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【東京世界柔道選手権2019特集】3連覇狙う阿部一二三と「天敵」丸山城志郎の日本人対決が目玉・男子66kg級概況×有力選手

階級概況

東京世界柔道選手権2019、男子66kg級実力推測マップ
男子66kg級実力推測マップ。丸山と阿部の力が抜けている。
阿部一二三 ABE Hifumi(JPN)
3連覇を狙う阿部一二三

現役世界王者の阿部一二三(日本体育大4年)と、もっかその阿部に2連勝中の丸山城志郎(ミキハウス)のライバル対決が最大の見どころ。両者の力は図抜けており、海外選手に遅れを取ることはまずないはずだ。本来ならば2015年世界選手権王者のアン・バウル(韓国)がこのグループに加わるところだが、アンは昨年徴兵免除に関する書類の偽造を犯して6ヶ月間の謹慎から明けたばかり。7月のグランプリ・ザグレブでは試合場に姿を現さないまま不戦敗となっており、好不調はおろか実際に出場できるのかすら怪しい状況だ。この段階ではあくまでもトップグループの1人と考えておくべきだろう。

デニス・ヴィエル VIERU Denis (MDA)
今季ツアー上半期の主役、デニス・ヴィエル

ほか、上位進出が有力視されるのは、2月のグランドスラム・パリを皮切りに今年に入って既に4大会で優勝を飾っているデニス・ヴィエル(モルドバ)。二本持って柔らかく動く伸びやかな柔道スタイルと技の連携の良さ、そして技自体の切れ味で勝ちを重ねるという海外勢にはちょっと珍しいタイプ。もし日本の若手であれば「伸びしろ十分」と絶賛されるであろう型の選手である。線が細く安定感にこそ欠けるものの、勢いも含めれば海外勢のなかでは頭1つ抜けた存在。阿部と丸山の存在がある以上優勝は難しいが、メダル候補としては阿部、丸山、アンに続く4番手と考えてよいだろう。以降はヴァジャ・マルグヴェラシヴィリ(ジョージア)、ゲオルギー・ザンタライア(ウクライナ)ら第2グループの選手たちが続く。とはいえ、本階級は上位から下位までの力の差が小さく、表彰台争いに関しては第3グループまで含めた全員が権利者。トップグループにベテラン選手が多いこともあり、60kg級と同様今大会で一気に上位陣の顔ぶれが入れ替わる可能性もある。調子を上げてきている若手の多くは第2グループに属しており、なかでもマニュエル・ロンバルド(イタリア)、イェルラン・セリクジャノフ(カザフスタン)、ヨンドンペレンレイ・バスフー(モンゴル)には注目しておきたい。

丸山城志郎 MARUYAMA Joshiro (JPN)
もっか絶好調の丸山城志郎

ロンドン-リオ期も含めて、実はこの66kg級は全体的なレベルが高いとは言い難かった面がある。日本に海老沼匡というエース級のスターがいたことと、加えてそれこそザンタライアやダヴァドルジ・ツムルフレグ(モンゴル)ら少数の強豪たちのキャラクターの濃さが全体的な層の薄さを糊塗していたわけだが、リオ五輪後は加齢もあってその強豪たちが低落。階級を上げた海老沼に加えて2015年大会の覇者アンまで不祥事で抜け、とってかわる新興勢力もあくまで中堅クラスに留まるという停滞期に入った。その中で日本が送り込んだ若きスター・阿部が勝ちに勝ちまくって「阿部一強」時代を作り上げたわけだが、ここに来てようやくヴィエルらレベルの高い新興勢力が台頭し、核弾頭的な技の破壊力を持ち阿部にも相性の良い丸山という新スター候補も登場した。今年は久々訪れた階級勢力図の改変期である。来年の東京五輪がやはり「日本勢の狩場」的な構造で始まるのか、油断のならぬ層が形成されるのか。そしてなにより王国・日本の一番手は誰になるのか。非常に面白い年である。

2019年全日本選抜柔道体重別選手権66kg級決勝、阿部一二三対丸山城志郎
阿部と丸山の対決に注目。写真は4月の全日本選抜体重別時

阿部と丸山について。昨年11月のグランドスラム大阪決勝と今年4月の全日本選抜体重別選手権決勝ともに、丸山がGS延長戦での巴投「技有」で勝利している。選抜体重別では阿部が異常な気力を振るって大技を仕掛けまくること形上は大熱戦となったが、試合内容を見る限り、技術的な相性でも、そして力的にも丸山の方が上と見る。ただし、2度(2015年講道館杯も含めるならば3度)丸山に同じ敗れ方をしている阿部が、何の準備をせずに今大会に臨むとは考えがたい。選抜体重別では大枠「勇を鼓すこと」で力関係を乗り越えようとした(小外刈という新兵器の投入は見られたが)阿部だが、今回は具体的な打開策を持ち込んでくるはず。それがなんであるかが、第1の注目ポイントだ。一方、丸山の側もここが既に世界を2度制している阿部との序列をひっくり返す最後のチャンスであり、相当な覚悟と準備をして試合場に現れるものと予想される。再びの熱戦、まことに楽しみである。

なお、阿部は最後に出場した昨年2月のグランドスラム・パリにおいて格下のロンバルドに肩車で「技有」2つを奪われて敗れており、これは昨年来の課題であった技術的閉塞(詳しくはこちらの記事をご覧いただきたい)を突かれた結果と観察される、敗退後の国際大会出場は今回が初。果たして海外勢に対して以前のように圧倒的な試合を演じることができるのか、丸山との対決以前にまずはこの点に注目したい。守りまくる相手に一方的に持つことだけでは、なかなか取れない。観戦ポイントは、右相四つの相手にいかに釣り手を持ち、どんな作りを見せるかと、ケンカ四つの相手にどう引き手を得るかだ

有力選手

下記リンク「選手名鑑・男子66kg級(東京世界選手権2019特集)」を参照されたい。現時点では15名の選手の柔道の傾向、組み手、得意技、実績などを紹介している。(追加の場合あり)

シード予想

東京世界柔道選手権2019、男子66kg級シード予想
男子66kg級シード予想。丸山と阿部の対決は準決勝となるはず。
アン・バウル AN Baul (KOR)
ドローの焦点はアン・バウルの出場なるかとその位置

丸山城志郎(ミキハウス)が第2、阿部一二三(日本体育大4年)が第3シードに配され、両者は準決勝で対戦することとなる。シード選手を見る限りそれぞれの準々決勝の相手は、丸山がイェルラン・セリクジャノフ(カザフスタン)、阿部がタル・フリッカー(イスラエル)と、いずれも平均点の出来で勝利可能な相手。よほどのことがない限り躓くことはまず考えられない。ただし、アン・バウル(韓国)がシードから漏れており、この選手がどこに配されるかによって勝ち上がりの難易度は大きく変わることとなる。出来ればトーナメントの上側を引いてもらいたいところだ。

【プールA】
第1シード:ヴァジャ・マルグヴェラシヴィリ(ジョージア)
第8シード:ダニエル・カルグニン(ブラジル)

【プールB】
第4シード:バルチ・シュマイロフ(イスラエル)
第5シード:デニス・ヴィエル(モルドバ)

【プールC】
第2シード:丸山城志郎(ミキハウス)
第7シード:イェルラン・セリクジャノフ(カザフスタン)

【プールD】
第3シード:阿部一二三(日本体育大4年)
第6シード:タル・フリッカー(イスラエル)

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