど、内容的には紙一重だった。
今回も熱戦は必至だ。この大会の勝敗は言うまでもなく東京五輪代表決定の最重要ファクター、どちらにとっても決して負けられない戦いだ。実力伯仲も前述「紙一重」を幾度も重ねたその結果は、世界の舞台で髙藤は金メダル3個で現在連覇中、永山は出場2度で優勝ゼロという大差。特に永山にとっては、心中期するものがあるだろう。
経験値で勝り緩急自在、もはや「融通無碍」と評すべき自在の柔道を繰り広げる髙藤に、スピードと大技一発が売りの永山。タイプの違う魅力的な日本代表2人の直接対決の実現、そして誰もが納得する「一本」による決着に期待したい。
続いて例年通り有力選手の紹介、シード位置の予想と稿を進めさせて頂く。
有力選手
下記リンク「選手名鑑・男子60kg級(東京世界選手権2019特集)」を参照されたい。現時点では12名の選手の柔道の傾向、組み手、得意技、実績などを紹介している。(追加の場合あり)
シード予想
髙藤と永山の配置はきれいにトーナメントの上下に分かれており、直接対決が実現するのは決勝だ。シード選手だけで見た場合には永山の方が厳しい位置を引いており、準々決勝でイェルドス・スメトフ(カザフスタン)と対戦予定となっている。とはいえ、ここさえ勝ち抜けば準決勝で当たるシード選手はいずれも永山にとっては戦いやすい技巧派のロベルト・ムシュヴィドバゼ(ロシア)とフランシスコ・ガリーゴス(スペイン)。勝負どころのスメトフ戦(準々決勝)さえ抜ければ、決勝進出はほぼ間違いないだろう。一方の髙藤は、準々決勝でシャラフディン・ルトフィラエフ(ウズベキスタン)、準決勝ではアミラン・パピナシヴィリ(ジョージア)とダシュダヴァー・アマルツヴシン(モンゴル)の勝者と、いずれも一定の水準を超える強者との対戦となっているが、3名ともに突如確変を起こすような爆発力には欠ける。事前予測の段階では髙藤を推しておいて間違いない。
ただし、ディヨルベク・ウロズボエフ(ウズベキスタン)とキム・ウォンジン(韓国)の大物2名がシードから漏れているのが大きな不確定要素。配置次第では、トーナメントの様相が根こそぎ変わることになる。髙藤、永山ともにこの2名との戦いとなれば消耗は避けられない。両者に万全の状態で雌雄を決してもらうためにも、可能ならばほかのプールを引いてほしいところ。
【プールA】
第1シード:ロベルト・ムシュヴィドバゼ(ロシア)
第8シード:フランシスコ・ガリーゴス(スペイン)
【プールB】
第4シード:永山竜樹(了徳寺大職)
第5シード:イェルドス・スメトフ(カザフスタン)
【プールC】
第2シード:髙藤直寿(パーク24)
第7シード:シャラフディン・ルトフィラエフ(ウズベキスタン)
【プールD】
第3シード:アミラン・パピナシヴィリ(ジョージア)
第6シード:ダシュダヴァー・アマルツヴシン(モンゴル)