【東京世界柔道選手権2019特集】総合力ナンバーワンはウルフ、イリアソフとの再戦濃厚の準決勝からが山場・男子100kg級直前展望
→東京世界柔道選手権2019組み合わせ(公式サイトippon.org内)
エントリーは62名。「概況×有力選手」で示した予想からの、シード選手配置の変更はなし。階級の概況や恒例の「実力推測マップ」はこの「概況×有力選手」、選手の特徴や得意技などの紹介は「有力選手(選手名鑑)」を参照されたい。
日本代表で優勝候補のウルフアロン(了徳寺大職)はシード予想のとおりプールCに配された。シードから漏れた強豪で優勝クラスの力を持つ選手は、アルマン・アダミアン(ロシア)がプールB、シャディー・エルナハス(カナダ)とニヤズ・イリアソフ(ロシア)がプールDに置かれている。
ウルフがBシード位置に座るプールCは比較的戦いやすいブロック。Aシード位置に現役世界王者のチョ・グハン(韓国)がいるものの、この選手は担ぎ技の連発による手数戦法を基本としており、これを超えるレベルの試合巧者でもあるウルフにとって戦いにくい相手ではない。2回戦で当たる位置に最近力をつけてきている本格派、ウルフと同じ「100kg級新世代」(※「概況×有力選手」記事参照)のゼリム・コツォイエフ(アゼルバイジャン)がいるが、この選手に対しても地力負けするようなことはないだろう。ベスト4進出まではほぼ確実と見る。
本当の勝負はここからである。準決勝には恐らくニヤズ・イリアソフ(ロシア)、決勝にはヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)かアルマン・アダミアン(ロシア)が勝ち上がってくる。イリアソフとアダミアンの若手ロシア勢2名は異常な怪力を柔道の中心に置く極端なパワーファイター。加えて自らの力を相手に正面から伝える術に長けており、非常に厄介な相手だ。地力でも階級トップクラスのウルフが、恐らく力負けしてしまう数少ない相手。事実、負傷明けで本調子ではなかったとはいえ、ウルフは昨年大会の準々決勝でイリアソフに敗れた来歴もある。技術や戦略、スタミナなどウルフが勝っているポイントは多いが、正面から組み合って投げて勝つ、というような戦い方をするのは困難だろう。一方、リパルテリアニは何度も戦っており、かつ日本にもよく稽古にきているよく知る相手。この選手が勝ち上がって来れば比較的戦いやすいと思われる。ただしこれは相手にとっても同じこと。今年2月のグランドスラム・パリ決勝でよくわかっているはずの払巻込を一発食って敗れており、今回も決して楽には勝たせてくれないだろう。いずれにしても優勝までの道のりはまことに過酷だ。とはいえ、総合的な力から予想する優勝候補はあくまでウルフ。ウルフは様々な武器を持っており、相手の短所に自らの長所をぶつけることも、相手の長所を自らの長所で塗り潰すこともできる。今大会でもその分析力と作戦立案能力の高さを見せつけてくれるはずだ。
有力選手の配置、各プールのひとこと展望は下記。
【プールA】
第1シード:ヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)
第8シード:ジョルジ・フォンセカ(ポルトガル)
有力選手:グリゴリ・ミナシキン(エストニア)、ズラトコ・クムリッチ(クロアチア)、ミクロス・サーイエニッチ(ハンガリー)、アレクサンドル・イディー(フランス)、レイズ・カヨル(カナダ)、ベンジャミン・フレッチャー(アイルランド)
上側の山の勝ち上がりの候補はヴァーラム・リパルテリアニ(ジョージア)。ただし、3回戦で対戦する位置には、近頃好調で今大会の伏兵候補でもある、アレクサンドル・イディー(フランス)が置かれている。両者はともにもと90kg級であり、過去の対戦成績はリパルテリアニの5勝2敗。さらに、階級変更後は3連勝している。このとおりであればまずリパルテリアニが勝利すると思われるが、イディ?が100kg級に完全に順応したと思われる今年に入ってからはまだ1度も対戦しておらず、アップセットの可能性もあるだろう。なお、イディーは1回戦でミクロス・サーイエニッチ(ハンガリー)と対戦予定となっており、これは必見の好カード。
一方、下側の山は比較的層が薄く、シード選手のジョルジ・フォンセカ(ポルトガル)の勝ち上がりが濃厚。3回戦で対戦する位置にはレイズ・カヨル(カナダ)とベンジャミン・フレッチャー(アイルランド)が置かれているが、いずれもフォンセカに勝利するのは厳しいだろう。
ベスト8のカードは順当ならばリパルテリアニ対フォンセカと予想するが、これはどちらが勝ってもおかしくない、面白い組み合わせ。常のフォンセカであればこのステージまでくると集中力が切れてくるのだが、今回は組み合わせ的にそれ程消耗していないと思われる。両者は2017年に1度対戦しており、その際は「技有」2つ対1つ(2017年は合技が廃止されていた)でフォンセカが勝利している。リパルテリアニの勝利と予想するが、フォンセカが勝ち上がる可能性も十分と言ってよいだろう。
【プールB】
第4シード:マイケル・コレル(オランダ)
第5シード:ルハグヴァスレン・オトゴンバータル(モンゴル)
有力選手:ラウリン・ボーラー(オーストリア)、カール=リヒャード・フレイ(ドイツ)、ラファエル・ブザカリニ(ブラジル)、イワン・レマレンコ(UAE)、アルマン・アダミアン(ロシア)、エルマー・ガシモフ(アゼルバイジャン)、ダニエル・ムケテ(ベラルーシ)
上側の山からはマイケル・コレル(オランダ)の勝ち上がりが確実。対戦相手にこの選手に伍するような相手は置かれていない。なお、この上側の山には了徳寺大職のダニエル・ディチェフ(ブルガリア)、筑波大出身で日本在住のフセイン=シャー・シャー(パキスタン)がおり、こちらの戦いぶりにも注目したい。
対して下側の山はトーナメント最大の激戦区。世界大会のメダリスト4名に加えて優勝候補の一角であるアルマン・アダミアン(ロシア)、それ以外にもダニエル・ムケテ(ベラルーシ)など8枠に7名の有力選手が詰め込まれている。各組み合わせはトーナメント表をご確認いただきたいが、1回戦のルハグヴァスレン・オトゴンバータル(モンゴル)対カール=リヒャード・フレイ(ドイツ)、2回戦で組まれるであろうアルマン・アダミアン(ロシア)対ガシモフの2試合は必見。ベスト8を賭けた戦いはルハグヴァスレン対アダミアンになると思われるが、両者の過去の対戦成績は1勝1敗。ヨーロッパ選手権を制した勢いと若手の成長力を買って、今回はアダミアンの勝利と予想したい。
よって、ベスト8の組み合わせはコレル対アダミアン。柔道自体の強さはアダミアンに分があると思われるが、コレルは組み合わせに恵まれておりほとんど消耗せずに勝ち上がると思われる。正面からぶつかった場合の勝者はアダミアンだが、その消耗具合によってはコレルが勝ち上がると予想したい。
【プールC】
第2シード:チョ・グハン(韓国)
第7シード:ウルフアロン(了徳寺大職)
有力選手:ゼリム・コツォイエフ(アゼルバイジャン)、レアンドロ・ゴンサルヴェス(ブラジル)、イェフゲニース・ボロダフコ(ラトビア)
勝ち上がり候補はウルフアロン(了徳寺大職)。詳細な予想は本文を参照されたい。
【プールD】
第3シード:ペテル・パルチク(イスラエル)
第6シード:ラマダン・ダーウィッシュ(エジプト)
有力選手:ペテル・パルチク(イスラエル)、シャディー・エルナハス(カナダ)、ラマダン・ダーウィッシュ(エジプト)、シリル・マレ(フランス)、ヨアキム・ドファービー(スウェーデン)、ニヤズ・イリアソフ(ロシア)
上側の山からはシャディー・エルナハス(カナダ)の勝ち上がりを予想。2回戦でシード選手で組み手の左右の利く試合巧者ペテル・パルチク(イスラエル)と対戦するが、7月のグランプリ・ザグレブではエルナハスが勝利している。試合の上手さではパルチクが大きく勝るが、技の破壊力と勢いを買って、今回もエルナハス勝利と予想したい。
一方、下側の山の勝ち上がり候補はニヤズ・イリアソフ(ロシア)。3回戦ではラマダン・ダーウィッシュ(エジプト)とシリル・マレ(フランス)の勝者と対戦するが、マレはここのところあまり元気がなく、ここには恐らくダーウィッシュが勝ち上がってくる。この選手は極端な内股偏重のスタイルであり、裏投や小外掛の得意なイリアソフにとっては相当戦いやすい相手のはずだ。
ベスト8のエルナハス対イリアソフは、こちらもエルナハスが極端なクロスグリップ腰技系であることから、イリアソフ有利と予想したい。