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【プレビュー】GSパリきょう開幕、海外勢は五輪メダリストが続々復帰/グランドスラム・パリ2022オーバービュー

会場のアコーアリーナ・オブ・ベルシー。写真は2020年大会。

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

グランドスラム・パリ2022がきょう5日、聖地アコーアリーナ・オブ・ベルシー(旧ベルシー体育館)で開幕する。旧フランス国際大会から数えてこれが実に51回目の開催。単にIJFワールドツアー最高配点大会というだけでは説明できない、伝統と権威ある柔道界きってのビッグイベントだ。参加選手は豪華、そしてベルシーの観客は見上手。満場の観衆が良い技に拍手を贈り、時にウェーブまで巻き起こるその雰囲気も、ぜひLIVE中継で堪能してもらいたい。

今大会は新型コロナウイルス感染防止に関わるフランスの入国規制の変更や主催者の出場規定の厳格化により、直前でエントリー取り消しが相次いだ。1週間前から減り始め、ドロー終了後はついに300名を割り込む事態に(285名)。2019年の参加者は570名、2020年は680名だったから、これがいかに異様な数字かよくわかるだろう。30名越えのトーナメントは73kg級のみ。驚きの少人数大会になってしまった。

とはいえ、上位メンバーの豪華さはさすがグランドスラム・パリというしかない。東京五輪のメダリストたちもこの大会を復帰戦に選ぶものが多く、特に男子はどの階級もスター揃い。人数が少ない分、次から次へと必見カードがやって来る忙しい大会となるだろう。到底ここでは紹介し切れないが東京五輪のメダリストに限って名前を挙げていけば、男子は銀メダリストがヴァジャ・マルグヴェラシヴィリ(66kg級・ジョージア)、ラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ(73kg級・ジョージア)、銅メダリストがルカ・ムヘイゼ(60kg級・フランス)、ダニエル・カルグニン(66kg級→73kg級・ブラジル)、アン・バウル(66kg級・韓国)、ツェンドオチル・ツォグトバータル(73kg級・モンゴル)、ダヴラト・ボボノフ(90kg級・ウズベキスタン)。女子は金メダリストがディストリア・クラスニキ(48kg級→52kg級・コソボ)、銀メダリストがアモンディーヌ・ブシャー(52kg級・フランス)、サハ=レオニー・シジク(57kg級・フランス)、マドレーヌ・マロンガ(78kg級・フランス)、銅メダリストがチェルシー・ジャイルス(52kg級・イギリス)、キャサリン・ブーシェミン=ピナード(63kg級・カナダ)、ホマーヌ・ディッコ(78kg超級・フランス)といった具合だ。昨年の世界選手権王者も前述のシャヴダトゥアシヴィリ、ニコロス・シェラザディシヴィリ(90kg級→100kg級・スペイン)、影浦心(100kg超級)、角田夏実(48kg級)、志々目愛(52kg級)、バルバラ・マティッチ(70kg級、クロアチア)と実に6名が参加。パリ五輪に向けて柔道競技が再び走り出したのだな、と実感させる陣容となっている。

日本勢はブダペスト世界選手権代表を中心に、全14階級に20名を送り込む。結果として五輪代表の復帰はなく(※向翔一郎と原沢久喜が直前で欠場)、今大会の出場選手にとっては彼らが大量復帰するであろう4月の選抜体重別を前になんとしても優勝が欲しい大会。8月のタシケント世界選手権代表争いの、早くも正念場である。

各階級のプレビューはこの後配信させて頂くが、各階級の様相をひとことだけ、ざっくり書いておく。

→日本代表選手一覧

男子

【60kg級】
エントリー16名。他階級に比べると陣容は一段薄め。優勝候補の筆頭は永山竜樹で、組み合わせにも恵まれた。カラマット・フセイノフ(アゼルバイジャン)へのリベンジマッチとなる準決勝が山場だが、ルール上「韓国背負い」を封じられたフセイノフの脅威レベルは断然低くなるはず。優勝が既定路線、内容が問われる大会。

【66kg級】
アン・バウル(韓国)、ヴァジャ・マルグヴェラシヴィリ(ジョージア)、ヨンドンペレインレイ・バスフー(モンゴル)の世界大会メダリスト3人に続いて田中龍馬が堂々第4シードを張った。準決勝でアンとの手合わせが待ち受ける。

【73kg級】
凄い密度の豪華階級。ラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ(ジョージア)、ルスタン・オルジョフ(アゼルバイジャン)、ツェンドオチル・ツォグトバータル(モンゴル)、ヒダヤット・ヘイダロフ(アゼルバイジャン)、ファビオ・バジーレ(イタリア)、ダニエル・カルグニン(ブラジル)、アキル・ジャコヴァ(コソボ)とメダリスト級の名前だけで稿が埋まる。原田健士は2回戦でオルジョフに挑戦、橋本も2試合目でカルグニン、続いてヘイダロフと対戦する。相性的には橋本のほうが勝ち上がりやすい。原田はコロナ禍の2年を経て、ようやく国内の実績にふさわしい強敵とマッチアップ。チャンスを生かしたい。

【81kg級】
第1シードにタト・グリガラシヴィリ(ジョージア)が配された時点で楽しめること確定。Bシード配置にサギ・ムキ(イスラエル)がおり、これに第2シードのシャロフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)と第3シードのヴェダット・アルバイラク(トルコ)、第4シードのサミ・シュシ(ベルギー)、藤原崇太郎までがメダル圏内。順当ならグリガラシヴィリ、ムキ、ボルタボエフが優勝、この序列を破壊できる因子があるのが藤原、というのが大きな見立て。裏テーマはもと世界王者、31歳になったロイック・ピエトリ(フランス)の参戦。

【90kg級】
豪華。そして村尾三四郎は因縁のダヴラト・ボボノフ(ウズベキスタン)の山に配された。過去2戦2敗、このあたりで畳に埋めるくらいの圧勝を収めておかないとこの後が続かない。優勝必須だが、まずこのボボノフをきちんと倒しておくことが最低限のミッション。第1シードはボボノフ。有力選手だらけだがV候補はこの2人に、ベカ・グヴィニアシヴィリ(ジョージア)、ママダリ・メフディエフ(アゼルバイジャン)ら。ひときわ注目は階級を上げても存在感抜群のクリスティアン・パルラーティ(イタリア)。

【100kg級】
これも豪華階級。シード上位はトマ・ニキフォロフ(ベルギー)、ペテル・パルチク(イスラエル)と手堅いが、Bシード、ノーシードにストーリーのある面白い選手がずらり揃った。ひときわ注目は90kg級世界王者ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)。GPポルトガルでの100kg級初戦は惨敗に終わったが、今回はどのような試合を見せてくれるか。1戦勝つと、「大巨人」ウムザファルベク・ツロボエフ(ウズベキスタン)との実に魅力的なカードが待っている。飯田健太郎はウォン・ジョンフン(韓国)、シメオン・カタリナ(オランダ)、マイケル・コレル(オランダ)と順に対戦。今回は優勝必須、もっか国際大会の出場を1人独占する中今回も失敗するようだと、厳しい評価の矛先は本人のみならず強化サイドに向けられることになる。

【100kg超級】
出場者のレベルは高くなく、影浦心が頭1つ抜けた優勝候補筆頭。準決勝では世界選手権で苦戦したマルティ・プーマライネン(フィンランド)と対戦予定だが、本来の実力差に「飛ぶと派手」なこの選手の属性を考えれば、問われるべきは結果ではなく勝ち方。決勝のキム・ミンジョン(韓国)戦のみが評価の対象と言っていいだろう。キムはGSポルトガルで素晴らしいパフォーマンスを披露したばかり、しかも影浦の課題である担ぎ技ファイターである。注目したい

女子

【48kg級】
エントリー16名。シリーヌ・ブクリ(フランス)が突如エントリー取り消しで、世界選手権代表選考に値するレベルの強豪はゼロ。見どころは準決勝の角田夏実―古賀若菜の日本人対決に限られる。

【52kg級】
東京五輪銀メダルのアモンディーヌ・ブシャー(フランス)に銅メダルのチェルシー・ジャイルス(イギリス)、東京五輪48kg級金メダリストのディストリア・クラスニキ(コソボ)、昨年のブダペスト世界選手権を制している志々目愛と、スターがずらり。この4人の直接対決に注目である。ベスト8のジュイルス-クラスニキのパワー対決は楽しみのひとこと。

【57kg級】
52kg級と並ぶ女子屈指の豪華階級。ひときわ注目はサハ=レオニー・シジク(フランス)と、GPポルトガルでキャリアハイ時に近い出来を披露したリオ五輪金メダリスト、ラファエラ・シウバ(ブラジル)。ファイザ・モクダ(フランス)に、プリシラ・ネト(フランス)と脇を固める陣容も厚い。玉置桃はシウバ、モクダ、レン・チェンリン(台湾)の潰し合いの勝者を準々決勝で待ち受ける。舟久保遥香は準々決勝、「韓国背負い」の羽根をもがれたユリア・コヴァルツィク(ポーランド)戦が最初の山場。

【63kg級】
キャサリン・ブーシェミン=ピナード(カナダ)を筆頭に実績ある有力選手、あるいは70kg級から移ったジェンマ・ハウエル(イギリス)ら話題枠の選手はいるのだが、スター級はいない。鍋倉那美と土井雅子の日本人決勝実現の可能性が極めて高い。というよりも、強化視点から言えばもはやそうでなければいけない陣容。期待したい。

【70kg級】
昨年4月の全日本選抜体重別選手権以降「ぶっちぎり」と言っていいパフォーマンスを披露している新添左季が最注目選手。国際大会派遣が少ないゆえノーシード、2試合目にマリア・ポルテラ(ブラジル)戦が組まれたが、大きく見て組み合わせにも恵まれたと言える。圧勝してパリ五輪最有力候補に名乗りをあげる大会となって欲しい。大野陽子は第4シード配置、準々決勝でマルゴ・ピノ(フランス)、準決勝では昨年世界選手権決勝で苦杯を喫したバルバラ・マティッチ(クロアチア)戦が待ち受ける。

【78kg級】
第1シードのマドレーヌ・マロンガ(フランス)がV候補筆頭。4つのプールにそれぞれこれぞの勝ちあがり候補が配され、そしてどのプールでも78kg級らしい「撃ち合い」が予見される非常にわかりやすい階級。梅木真美は準決勝のマロンガ戦、髙山莉加は準々決勝のファニー=エステル・ポスヴィト(フランス)戦が山場。

【78kg超級】
シード順にベアトリス・ソウザ(ブラジル)、ホマーヌ・ディッコ(フランス)、ニヘル・シェイフ=ルーフー(チュニジア)、レア・フォンテーヌ(フランス)と、実績はもちろん柔道自体が面白い、実にキャラの立った選手が揃った。ソウザ、ディッコ、シェイフ=ルーフーは柔道頭が良く、決まり技という出口はもちろんのこと試合のプロセスが極めて面白い。ブダペスト世界選手権銀メダリスト冨田若春はこの中では実績的な到達点はナンバーワンクラスだが、こういった部分での存在感はまだまだ。勝利はもちろん、柔道のキャラ立ちでも面白いところをぜひ見せて欲しい。2試合目(準々決勝)でソウザに勝利し、決勝に進むまでは既定路線。ディッコに挑戦する決勝が見ものだ。

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