【東京世界柔道選手権2019特集】ビロディドが王者対決制して2連覇、渡名喜風南を前に辛くも逃げ切る・女子48kg級速報レポート
取材:eJudo編集部
撮影:乾晋也、辺見真也
→東京世界柔道選手権2019組み合わせ(公式サイトippon.org内)
→女子48kg級全試合結果
東京世界柔道選手権2019は25日、日本武道館で開幕。初日は男子60kg級と女子48kg級の競技が行われた。
女子48kg級は、一昨年の世界王者渡名喜風南(パーク24)と連覇を狙うダリア・ビロディド(コソボ)が決勝で激突。ともにここまで全試合一本勝ち、渡名喜は立ち技から寝技の素早い移行で手堅く勝利し続け、ビロディドは徹底研究ゆえか比較的もたついた序盤戦から一転、準決勝はここまでキャリア最高に近い出来を見せていたムンフバット・ウランツェツェグ(モンゴル)を凄まじい迫力の横三角で「秒殺」。1分36秒崩袈裟固「一本」で下して決勝に辿り着いた。
決勝はビロディドの圧力を我慢し「指導1」を得た渡名喜が、この日のために準備した右袖釣込腰一撃。しかし入り切れず戻った瞬間ビロディドが左払巻込で切り返し「技有」を確保する。その後渡名喜の突進の前に「指導2」まで失ったビロディドは珍しく動揺、掛け潰れを繰り返しいつ「指導3」が入ってもおかしくなかったが辛くも逃げ切り、勝利を決めた。
3位にはムンフバットとディストリア・クラスニキ(コソボ)が入賞。ムンフバットは前述の通り出色の出来、準々決勝では積年のライバルであるガルバドラフ・オトゴンツェツェグ(カザフスタン)を三角絞で絞め落とし(「参った」せぬまま抑え込み時間が経過し切ったため決まり技は崩上四方固)た。クラスニキは同国に絶対王者マイリンダ・ケルメンディ(コソボ)がいるがゆえ48kg級に階級を下げた苦労人だが、この日は持ち前の威力ある投技で「一本」を連発。3位決定戦ではダークホースのラウラ・マルティネス=アベレンダ(スペイン)を開始33秒の内股「一本」に仕留めた。
入賞者および3位決定戦と決勝の戦評、日本代表選手全試合の戦評は下記。全試合結果については「48kg級全試合結果」を参照されたい。
入賞者
【入賞者】
1.BILODID, Daria (UKR)
2.TONAKI, Funa (JPN)
3.KRASNIQI, Distria (KOS)
3.MUNKHBAT, Urantsetseg (MGL)
5.CLEMENT, Melanie (FRA)
5.MARTINEZ ABELENDA, Laura (ESP)
7.GALBADRAKH, Otgontsetseg (KAZ)
7.PARETO, Paula (ARG)
【成績上位者】
優 勝:ダリア・ビロディド(ウクライナ)
準優勝:渡名喜風南
第三位:ディストリア・クラスニキ(コソボ)、ムンフバット・ウランツェツェグ(モンゴル)
決勝ラウンド戦評
【3位決定戦】
ディストリア・クラスニキ(コソボ)○内股(0:33)△ラウラ・マルティネス=アベレンダ(スペイン)
クラスニキが右、マルティネス=アベレンダが左組みのケンカ四つ。マルティネス=アベレンダは気合十分、フットワークよく突進。しかしクラスニキ、引き手で僅かに袖を得、釣り手で背中下側を得ると右内股。一見するとマルティネス=アベレンダの釣り手が上からクラスニキの腕を殺しているように思われたが、クラスニキは手首を伏せて肘を上げ「出し投げ」の要領で前へのベクトルを作り出す。引き手の牽引も良く効き、上体を引っ張り出されたマルティネス=アベレンダは綺麗に一回転。文句なしの「一本」。クラスニキは初の世界選手権メダル獲得。同国の誇る世界王者ケルメンデイの存在ゆえ階級を下げてから1年、感動的な表彰台登攀劇であった。
ムンフバット・ウランツェツェグ(モンゴル)〇腕挫十字固(2:32)△メラニー・クレモン(フランス)
ムンフバットが右、クレモン左組みのケンカ四つ。ムンフバット寝技に引き込むや二度と立たせず。横三角から裏三角と絡みつき、再びの横三角から肘を引っ張り出すと腕挫十字固。クレモン必死に手を結んで耐え、羽賀さんとするムンフバットは揺すり、浮固に「シバロック」に連絡する構えを見せて展開を維持。主審に「待て」を掛けさせぬまま腕を引っ張り出し続ける。おそらくは1分以上を超える寝勝負の末、ついにクレモンが力尽きて腕挫十字固「一本」
日本代表選手全試合戦評
渡名喜風南(パーク24)
成績:2位
【2回戦】
渡名喜風南○横四方固(3:47)△サビナ・ギリアゾワ(ロシア)
渡名喜が左、ギリアゾワが右組みのケンカ四つ。ギリアゾワは奥襟を叩いて変形の隅返、以後も先に奥襟に背中を得ての圧力でプレッシャーを掛ける。序盤動きの硬かった渡名喜だが2分過ぎから攻勢に出、左大腰で圧力を剥がし、2分52秒には引き手で袖を僅かに得ると低い左体落、ここから一段深く左背負投に飛び込む良い連携。ギリアゾワが転がって「待て」。
続く展開、ギリアゾワは「ケンカ四つクロス」から思い切った左内股。渡名喜やや不用意に受けて一瞬体が浮き上がったが、この形からでは体が回ることはない。潰して寝技に持ち込み、その早い移行自体で相手を置き去り。脚に体ごと絡みつくような横四方固で「一本」。
【3回戦】
渡名喜風南○崩上四方固(2:25)△エヴァ・チェルノヴィツキ(ハンガリー)
渡名喜が左、チェルノヴィツキ右組みのケンカ四つ。チェルノヴィツキは首を抱えて右釣込腰、体格を生かして位押しで攻める。渡名喜が釣り手で襟を掴むとこれを外して得意の右袖釣込腰、さらに左小外刈と見せて積極的。渡名喜は組み際に左小外刈を入れておいての左体落でひとまず陣地を押し返す。
2分過ぎにチェルノヴィツキが組み際に思い切った右腰車。渡名喜一瞬乗りかかって会場どよめくが、着地した渡名喜は体を捨てたチェルノヴィツキをもはや立たせず。またもや寝技への移行の早さで一瞬チェルノヴィツキを置き去り。チェルノヴィツキはいったん逃れて正対、下から長い足で胴を挟み込むが、渡名喜は外して乗り込み、腕を抱え、差し替えてと力強く手順を進めて崩上四方固。「一本」。
【準々決勝】
渡名喜風南○合技[大外落・袈裟固](1:31)△メラニー・クレモン(フランス)
左相四つ。渡名喜組み際に低く左体落。崩しが効いたことと一足で飛び込んだゆえ浮いた相手の脛付近を固定することとなったこの技、足車とも大外落とも取れる形だがとまれクレモンは崩落。つぶれかかったところを渡名喜一段大きく押し込み直して28秒「技有」。
続いて手先の組み手争いを経て、クレモンが膝をつくと渡名喜動きを止めずに寝勝負に移行。腹越しに裾を握る典型的「腹包み」の形を作る。クレモン立ち上がり掛けたが渡名喜頭さえ下げれば問題なしと自身も中腰で追いかけて頭を下げさせ、そのまま回して被る。脚を体側で揃える形の袈裟固で抑え切り「一本」。
【準決勝】
渡名喜風南○袖釣込腰(3:34)△ディストリア・クラスニキ(コソボ)
渡名喜が左、クラニスキが右組みのケンカ四つ。クラスニキ釣り手で背中を叩きながら接近、左内股で攻める。渡名喜は前襟を持って釣り手の操作で対抗。1分13秒、渡名喜この内股を待ち構えて透かし、右内股に切り返す。これは取り切れなかったが、しかし続く展開、渡名喜突如釣り手で背中を持ち、得意の左小外刈。反時計回りに回して押し込み切り1分53秒「技有」。渡名喜この後も左小外刈で攻める。クラスニキの差し合いに応じて左大腰を見せる少々リスクのある形もあったが、クラスニキには2分24秒に消極的の咎で「指導」、3分2秒に袖口を絞り込んだ咎で「指導2」と反則が積み重なる。クラスニキがスクランブルを掛けて前に出てくると3分18秒袖口を絞り込んだ咎で「指導」1つを失うが、残り26秒で一段違う攻めを見せる。一瞬引き手側に回り込んで右小外刈を見せると、間髪置かずに打点高く右袖釣込腰。作りの足技も決めの大技もこれまでとは方向が逆、一歩抜け出た発想。クラスニキたまらず縦に一回転「一本」。リスクを採った左大腰がうまく撒き餌として機能した一撃、おそらくは渡名喜の秘密兵器であろう、驚きの大技であった。
【決勝】
渡名喜風南△[技有・払巻込]〇ダリア・ビロディド(ウクライナ)
※前掲のため省略